2026.04.05:第110回 私の回顧録
機屋の仕事2
〜ECサイト構築〜
みなさん。こんにちは。
前回のコラムでは、機屋の仕事に関わるきっかけについてお話ししました。
退職後のご挨拶という何気ない行動から始まり、
コロナ禍という厳しい環境の中で、
「問屋を通さず、小売へ直接販売する」という新たな方向性が見えてきた流れです。
そしてその第一歩として、
テーラー開拓やサンプル作成、ホームページ制作といった、
“売るための準備”を整えていきました。
ここまでは、いわば土台づくりです。
しかし、土台ができると次に必ず出てくるのが、
「では、どう広げるのか?」という問いです。
今回のテーマは、まさにその次の一手。
**「ECサイトを活用した販売」**です。
リアル営業に加え、
オンラインでも販売できないか。
この発想は自然な流れでしたが、
実際に形にするとなると、
また別の課題と向き合うことになります。
今回は、その過程とリアルな結果についてお話ししていきます。
◾️ 「ネットで売れないか?」というシンプルな発想
きっかけは、とてもシンプルなものでした。
「この生地、ネットで売れないかな?」
機屋の社長から、そんな相談を受けました。
テーラーへの営業は進めていましたが、
それだけでは広がりに限界があります。
一方で、世の中ではすでにネット通販が当たり前になっていました。
であれば、
生地もネットで販売できるのではないか
この発想は、ごく自然なものでした。
ただし、シンプルな発想ほど、
実現には多くの壁があります。
◾️ 「できるかどうか」ではなく「どうやるか」
この時点で重要なのは、
「できるかどうか」ではありません。
**「どうやるか」**です。
ECサイトを作るというと、
専門的な知識やシステム開発が必要だと思われがちです。
しかし現実には、
そこまで大掛かりなものを最初から作る必要はありません。
むしろ重要なのは、
**“早く形にして試すこと”**です。
この考え方は、これまでの営業経験からも強く感じていました。
◾️ 自前開発という選択肢の難しさ
当然、ゼロからシステムを作るという選択肢もあります。
しかし、ここで冷静に考えました。
・ システム開発のスキルがない
・ 時間もかかる
・ コストもかかる
・ 運用負荷も大きい
これでは、スタートラインに立つまでに時間がかかりすぎます。
この段階で重要なのは、
完璧な仕組みではなく、動く仕組みです。
そこで選んだのが、
既存のサービスを活用する方法でした。
◾️ CMSという現実的な選択肢
そこで活用することにしたのが、
CMS(Contents Management System)です。
CMSを使えば、
専門的なプログラミング知識がなくても、
ある程度のECサイトを構築できます。
これは非常に大きなメリットでした。
・ 初期構築が早い
・ 運用が簡単
・ コストが抑えられる
つまり、
「まずやってみる」に最適な手段です。
◾️ 3つの候補を比較検討
具体的に検討したのが、以下の3つです。
・ BASE
・ Shopify
・ STORES
それぞれに特徴があります。
デザイン性、費用、操作性、拡張性——
どれを重視するかによって選択は変わります。
この時は、
「スピード」と「使いやすさ」を重視しました。
◾️ 最終的に選んだ「STORES」という判断
最終的に選んだのは、STORESでした。
理由はシンプルです。
・ 操作が直感的
・ 初期設定が比較的簡単
・ コストバランスが良い
この段階では、
高度な機能よりも、
**“迷わず使えること”**を優先しました。
◾️ まずは「形にする」ことに集中
ECサイト構築で最も重要なのは、
最初の一歩です。
・ 商品登録
・ 価格設定
・ 画像準備
・ 説明文
一つひとつは地味な作業ですが、
これを積み重ねていくことで、
ようやく“売れる状態”になります。
ここで止まるケースは非常に多いですが、
とにかく形にすることを優先しました。
◾️ 既存顧客へのアプローチという現実的戦略
サイトができたからといって、
自然に売れるわけではありません。
そこで行ったのが、
既存取引先へのメール案内です。
これは非常に現実的な戦略です。
・ すでに関係性がある
・ 商品の理解がある
・ 信頼がある
ゼロから集客するより、
圧倒的に反応が得やすいのです。
◾️ 最初の反応は「手応えあり」
実際に案内を送ると、
予想以上に反応がありました。
中には、
10着分まとめて購入してくれた方もいました。
これは非常に大きな手応えでした。
「ネットでも売れる」
その可能性を実感できた瞬間でした。
◾️ しかし見えてきた“現実の数字”
ただし、冷静に見る必要があります。
本当の意味での“新規顧客”は、
全体の1割程度でした。
つまり、
ほとんどは既存顧客による購入です。
これは決して悪いことではありませんが、
EC単体での集客の難しさも同時に見えてきました。
◾️ 継続運用の難しさという課題
さらに大きな課題が、
継続運用でした。
他の業務が忙しくなると、
どうしても優先順位が下がります。
・ 商品追加
・ 在庫更新
・ 情報発信
これらを継続することが、
想像以上に難しい。
結果として、
数ヶ月後には更新が止まり、
ほぼ休眠状態となりました。
◾️ それでも動き続ける「小さな流れ」
しかし完全に止まったわけではありません。
時々、注文が入る。
これは非常に興味深い現象でした。
つまり、
一度作った仕組みは、完全には止まらない
小さくても、流れは残る。
これはECの大きな特徴の一つです。
◾️ 在庫消化という現実的な成果
掲載した商品の約6割は消化しました。
これは決して小さな成果ではありません。
・ 在庫が動く
・ 現金化される
・ 流通が生まれる
ECは、
販売チャネルとして確実に機能していたのです。
◾️ CMSのメリットと限界
実際に使って感じたのは、
CMSの利便性です。
・ 更新が簡単
・ 管理がしやすい
・ 専門知識が不要
これは非常に大きなメリットでした。
一方で、
完全オリジナルのデザインは難しく、
テンプレートの制約があります。
つまり、
手軽さと自由度はトレードオフです。
◾️ 決済機能がもたらす“販売の加速”
もう一つ大きかったのが、
決済機能です。
・ クレジットカード
・ 各種決済手段
これがあることで、
購入のハードルは一気に下がります。
これは、リアル営業にはない強みです。
「その場で買える」
この仕組みが、
販売のスピードを大きく変えます。
◾️ まとめ
今回の取り組みを通して、強く感じたことがあります。
それは——
仕組みは、作ることが目的ではない
ということです。
ECサイトを作ること自体は、
今の時代それほど難しいことではありません。
しかし、
・ 運用する
・ 更新する
・ 育てる
ここまでやって初めて、
ビジネスとして成立します。
そしてもう一つ重要なのは、
**「小さくても動く仕組みを持つこと」**です。
今回のECは、
大成功ではありませんでした。
しかし、
・在庫が動いた
・新しい販売経路ができた
・仕組みが残った
これは確実な前進です。
ビジネスは、
一度の大成功で成り立つものではありません。
小さな試行錯誤の積み重ねが、
やがて大きな流れになります。
そしてその第一歩は、
いつも「まずやってみる」ことから始まります。
今回のECサイト構築は、
まさにその実例でした。
◾️ 次回予告
次回は、さらに一歩踏み込んだ、
機屋としての“究極の取り組み”についてお話しします。
これまでの経験がどのように活かされ、
どのような発想につながっていったのか。
一つの仕事にフォーカスしながら、
より深く、そのリアルをお伝えしていきます。
ぜひ、次回も楽しみにしていてください。