2026.03.17:第91回 私の回顧録
グループ企業
〜リアルな仕入れの現場15〜
みなさん。こんにちは。
前回のコラムでは、スーツそのものではなく、オーダースーツ店で販売する「シャツ生地」の仕入れについてお話ししました。
また、前々回はスーツの縫製工場における付属品の仕入れについてもお伝えしました。
こうして振り返ると、スーツ一着の裏側には、
生地・付属・縫製といったさまざまな工程と、それぞれの仕入れがあることが見えてきます。
そして今回は、その流れの延長線上にあるお話です。
縫製工場の「営業」を手伝うことになった経験について、お話ししたいと思います。
◾️ 工場営業を手伝うことになった理由
そもそも、なぜ私が工場の営業を手伝うことになったのか。
理由はとてもシンプルでした。
その縫製工場は地方にあり、
直接受注先へ営業に行くことが難しい環境にありました。
一方で私は、東京・神田に拠点があり、地理的にも動きやすい立場でした。
そのため、
「営業の部分を少し手伝ってほしい」
という話になり、関わることになったのです。
◾️ 本来、工場は営業をしない
一般的に縫製工場は、積極的に営業をする存在ではありません。
というのも、多くの場合、
・ 既存の取引先(テーラー)
・ 長年の関係性
の中で仕事が回っているためです。
日々のやり取りも、
・ 受注
・ 納期確認
・ 仕様確認
といった実務的なものが中心です。
つまり、営業らしい営業をする機会はそれほど多くないのです。
〜営業が必要になる場面〜
ただし、例外もあります。
それが、チェーン店などの大口取引先です。
複数店舗を持つ企業の場合、受注量が大きく、
工場にとっても重要な取引先となります。
こうした相手には、
・ 工賃の見直し
・ 条件交渉
・ 生産体制の相談
といった場面で、営業的な対応が必要になります。
そのタイミングで、私も同行することになりました。
◾️ 最初の訪問先は急成長企業
最初に訪問したのは、あるオーダースーツのチェーン店でした。
この会社は、設立自体は新しかったのですが、
非常に勢いがあり、急成長している企業でした。
実はこの会社、
もともと同じ会社にいた人が転職して在籍していたことがきっかけで、
工場との取引が始まった先でした。
まさに「人の縁」から始まった取引です。
〜人のつながりが生む取引〜
この業界では本当に多いのですが、
取引のきっかけは「人」であることが非常に多いです。
今回のケースも、
・元同僚の紹介
・信頼関係
があったからこそ、口座開設につながりました。
改めて、人とのつながりの大切さを感じる場面でした。
◾️ 工場側からのアプローチ
その会社は受注量の増加が見込めたため、
工場側からも積極的にアプローチを行いました。
新しい会社ではありましたが、
・ 成長性
・ 販売力
・ 将来性
を考えると、十分に魅力的な取引先だったのです。
◾️ 国内生産だけでは足りない状況
しかし、その会社はさらに成長していきました。
受注量が増え続けた結果、
国内の縫製だけでは対応しきれない状況になっていきました。
そこで出てきたのが、
海外生産の検討
です。
〜テーラー向けイベントでの出会い〜
ちょうどその頃、工場はテーラー向けのイベントに参加していました。
その場に、その会社の方を招待することになりました。
そして、そこで話が進みます。
「中国の合弁工場を紹介できる」
という流れになったのです。
◾️ 北京の工場へ同行
その話を受けて、私は
・ 社長
・ 担当責任者
とともに、北京の工場へ同行することになりました。
現地の工場を実際に見ることで、
・ 生産能力
・ 品質
・ 体制
を確認していただくためです。
〜現地での思わぬ動き〜
現地でのやり取りの中で、少し面白い出来事がありました。
先方から、
「せっかくだから」
という形で、
弊社を通して生地を購入していただく
という流れになったのです。
いわば、お駄賃のような形でしたが、
こうした柔軟なやり取りも現場ならではのものだと感じました。
◾️ 取引のその後
その後、この会社との取引は数年間続きました。
しかし、最終的には、
コストの問題から海外生産へシフト
していきました。
そして、私が会社を離れる頃には、
その取引はほとんどなくなっていました。
◾️ 工場案内という営業の形
この会社以外にも、
・ 新たにシャツ縫製を始めたい企業
・ 新規で取引を検討している企業
などに対して、
工場の案内を行うこともありました。
実際に現場を見てもらうことは、
何よりも説得力のある営業になります。
〜仕様打ち合わせの重要性〜
また、単なる案内だけでなく、
・ 仕様の確認
・ 縫製のレベル感
・ 対応可能な範囲
といった打ち合わせにも同席しました。
スーツやシャツは、細かな仕様の積み重ねで品質が決まります。
そのため、こうした打ち合わせは非常に重要でした。
◾️ 生地のプロとしての役割
私はもともと生地の仕入れが専門でした。
そのため、営業の場では、
受注先が求めている生地の情報
を提供する役割も担っていました。
例えば、
・ どんな素材が求められているか
・ どんな価格帯が適切か
・ トレンドは何か
といった情報です。
仕入れは、単に欲しい生地を選ぶだけではなく、
物流のバランスも考える必要があります。
〜バンチブック制作との連動〜
また、私は工場のバンチブック制作も担当していました。
そのため、
・現場の声
・営業の感触
・顧客のニーズ
をダイレクトに反映させることができました。
これは非常に大きなメリットでした。
◾️ 「売る側」を経験する意味
この経験で一番大きかったのは、
売る側の視点を持てたこと
です。
それまで私は、どちらかというと
「仕入れる側」
でした。
しかし営業を経験することで、
・ 相手が何を求めているか
・ どこに価値を感じているか
・ どこに不満があるか
が、よりリアルに見えるようになりました。
〜仕入れにも活きる経験〜
この経験は、仕入れの仕事にも大きく役立ちました。
なぜなら、
「売れる商品とは何か」
をより具体的に理解できるようになったからです。
仕入れは、単に安く買うことではなく、
売れるものを見極めることでもあります。
◾️ 店舗の課題が見えてくる
さらに、営業を通じて見えてきたのが、
オーダースーツ店側の課題でした。
・ 販売の難しさ
・ 在庫の問題
・ クレーム対応
など、店舗の現場で起きていることを、
より深く理解できるようになりました。
◾️ 工場営業で得た学び
こうして振り返ると、工場営業の経験は
非常に学びの多い時間でした。
・ 仕入れ
・ 販売
・ 製造
それぞれの立場をつなぐ役割を経験できたことは、
その後の仕事にも大きく影響しています。
◾️ 今回のまとめ
今回は、縫製工場の営業を手伝った経験についてお話ししました。
仕入れだけでなく、営業にも関わることで、
ものづくりの流れをより立体的に理解することができました。
現場に近づけば近づくほど、
見えてくる景色は変わっていきます。
◾️ 次回予告
次回は、さらに視点を変えて、
オーダースーツの店舗との関わり
についてお話ししたいと思います。
現場の最前線である店舗。
そこではどんな課題があり、どんな工夫がされているのか。
次回も、ぜひ楽しみにしていてください。