2026.03.16:第90回 私の回顧録
グループ企業
〜リアルな仕入れの現場14〜
みなさん。こんにちは。
前回のコラムでは、服地そのものではなく、スーツを構成する「付属品」の仕入れについてお話ししました。
ボタンや裏地など、普段あまり意識されない存在ですが、スーツづくりには欠かせない重要な要素であり、価格構造にも深く関わっていることをお伝えしました。
スーツというのは、生地・縫製・付属品がバランスよく組み合わさって初めて完成するものです。
そして、その裏側には多くの仕入れの現場があります。
さて、今回のテーマは少し視点を変えて、シャツ生地の仕入れについてお話ししたいと思います。
〜スーツと並ぶもう一つの柱、オーダーシャツ〜
グループのオーダースーツチェーンでは、スーツだけではなく、オーダーシャツも取り扱っていました。
スーツを作るお客様の多くは、シャツも同時に注文されます。
そのため、スーツとシャツは自然とセットの提案になることが多く、店舗にとっても重要な商品でした。
当然ながら、シャツにも多くの生地が必要になります。
そしてその生地には、スーツ生地とはまた違う世界が広がっていました。
◾️ シャツ生地には専任の担当者がいた
実は、シャツ生地の仕入れには、すでに担当者がいました。
ですから、私が全面的に担当していたわけではありません。
ただし、ある部分だけ、私が関わることになりました。
それが、インポートシャツ生地の仕入れです。
スーツ生地の仕入れを担当していた関係もあり、海外生地の取引については私がサポートする形になりました。
◾️ シャツ生地の国内産地
まず、日本のシャツ生地の産地について少し触れておきたいと思います。
シャツ生地の産地として有名なのが、**播州織(ばんしゅうおり)**です。
兵庫県の西脇市周辺で生産される織物で、特に
・ ドビー
・ ギンガム
・ ストライプ
などの先染め生地に強みがあります。
先染めというのは、糸の段階で染色し、その糸を使って織る方法です。
そのため柄の表情が美しく、シャツ生地として非常に高い評価を受けています。
〜もう一つ有名なのが、**遠州織物(えんしゅうおりもの)**です。〜
静岡県の浜松市周辺を中心とした産地で、こちらも古くから繊維産業が盛んな地域です。
遠州織物は、特に高品質な綿素材で知られており、柔らかな風合いや丁寧な織りが特徴です。
日本のシャツ生地は、このような産地によって支えられてきました。
◾️ 世界最大規模の中国シャツ生地メーカー
海外に目を向けると、もう一つ大きな存在があります。
それが、中国の Lu Thai Textile(魯泰紡織) です。
中国山東省に拠点を置く企業で、世界最大規模の先染めシャツ生地メーカーとして知られています。
品質・生産量ともに非常に高いレベルを誇り、世界中のブランドがこの会社の生地を使用しています。
◾️ ヨーロッパの名門シャツ生地メーカー
そして忘れてはならないのが、ヨーロッパのシャツ生地メーカーです。
イタリアやスイスなどには、長い歴史を持つ名門メーカーが数多く存在します。
織りの美しさ、仕上げの滑らかさ、そして色柄のセンス。
ヨーロッパのシャツ生地には、やはり独特の魅力があります。
◾️ 国内のシャツ地問屋からの仕入れ
国内のシャツ生地は、多くの場合、シャツ地専業の問屋から仕入れていました。
こうした問屋は、播州織や遠州織などの国内生地を中心に扱っています。
そして時には、
・ 中国の魯泰
・ ヨーロッパのブランド生地
などの現物生地を持ってくることもありました。
いわゆる「出物」です。
〜出物生地という仕入れ〜
出物というのは、簡単に言えばスポット商品です。
例えば、
・在庫処分
・生産余剰
・企画変更
などの理由で、市場に出てくる生地です。
良い商品が出ることもありますが、安定供給が難しいという特徴があります。
◾️ 安定供給の難しさ
ヨーロッパのシャツ生地メーカーの生地は魅力的でしたが、
国内の問屋経由では安定的に仕入れることが難しい状況でした。
そこで、インポート生地の仕入れについて、私が手伝うことになったのです。
〜JITACの代理店からの仕入れ〜
仕入れ先として選んだのが、JITACの会員である代理店でした。
一つは、すでに口座があった会社。
もう一つは、知り合いのメーカーから紹介していただいた代理店です。
こうして、ヨーロッパのシャツ生地を代理店経由で仕入れるルートが整いました。
◾️ ストックサービスという仕組み
仕入れ方法として利用したのが、ストックサービスでした。
これは、インポート生地メーカーが自社の生地をあらかじめ在庫し、
必要な時に必要な分だけ出荷する
という仕組みです。
小ロットで仕入れができるため、日本のオーダーシャツには非常に相性の良いサービスでした。
〜インポートシャツ生地の規格〜
インポートシャツ生地は、規格もある程度決まっています。
生地幅は、だいたい
58インチ(約148cm)
反物の長さは
60m程度
というものが多かったように思います。
◾️ スワッチを見ながら選ぶ生地
ストックサービスには、**スワッチ(生地サンプル)**があります。
そのサンプルを見ながら、発注する商品を選びます。
定番商品だけでなく、
・ トレンド商品
・ シーズン商品
・ リネン素材
なども含まれているため、それぞれの特性を考えながらピックアップしていきました。
◾️ 実際の発注の流れ
発注の流れは、スーツ生地とほぼ同じです。
まず代理店に発注書を送ります。
代理店はそれをメーカーへ送付し、
メーカーから
・ 出荷可能数量
・ 単価
・ 送金金額
などの情報が届きます。
在庫がない場合は、生産上がりの納期も連絡されます。
〜在庫があればすぐに届く〜
在庫がある場合は、送金を行えば
およそ1週間程度で入荷しました。
ただし在庫がない場合は、生産を待つ必要があります。
その場合、シーズン商品などは、
仕入れ自体を見送ることもありました。
◾️ 輸送コストとミニマムロット
輸送コストも重要なポイントでした。
当然ですが、輸送量が多いほどコストは圧縮されます。
そのため、ミニマムの発注量を決めていました。
仕入れは、単に欲しい生地を選ぶだけではなく、
物流のバランスも考える必要があります。
◾️ 工場の在庫を把握する難しさ
私が発注を担当していましたが、ひとつ問題がありました。
それは、工場の在庫状況を完全に把握することが難しいという点です。
そのため、何度か縫製工場へ出張し、実際の状況を確認しました。
◾️ 仕入れ業務を工場へ引き継ぐ
最終的には、工場の担当者に任せる形にしました。
ただし、単に任せるだけではありません。
発注の流れや考え方を、時間をかけて伝えていきました。
仕入れというのは、経験が重要な仕事だからです。
◾️ 為替というもう一つのリスク
インポート生地には、もう一つ大きな問題があります。
それは、為替です。
海外生地の場合、仕入れた段階で最終単価が完全に確定するわけではありません。
ある程度の為替変動を見込んで価格設定はしますが、
大きく動くと販売価格を見直す必要が出てきます。
〜それでもストックサービスは便利だった〜
とはいえ、ストックサービスには大きなメリットがありました。
それは、必要な時に追加仕入れができることです。
在庫を大量に抱える必要がないため、オーダーシャツのビジネスにはとても相性が良かったと思います。
◾️ 工場の仕入れの仕事は、引き継いでいくもの
こうしてシャツ生地の仕入れについても、徐々に工場側へ引き継いでいきました。
仕入れという仕事は、誰か一人がずっと抱えるものではありません。
現場の人が理解し、運用できる形にしていくことも、重要な役割だと思っています。
◾️ 今回のまとめ
今回は、グループ企業の中で関わった
シャツ生地の仕入れについてお話ししました。
スーツ生地とはまた違う世界があり、
そこには産地、代理店、為替、物流など、さまざまな要素が絡み合っています。
仕入れの仕事というのは、単に商品を買うだけではなく、
こうした背景を理解しながらバランスを取っていく仕事なのだと、改めて感じた出来事でした。
◾️ 次回予告
さて次回は、少し視点を変えて、
グループ企業の縫製工場の営業の話
についてお話ししたいと思います。
工場は、ただ縫うだけではありません。
そこには営業というもう一つの重要な役割があります。
普段あまり知られることのない、工場営業の世界。
次回もぜひ楽しみにしていてください。