2026.03.18:第92回 私の回顧録
グループ企業
〜リアルな仕入れの現場16〜
みなさん。こんにちは。
前回のコラムでは、縫製工場の「営業」を手伝うことになった経緯についてお話ししました。
工場という本来は“作る側”の立場から、“売る側”に近い動きを経験したことで、これまで見えていなかった視点に触れることができました。
そして今回は、その流れの延長線として、オーダースーツの「店舗」との関わりについてお話ししたいと思います。
仕入れという立場でありながら、最前線である店舗とどう向き合い、何を感じてきたのか。
現場のリアルを、少し情感を込めてお届けできればと思います。
◾️ 店舗という“最前線”の存在
オーダースーツにおいて、店舗はまさに最前線です。
お客様と直接向き合い、提案し、採寸し、一着を完成へと導いていく場所。
どれだけ良い生地を用意しても、どれだけ工場の品質が高くても、
最終的な評価はすべてこの“店舗”で決まります。
だからこそ、仕入れの立場であっても、店舗の状況を理解することは欠かせませんでした。
◾️ 仕入れ担当としての立ち位置
私自身は、グループのオーダースーツ店の仕入れを任されていました。
当然ながら、単に生地を調達するだけではなく、店舗の動きや販売状況も把握する必要がありました。
そのため、定期的に店舗を訪問し、現場の声を直接聞くようにしていました。
また、月に一度の会議では店長と顔を合わせ、意見交換を行う機会もありました。
〜人でつながる現場〜
さらに、納涼会などの場を通じて、近郊店舗のスタッフとも自然と顔見知りになっていきました。
多くのスタッフは、もともと同じ会社にいた人たち。
ただ、その一方で、新しく加わったスタッフや店長も徐々に増えていきました。
組織が変わる中で、人も変わる。
その変化の中で、現場の空気も少しずつ変わっていくのを感じていました。
◾️ 手探りで始まった店舗理解
とはいえ、私自身はその会社の店舗運営について、ほとんど知識がありませんでした。
ルールも文化もわからない。
そんな状態からのスタートでした。
そこで頼りになったのが、長くその会社に在籍していた店長の存在でした。
〜信頼できる“案内役”との出会い〜
その店長は、偶然にも私の弟と高校の同級生。
以前から面識もあり、自然と相談できる関係でした。
彼の店舗は、私の勤務先から徒歩圏内。
その距離感もあり、何度も足を運び、現場の話を聞かせてもらいました。
◾️ 不安の中にあった2011年
最初に話を聞いたのは、2011年8月。
まだ体制が固まりきっていない時期でした。
彼自身も、「これからどうなるのか分からない」という不安を抱えていたように感じます。
それでも、現場は動き続ける。
その中で、少しずつ状況を共有しながら、理解を深めていきました。
〜時間を超えて続く関係〜
私は2020年に退社しましたが、彼は今もその会社に在籍しています。
今でも近くに行った際には、ふらっと店舗に立ち寄ることがあります。
当時のことを思い出しながら、少し言葉を交わす。
そんな関係が続いています。
◾️ 同志のような感覚
また、当時から在籍している店長たちとは、
課題を共有し、何度も話し合いを重ねてきました。
その積み重ねの中で、自然と「同志」のような感覚が生まれていきました。
仕入れと店舗。立場は違っても、同じ方向を見ている。
そんな関係性でした。
◾️ オープン準備
店舗開発自体は担当ではありませんでしたが、
グループ最初の店舗のオープン準備には関わりました。
店長と約4日間、準備を進めたあの時間。
小売時代の感覚がよみがえり、どこか懐かしさを感じました。
「現場に立つ」ということの重みを、改めて実感した瞬間でした。
◾️ バイヤーは“裏方の要”
オーダースーツにおけるバイヤーは、あくまで裏方です。
表に立つのは店舗。
私たちは、その後ろでどう支えるかが役割です。
生地を揃えるだけではなく、
売れるための見せ方や情報提供も含めて、店舗を援護していく。
それが、仕入れの本質でした。
◾️ 店舗にとって最大のリスクとは
店舗にとって、最も避けたいもの。
それは「クレーム」です。
オーダースーツは、既製品と違い、人の手と判断が多く介在します。
だからこそ、ミスのリスクもゼロにはできません。
〜クレームの主な原因〜
現場でよく見られるクレームは、主に以下のようなものです。
・ 採寸ミスによるサイズ不良
・ 仕様の伝達ミス
・ 生地不良による作り直し
・ 納期遅れ
・ 在庫ミスによる販売トラブル
どれも、一つの小さなズレから発生します。
◾️ オーダー特有の難しさ
特に難しいのは、「イメージの共有」です。
採寸が正しくても、
お客様が思い描く“フィット感”とズレていれば、満足にはつながりません。
細身なのか、ゆったりなのか。
その微妙なニュアンスを共有する必要があります。
〜体型分類という基準〜
オーダースーツでは、体型を以下のように分類します。
Y体、YA体、A体、AB体、B体など。
これは、胸囲とウエストの差寸による区分です。
例えば、差寸が12cmの場合はA体となります。
ただし、これはあくまで基準。
実際には、個々の好みを踏まえた調整が必要です。
◾️ 「オーダー=完璧」という誤解
お客様の中には、
「オーダーだから完璧に合うはず」と思われる方も多くいます。
だからこそ、わずかなズレでも不満につながりやすい。
この期待値の高さが、オーダーの難しさでもあります。
〜クレーム対応が価値を決める〜
クレームはゼロにはできません。
重要なのは、その後の対応です。
誠実に向き合うことで、信頼に変わることもあります。
逆に、対応を誤れば、大きな問題に発展することもあります。
◾️ 仕入れ側の責任
もちろん、ミスは店舗だけの問題ではありません。
在庫管理の誤りや、工場のキャパオーバー。
仕入れ側の判断ミスが原因となることもあります。
その影響は、最終的に店舗とお客様に及びます。
〜「一着の重み」という気づき〜
その中で強く感じたことがあります。
それは、
一着のスーツの重みです。
お客様にとっては、特別な一着。
だからこそ、ミスは許されない。
◾️ 良い生地よりも大切なこと
もちろん、良い生地は重要です。
しかし、それ以上に大切なのは、
「確実に届けること」。
採寸、縫製、納期。
すべてが整って、初めて価値になります。
◾️ 難しさと魅力の共存
オーダースーツは、既製品よりも難しい。
でも、その分、
満足いただけた時の喜びは大きい。
一度信頼を得られれば、長く続く関係になる。
それが、この仕事の魅力でもあります。
◾️ 店舗を支えるという役割
仕入れの仕事は、単なる調達ではありません。
店舗が円滑に運営できるようにすること。
それも重要な役割です。
見えない部分で支える。
それが、私たちの仕事でした。
◾️ 今回のまとめ
今回は、オーダースーツ店舗の現場について、
その課題やリアルな状況をお伝えしました。
現場には、常に緊張感があります。
でも同時に、人の温度もある。
その両方を感じられる場所でした。
◾️ 次回予告
次回も引き続き、店舗との関わりについてお話しします。
さらに踏み込んだ「現場のリアル」をお届けできればと思います。
どうぞご期待ください。