2026.03.15:第89回 私の回顧録
グループ企業
〜リアルな仕入れの現場13〜
みなさん。こんにちは。
前回のコラムでは、「仕入先」というテーマの中でも、代理店という存在についてお話ししました。
海外のテキスタイルメーカーと国内のアパレル企業をつなぐ代理店。その存在があるからこそ、日本にいながら世界の生地を扱うことができるという、仕入れの世界の裏側について触れました。
生地というのは、オーダースーツにとってもちろん主役です。
しかし、実際に一着のスーツが完成するまでには、主役の生地だけではなく、多くの脇役たちが存在しています。
そして、その脇役たちもまた、仕入れの世界ではとても重要な存在です。
今回は、服地ではなく、スーツを構成する「付属品」の仕入れについてお話ししたいと思います。
◾️ スーツは「生地だけ」で出来ているわけではない
スーツというと、多くの方はまず生地を思い浮かべると思います。
確かに、生地はスーツの印象を決める大きな要素です。
しかし実際には、一着のスーツにはさまざまな付属品が使われています。
例えば、
・ 裏地
・ ボタン
・ 芯地
・ ポケットの袋地
・ 肩パッド
・ 毛芯
など、表からは見えない部分も含めると、多くの素材が組み合わさって一着のスーツが完成します。
つまりスーツというのは、生地だけでなく、多くの素材の集合体なのです。
◾️ 工場を持たないオーダースーツ店の現実
一般的に、工場を持たないオーダースーツ店の場合、縫製工場が用意している付属品を使うことが多くなります。
つまり、
「生地は店舗が用意」
「付属品は工場が用意」
という形が基本になります。
もちろん例外もあります。
例えば、お客様に選んでいただくオプション裏地や特別なボタンなどは、店舗側で用意して工場へ送ることもあります。
また、工場側もオプションとして、
・ 柄裏地
・ 高級ボタン
・ 特別な芯地
などを用意している場合もあります。
つまり、付属品というのは、店舗と工場の両方が関わる領域なのです。
◾️ 生地問屋時代からの付属品との付き合い
私自身、付属品の世界に初めて触れたわけではありませんでした。
というのも、もともと私は生地問屋に勤めており、その頃から裏地や芯地などの付属品も取り扱っていたからです。
生地問屋というと、生地だけを扱っているイメージを持たれる方も多いかもしれませんが、実際には、
・ 裏地
・ 芯地
・ ポケット地
など、スーツに必要な副資材も扱っていることが多いのです。
ですから、付属品メーカーや付属品商社との付き合いは、その頃からありました。
◾️ グループ企業での新しい役割
そんな中、グループ企業であるオーダースーツのチェーン店では、独自の裏地を揃えるという方針がありました。
つまり、
「工場任せではなく、グループとして付属品を整える」
という取り組みです。
さらに話はそれだけでは終わりませんでした。
縫製工場から、こんな話が出たのです。
「一般のテーラーさんにも見せられるような、付属品サンプルを作れないか」
そして、その担当を任されたのが、私でした。
◾️ 初めての付属品サンプル作り
もちろん、私にとっても初めての仕事でした。
生地の仕入れは長く経験していましたが、付属品をまとめて企画するという仕事は初めてだったのです。
ですから、まずは縫製工場としっかり連携を取りながら、どのような内容にするべきかを考えるところから始まりました。
〜定番を残しながら、変化をつける〜
この仕事の難しいところは、ただ付属品を揃えれば良いわけではないという点でした。
まず大前提として、
定番は残すこと。
縫製工場が長年使ってきた基本の付属品は、品質も安定していますし、コストも計算されています。
それを無理に変えてしまうと、現場に負担がかかってしまいます。
しかし一方で、オーダースーツの世界では、
選ぶ楽しさ
も大切です。
ですから、
・ 定番は残す
・ オプションで変化をつける
というバランスが必要でした。
〜自社だけでなく工場の顧客も意識する〜
さらに、このサンプル帳はグループのオーダースーツ店だけが使うものではありませんでした。
縫製工場には、他にも多くの顧客がいます。
つまり、
・ テーラー
・ オーダー専門店
・ 小売店
など、さまざまな企業がこの工場を利用していました。
そのため、このサンプル帳は
グループ企業だけでなく、工場の顧客にも使ってもらえる内容
にする必要がありました。
◾️ 製作冊数はどう決めるのか
サンプル帳を作る際、もう一つ重要なのが製作冊数です。
そのため、
「とりあえず多めに作る」
というわけにはいきません。
そこで工場側が取引先にヒアリングを行い、
「何冊必要か」
を確認しました。
その数字をもとに、製作数を決めるという流れになりました。
◾️ 仕入れ交渉は私の担当
そして、付属品の仕入れ交渉は、私が担当することになりました。
生地の仕入れは何年も経験していましたので、仕入先とのやり取りは私が行うのが自然だったからです。
しかし、この時私は、あることに驚くことになります。
〜生地とはまったく違う価格の世界〜
それは、単価の感覚でした。
生地の世界では、価格の交渉というのは
せいぜい「10円単位」
が基本です。
例えば、
1mあたり
2,580円
2,570円
というような世界です。
例えばボタンなどは、
何十銭
という単位で価格が動くのです。
〜「銭」で動く世界に驚く〜
正直に言うと、最初はかなり驚きました。
「この世界、銭単位なのか…」
と思ったのを覚えています。
もちろん発注単位は大きく、ミニマムロットは100個以上になるため、最終的な金額は1円未満にはなりません。
しかし交渉の世界では、
8.3円
8.4円
といった単位で話が進みます。
生地とは、まったく違う感覚の世界でした。
◾️ 縫製工場における付属品のコスト
縫製工場のコスト構造を見ると、付属品の割合は意外と大きく、
縫製工賃に対しておよそ15%〜20%程度と言われています。
ボタンや裏地、芯地などは一つ一つの単価は小さいものの、スーツ一着にはさまざまな付属品が使われるため、積み重なると決して小さくない金額になります。
普段は表から見えにくい部分ですが、縫製の現場ではこうした付属品も重要なコスト要素の一つになっています。
〜純工と属工という考え方〜
縫製の世界では、工賃を表す言葉として
**「純工」と「属工」**という言葉が使われます。
純工とは、純粋な縫製作業だけの工賃のこと。
いわば「縫う仕事そのものの価格」です。
それに対して属工とは、ボタンや裏地などの付属品のコストを含めた工賃を指します。
つまり構造としては、
純工 + 付属品 = 属工
という関係になります。
そして、この付属品部分がだいたい属工の15%〜20%程度になると言われています。
◾️ オプション付属で変わるコスト
もちろん、この数字は基本の付属品を使った場合の話です。
例えば、
・ 柄裏地
・ 水牛ボタン
などのオプションを選ぶと、付属品のコストは当然上がります。
オーダースーツでは、お客様がこうした付属品を選べる楽しさもあるため、選択内容によって価格が変わる仕組みになっています。
◾️ 生地とスーツ価格の関係
一方で、生地の割合を見てみると、これも興味深い数字があります。
オーダースーツの場合、生地代はスーツの販売価格に対しておよそ15%〜20%程度と言われています。
式で表すと、
属工 + 生地代 = スーツの売価
という構造になります。
こうして見てみると、
付属品も、生地も、それぞれ15%〜20%程度の割合でスーツの価格を構成していることになります。
スーツというのは、生地だけで出来ているわけではなく、
縫製・付属品・生地という要素がバランスよく組み合わさって、一着の価格が成り立っているのです。
◾️ もう一つの驚き
しかし、私が一番驚いたのは別のことでした。
それは、
付属品の仕入れ金額
です。
〜生地より大きかった付属品の仕入れ〜
当時、グループ企業のスーツの約50%は、その縫製工場に出していました。
工場は他にも多くの顧客を持っているため、単純な受注数では工場の方が多い状況でした。
しかし、総売上ではオーダースーツチェーン店の方が大きかったのです。
それなのに、
工場が一番仕入れていた付属品メーカーの仕入れ金額が
私たちのメインの生地仕入先より大きかった
のです。
◾️ 銭単位の取引が巨大になる理由
これは本当に驚きでした。
1円未満の単価で交渉している付属品メーカーが、
インポート生地を仕入れている大手の生地商社よりも取引額が大きい
のです。
〜付属品は「集中する市場」〜
この理由は、意外とシンプルです。
生地の場合、
・ このブランドはこの商社
・ あのブランドは別の商社
というように、仕入先が分散しています。
しかし付属品の世界では、
業者の数が少なく、大手に集中する
という特徴があります。
◾️ 基本付属を押さえた会社が強い
特に、
・基本ボタン
・基本裏地
といった定番付属を押さえている会社は、圧倒的な数量を扱います。
もちろん、すべての付属品をその会社が扱っているわけではありません。
特殊な付属品もあります。
しかし、それは言ってしまえば、
お刺身でいう「つま」
のようなものです。
◾️ 基本付属の激しい価格競争
スーツに必ず使う
・ ボタン
・ 裏地
といった付属品は、大量に動くため、
非常にシビアな価格競争
が起こります。
その世界では、
銭単位の交渉が日常です。
◾️ 主役ではないが欠かせない存在
付属品は、生地のように華やかな存在ではありません。
しかし、
一着のスーツを支えている重要な存在
です。
仕入れの世界を長く見てきて思うのは、
主役だけでは商売は成り立たない
ということです。
脇役がいてこそ、主役が輝くのです。
◾️ 次回予告
今回は、生地ではなく、付属品メーカーとの仕入れについてお話ししました。
普段あまり表に出ない世界ですが、スーツ作りの裏側には、こうした仕入れの現場があります。
次回は、グループ企業の中でももう一つの重要な工場、
オーダーシャツの縫製工場の生地仕入れ
についてお話ししたいと思います。
スーツとはまた違う、シャツならではの仕入れの世界があります。
次回も、ぜひ楽しみにしていてください。