2026.03.14:第88回 私の回顧録
グループ企業
〜リアルな仕入れの現場12〜
前回のコラムでは、「仕入先」というテーマの中でも
商社=コンバーターについてお話ししました。
商社は、大量に生地を仕入れ、
それをアパレルメーカーなどに供給する存在です。
羅紗屋とは販売の単位や取引の仕組みが異なり、
多くの場合、反物単位での取引になります。
また、生地の耳が付いていないケースが多いなど、
オーダースーツの世界とは少し違う流通構造があることもお話ししました。
仕入れの世界は、本当に多層的です。
機屋があり、羅紗屋があり、商社があり、
それぞれが違う役割を担っています。
そして今回お話しするのは、
もう一つの重要な存在です。
それが **「代理店」**です。
◾️ 欧州ブランドを扱う代理店という存在
今回ご紹介するのは、
欧州の高品質なテキスタイルメーカーの正規代理店です。
日本には、こうした代理店が集まる団体があります。
それが
**JITAC(ジタック)**です。
正式名称は
一般社団法人 JITAC (旧日本輸入繊維代理店協会)です。
欧州の一流テキスタイルメーカーの
正規代理店が加盟している団体です。
スーツ業界においても、
非常に重要な存在です。
◾️ 実は生地問屋時代から取引があった
私自身、この代理店の存在を知ったのは
グループ企業に入ってからではありません。
実は、生地問屋時代から取引がありました
。
さらに話を遡ると、それは私が入社するはるか前から続いていたご縁でした。
当時その会社には、いわゆる「番頭さん」と呼ばれる存在がいました。私に仕入れの仕事を教えてくれた方でもあります。
その番頭さんは、以前 別法人の貿易会社(代理店) に在籍していたそうです。そして、その会社で扱っていたのが、あるフランスのテキスタイルメーカーでした。
◾️ フランスのテキスタイルメーカーとの縁
そのフランスのメーカーは、ファンシーツイードを得意とするブランドで、
生地は あのシャネルにも素材を提供しているメーカーでした。
そのメーカーは、もともと番頭さんが在籍していた貿易会社が代理店契約を結んでいました。
そして番頭さんがその会社を離れる際に、別の代理店を紹介したそうです。
その結果、私たちの会社は、番頭さんが関わっていたメーカーの生地を、その方が紹介した代理店を通して仕入れることになりました。
こうして振り返ってみると、私たちの仕入れ先の一つは、まさに人のご縁からつながった取引だったと言えるでしょう。
仕入れの世界では、このように人と人とのつながりから生まれる取引が、実は少なくありません。
◾️ 代理店との最初の商談
私が生地問屋で仕入れを担当し始めた頃は、
こうした背景を詳しく知りませんでした。
ただ、代理店の方が
日本担当のフランス人と一緒に商談に来ることがありました。
当時の私は、
まだ若い仕入れ担当でした。
そのため、最初は少し緊張したことを覚えています。
◾️ 商談の後の食事の時間
商談の後には、
何度か食事をご一緒する機会もありました。
フランスの方と食事をしながら
生地の話を聞く時間は、
とても刺激的でした。
単なる取引ではなく、
・ どんな背景で生まれた生地なのか
・ なぜこの素材を作ったのか
・ どんなブランドが使っているのか
そういった話を聞くことができました。
今振り返ると、
こうした時間はとても貴重だったと思います。
◾️ 代理店取引の特徴「外貨決済」
代理店から仕入れる場合、
羅紗屋や商社とは違う点があります。
それが
外貨決済です。
つまり、
・ ユーロ建て
・ ドル建て
での取引が多いのです。
日本の問屋取引に慣れていると、
これは最初かなり戸惑うポイントでした。
〜代理店取引の基本的な流れ〜
代理店との取引は、
次のような流れになります。
1 仕入れ側が代理店に発注依頼
2 代理店がメーカーに発注代行
3 メーカーが出荷準備
4 コマーシャル・インボイスが発行
5 代金支払い
6 商品発送
この流れは、
通常の国内取引とはかなり違います。
◾️ コマーシャル・インボイスという書類
海外取引では、
コマーシャル・インボイスという書類が登場します。
これは簡単に言えば
輸出用の請求書です。
これは簡単に言えば
輸出用の請求書です。
この書類をもとに、
・ 支払い
・ 通関
・ 輸入手続き
が行われます。
海外取引では、
この書類が非常に重要になります。
◾️ 貿易条件「FOB」
代理店取引では、
FOBという条件が多くありました。
FOBとは
Free On Board(本船渡し条件)
という貿易条件です。
簡単に言えば、
輸出者が船に貨物を積み込んだ時点で
責任が買主に移るという条件です。
〜FOBの意味するもの〜
この条件では、
・ 船代
・ 保険料
・ 関税
・ 国内配送費
などは
すべて輸入者側が負担します。
つまり、
仕入れの総コストが
非常に分かりにくくなるのです。
◾️ 円建て価格が分からない難しさ
もう一つ困る点があります。
それは
為替レートです。
ユーロやドル建てで取引するため、
支払いのタイミングまで
正確な日本円の単価が分からないのです。
これは、仕入れ担当として
かなり悩ましいポイントでした。
◾️ 船便か、航空便か
輸送方法も選ぶ必要があります。
主に
・ 船便(Ship)
・ 航空便(Air)
の二つです。
船便は安いですが、
時間がかかります。
航空便は早いですが、
費用が高くなります。
〜納期による輸送方法の選択〜
例えば、
半年前に発注して
3ヶ月で生産される場合。
その場合は
船便を選びます。
しかし、
ストックサービスをしているメーカーの場合は
すぐに必要になります。
その場合は
航空便になります。
◾️ 代理店の意外な一言
ある時、少し驚いたことがありました。
ある生地を仕入れようとした際、
代理店の方がこう言ったのです。
「〇〇商社の口座があるなら、
そこ経由で仕入れた方が安いですよ。」
私は一瞬、
耳を疑いました。
普通なら
「うちから買ってください」
と言うはずです。
〜なぜそんなことを言ったのか〜
その理由は後で分かりました。
実は代理店は、どこから発注しても手数料が入る仕組みだったのです。
つまり
・ 個別発注
・ 商社経由発注
どちらでも
代理店には手数料が入ります。
そのため、
商社がまとめて発注した方が
効率が良かったのです。
◾️ 商社と代理店の決定的な違い
ここで、
商社と代理店の違いを整理します。
商社
仕入先 → 商社 → メーカー
メーカー → 商社 → 仕入先
商社が商品を購入し、
そこに利益を乗せて販売します。
〜代理店の仕組み〜
一方、代理店は
仕入先 → メーカー → 仕入先
という形です。
代理店は
・ 発注の仲介
・ 支払い方法の調整
・ 輸送手配のサポート
を行いますが、
商品やお金は通りません。
◾️ 利益構造の違い
そのため、利益の構造も違います。
商社は
商品を買って販売するため
・在庫リスク
・資金リスク
があります。
その分、
利益幅も大きくなります。
〜代理店は「ペーパーマージン」〜
代理店は
商品を持たないため
リスクは少ないです。
その代わり
薄利の仲介手数料
になります。
業界では
ペーパーマージンとも呼ばれます。
◾️ 代理店は本当に安いのか
一見すると、
代理店の方が
安く仕入れられるように感じます。
しかし、実際は違う場合もあります。
商社は
大量仕入れを行うため、
単価を大きく下げることができます。
さらに物流もまとめられるため、
結果として
商社経由の方が安い
ことも多いのです。
〜それでも代理店が必要な理由〜
では、代理店は必要ないのでしょうか。
もちろん、そんなことはありません。
なぜなら、
すべてのブランドが商社にあるわけではない
からです。
代理店でしか扱っていない
ブランドも多くあります。
◾️ 差別化という意味での代理店
さらにもう一つ重要な点があります。
商社の商品は
他社でも簡単に仕入れられます。
つまり
差別化が難しいのです。
その点、代理店のブランドは
独自性があります。
〜仕入れは「選択肢」が大切〜
仕入れの仕事をしていて感じるのは、
選択肢を多く持つことの大切さ
です。
・ 機屋
・ 羅紗屋
・ 商社
・ 代理店
それぞれ役割があります。
その特徴を理解して
使い分けることが重要なのです。
◾️ 次回予告
ここまで、
・ 機屋
・ 羅紗屋
・ 商社
・ 代理店
と、仕入先についてお話ししてきました。
しかし、仕入れの世界は
まだまだ奥が深いものです。
次回は、
この仕入れの現場で
どのように仕入先との関係を築いていったのか
そんなリアルな話を
少しお伝えしたいと思います。
次回もぜひお付き合いください。