2026.03.13:第87回 私の回顧録
グループ企業
〜リアルな仕入れの現場11〜
前回のコラムでは、「仕入先」というテーマの中でも、特に 羅紗屋(らしゃや) についてお話ししました。
羅紗屋とは、紳士服用の毛織物、いわゆるスーツ生地を中心に扱う専門の服地問屋のことです。
テーラーやオーダースーツ店にとっては、非常に身近で重要な存在です。
同業でありながらも、それぞれに強みや特徴があり、
「このブランドならこの羅紗屋」
というように、ブランドごとに仕入先を使い分けることも珍しくありません。
情報や商品、そして人とのつながり。
羅紗屋の世界は、単なる取引以上の関係性で成り立っていることをお伝えしました。
そして今回は、その流れを受けて、もう一つの重要な仕入先についてお話しします。
◾️ 今回取り上げるのは、「商社」そして「コンバーター」 です。
繊維業界ではよく耳にする言葉ですが、一般の方には少し分かりにくいかもしれません。
実はこの二つ、厳密には役割が違います。
・ 商社:商品を仕入れて販売する流通・仲介会社
・ コンバーター:生地を企画して生産し販売する会社
ただし、実際の繊維業界では、
商社がコンバーター機能を持っているケースが非常に多いのです。
そのため、今回の話では少しシンプルに考え、
「商社=コンバーター」 という形でお話ししていきたいと思います。
◾️ 実は羅紗屋も広い意味では商社
少しややこしい話ですが、
広い意味で言えば、羅紗屋も商社の一種です。
しかし、実際のビジネスの形態は少し違います。
羅紗屋の場合は、
テーラーやオーダースーツ店に対して
着分(スーツ1着分など)でカット販売をするのが特徴です。
つまり、
・ 売り先:テーラーやオーダースーツ店
・ 販売単位:着分(カット販売)
というスタイルになります。
◾️ 商社の販売単位は「反物」が基本
一方で、通常の商社の場合は少し違います。
商社の基本は、
反物単位での販売です。
反物とは、生地がロール状に巻かれている状態のことで、
主にアパレルメーカーが既製服を生産する際に使用します。
つまり、
・ 売り先:アパレルメーカー
・ 販売単位:反物
という形が基本です。
この違いが、商社と羅紗屋の大きな特徴の一つです。
◾️ サンプル用にはメートル販売もある
とはいえ、商社がすべて反物販売というわけではありません。
アパレルメーカーが企画をする際には、
サンプル制作のために 数メートルだけ必要になるケースもあります。
そのため、多くの商社では
サンプル用途でのメートル販売にも対応しています。
ただし、これはあくまで例外的な対応であり、
基本はやはり反物単位の取引です。
〜意外と少ない「スーツ生地を扱う商社」〜
では、オーダースーツ用の生地を扱う商社はどのくらいあるのでしょうか。
実は、これが 意外と少ないのです。
私がグループ企業で仕入れを担当していた当時、
スーツ用の毛織物で取引していた商社は わずか1社だけでした。
もともと、生地問屋時代には複数の商社と取引がありましたが、
毛織物、特にスーツ生地に関しては、
当初から付き合いのある商社だけとの取引でした。
◾️ 商社の中でも部署によって扱いが違う
その商社では、社内で課ごとに取り扱い商品が分かれていました。
たとえば
・ 毛織物を扱う部署
・ 合繊を扱う部署
・ カジュアル素材を扱う部署
といった具合です。
私たちが取引していたのは、
その中でも
毛織物を専門に扱う部署
でした。
こうした体制も、商社ならではの特徴かもしれません。
◾️ 羅紗屋との大きな違い「生地の耳」
商社の生地には、羅紗屋の生地と比べて
大きな違いがあります。
それが、
**生地の耳(みみ)**です。
生地の耳とは、
生地の幅方向の端の部分のことを指します。
ブランド生地の場合、この部分には
・ ブランド名
・ シリーズ名
・ ミル(織元)の名前
などが記載されています。
◾️ スーツ業界での「耳」の意外な使い道
この耳は、単なる飾りではありません。
スーツの世界では、
パンツの裾の内側に使われることがあります。
パンツの裾の裏側にある補強布の部分です。
業界では
・ 裾ベロ
・ ヘムガード
・ 当て布
などと呼ばれています。
この部分に耳を使うことで、
摩擦によるダメージを防ぐ役割があります。
◾️ しかし商社の生地には耳がない
ところが、商社の生地には
耳が付いていないケースが多いのです。
これは最初、私も少し不思議に思いました。
なぜなら、オーダースーツの世界では
耳はブランドを象徴する部分でもあるからです。
〜なぜ耳を付けないのか〜
理由はとてもシンプルです。
既製服では耳が必要ないからです。
アパレルメーカーが既製品を作る場合、
・ 裾ベロに耳を使うことも少ない
・ ブランド表示はタグで行う
そのため、耳は実質的に 使われない部分になります。
つまり、不要な部分なのです。
◾️ 生地を見せる商売か、見せない商売か
ここには、ビジネスモデルの違いもあります。
オーダースーツ店では、
お客様に 実際の生地を見せて受注します。
そのため
・ ブランド名が見える
・ シリーズが分かる
・ 見た目が統一されている
こうしたことが、販売の説得力につながります。
一方、既製服では
生地を見せる機会はほとんどありません。
そのため、耳の必要性は低くなるのです。
◾️ 実はコストも違う
さらにもう一つ理由があります。
それは コストです。
耳を付けるか付けないかで、
当時でも 約1ドル程度の差がありました。
大量生産をするアパレルメーカーにとっては、
この差は決して小さくありません。
そのため、耳を省くことで
コストを下げているのです。
◾️ だからオーダー店は商社を使わない
こうした理由もあり、
オーダースーツ店が商社から直接仕入れるケースは少ないです。
理由はシンプルです。
・ 耳がない
・ ブランド表示がない
・ 生地帳として使いにくい
つまり、
販売ツールとして使いづらいのです。
そのため、多くのオーダースーツ店は
羅紗屋から仕入れるのが一般的です。
〜それでも商社を使う理由〜
それでも、私たちは
商社から生地を仕入れていました。
理由はただ一つです。
単価が魅力的だったからです。
商社は大量仕入れを行います。
さらに耳がないことでコストも下がります。
その結果、
非常に競争力のある価格で仕入れることができました。
◾️ 耳を気にしなければ魅力的な商材
オーダースーツの世界では耳が重要視されますが、
もしそれを気にしなければ、
商社の生地は非常に魅力的な仕入先になります。
品質は良い。
価格は安い。
これは、バイヤーとしては
非常に魅力的な条件です。
仕入れの世界では、
こうした柔軟な視点も大切だと思っています。
◾️ 仕入れの世界は、選択肢を広げること
仕入れという仕事は、
「どこから買うか」を考える仕事でもあります。
羅紗屋
機屋
商社
代理店
それぞれに役割があり、
それぞれにメリットがあります。
その特徴を理解し、
状況に応じて使い分けることが
バイヤーとしての腕の見せどころなのかもしれません。
◾️ 次回予告 〜代理店という存在〜
ここまで、仕入先として
・機屋
・羅紗屋
・商社(コンバーター)
についてお話ししてきました。
しかし、もう一つ重要な存在があります。
それが
**「代理店」**です。
ブランド生地の世界では、
代理店という存在が大きな役割を持っています。
次回は、この代理店の役割と仕入れの関係について
お話ししたいと思います。
仕入れの世界は、まだまだ奥が深いものです。
次回も、ぜひお付き合いください。