2026.03.12:第86回 私の回顧録
グループ企業
〜リアルな仕入れの現場10〜
これまでのコラムでは、仕入れ計画の考え方や、実際の仕入れ業務、そして何を基準に仕入れを判断していたのかについてお話ししてきました。
売上目標、利益率、商品構成、在庫バランス。
仕入れという仕事は、単に商品を買うだけではなく、多くの要素を総合的に考えながら進めていく仕事です。
そして前回からは、その仕入れを支える存在として、「仕入先」に焦点を当ててお話ししています。
前回は主に織布メーカー、いわゆる**機屋(はたや)**について触れました。
今回はもう一つの重要な存在である、
それが、羅紗屋(らしゃや)
についてお話ししたいと思います。
◾️ 羅紗屋とは何か
まず、「羅紗屋」という言葉について説明しておきたいと思います。
羅紗屋とは、
紳士服用の毛織物(スーツ生地)を専門に扱う服地問屋
のことです。
スーツの世界では、非常に重要な役割を担っている存在です。
国内外のメーカーや代理店から生地を仕入れ、それをテーラーやアパレル企業に販売する。
いわば、毛織物の流通の中心にいる問屋と言えるでしょう。
◾️ 羅紗屋の役割
羅紗屋の仕事は、単純な卸売りではありません。
海外ブランドや国内メーカーから生地を仕入れ、必要な分を必要なタイミングで供給する。
そして、その生地の特徴や背景を理解し、販売先に伝える。
つまり、
商品と情報の両方を扱う存在
でもあります。
羅紗屋があることで、テーラーや小売店は多くのブランドを扱うことができるのです。
羅紗屋の規模は会社によって様々ですが、大きなところでは
数千種類の生地
を取り揃えているところもあります。
バンチブックの数も膨大です。
・ イタリアブランド
・ イギリスブランド
・ 国産ブランド
それぞれのブランドごとにコレクションがあり、そのすべてを管理しているのです。
その在庫量は、想像以上の規模です。
◾️ 羅紗屋の街 ― 谷町と神田
昔から羅紗屋が集まっていた場所があります。
それが、
大阪の谷町
そして
東京の神田(須田町・岩本町)
です。
これらの地域には、かつて多くの羅紗屋があり、毛織物の流通拠点として栄えていました。
私が勤めていた生地問屋も、もともとは
大阪の谷町発祥
の会社でした。
そして戦後、東京に進出し、
神田
に拠点を構えた会社です。
神田は、当時の紳士服地業界にとって非常に重要な場所でした。
◾️ 羅紗屋同士はライバル
さて、羅紗屋と言えば、当然ながら
同業他社
です。
つまり、基本的には競合関係にあります。
しかし面白いことに、羅紗屋にはそれぞれ
得意分野
があります。
〜ブランドごとの得意問屋〜
例えば、
あるブランドはA社、
別のブランドはB社、
というように、
ブランドごとに強い羅紗屋
が存在します。
これは業界の中では、ある意味常識のようなものでした。
◾️ どこから仕入れるのが一番良いか
そのため、ブランド生地を仕入れる際には、
どの羅紗屋から仕入れるのが一番有利なのか
を考えていました。
例えば、
AブランドはB羅紗屋
CブランドはD羅紗屋
というように、
ブランドごとに最適な仕入先
を選んでいたのです。
◾️ 代理店より安く仕入れられる理由
ここで少し不思議に思う方もいるかもしれません。
普通に考えると、
代理店から直接仕入れる方が安い
と思われるかもしれません。
しかし実際には、
問屋や商社から仕入れた方が安いケース
が多いのです。
〜大量仕入れの力〜
その理由はとてもシンプルです。
羅紗屋や商社は、
大量に仕入れている
からです。
代理店から直接仕入れる場合、自社で必要な分しか発注しません。
つまり、
数量が少ない
のです。
しかし、問屋は大量に仕入れています。
そのため、
単価を下げることができる
のです。
◾️ 情報が集まる仕入先
もう一つ重要なメリットがあります。
それは、
情報
です。
メインで扱っている羅紗屋には、
・ 新商品の情報
・ ブランドの背景
・ 開発ストーリー
などが自然と集まってきます。
〜情報は販売の武器になる〜
こうした情報は、販売の際に非常に重要です。
例えば、
どんな原料を使っているのか
どんな織機で作られているのか
どんな歴史のあるブランドなのか
こうした背景が分かると、
商品の魅力を伝えやすくなる
のです。
単なる生地ではなく、
ストーリーのある商品
として販売できるからです。
◾️ 情報を集めるのも仕入れの仕事
そのため私は、
情報収集
にも力を入れていました。
仕入れという仕事は、
単に商品を買うだけではありません。
その商品を
どう売るのか
まで考える仕事でもあります。
◾️ 羅紗屋との関係
羅紗屋同士は競合関係にあります。
しかし同時に、
持ちつ持たれつの関係
でもありました。
業界の情報は、意外なところから入ってきます。
そしてその情報が、仕入れ判断のヒントになることも多いのです。
◾️ 情報が仕入れを強くする
私にとって、他社から入ってくる情報は非常に重要でした。
その情報があったからこそ、
・ ブランドの活かし方
・ 商品構成
・ 仕入れ戦略
を考えることができたのではないかと思います。
仕入れとは、情報戦でもあるのです。
◾️ 羅紗屋の歴史
羅紗屋の世界には、長い歴史があります。
毛織物の輸入が始まった時代から、紳士服文化の発展とともに成長してきた業界です。
その歴史を知ると、今のビジネスの見え方も少し変わってきます。
〜いつか紹介したいテーマ〜
もし機会があれば、
羅紗屋の歴史
についても、ファッションビジネスのトピックスとして紹介したいと思っています。
生地業界の裏側には、実に興味深い歴史があるからです。
◾️ 次回予告
今回は、
羅紗屋という仕入先
についてお話ししました。
仕入れという仕事は、
・ 機屋
・ 商社
・ 羅紗屋
など、さまざまな会社との関係の中で成り立っています。
そして、それぞれの仕入先には、それぞれの役割があります。
次回も引き続き、
仕入先の話
についてお伝えしたいと思います。
仕入れの現場を支える、もう少し違った立場の仕入先についてお話しする予定です。
ぜひ次回もお付き合いください。