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Textile Industry Column糸偏コラム:自由な視点
私の回顧録

2026.03.06:第80回 私の回顧録

グループ企業
〜リアルな仕入れの現場4〜

みなさん、こんにちは。

ここまで三回にわたって、**「仕入計画を立てるための思考プロセス」**について、一つひとつ順番に整理しながらお話ししてきました。

最初の回では、
オーダースーツ専門店の仕入れとは何か。
生地問屋(羅紗屋)との違いはどこにあるのか。

さらに前々回は、 “オーダースーツ店にとっての生地仕入れの極意” というテーマで、私なりの結論をお伝えしました。

その核心はとてもシンプルです。

仕入れの評価基準は 回転率ではなく契約率。

つまり、生地が売れるかどうかではなく、 その生地がお客様の決断を後押しできるかどうか。

この視点に立ったとき、仕入れという行為は単なる商品選びではなく、 受注構造を設計する仕事だということが見えてきました。

そして前回は、そこからさらに一歩進み、 自店分析という視点についてお話ししました。

なぜなら、どれほど正しい理論であっても、 それが自分たちの店の条件に合っていなければ意味がないからです。

立地。
客層。
価格帯。
工場体制。
展示スペース。

オーダースーツ店は、同じように見えても、その条件は一つとして同じものはありません。

だからこそ、 前提条件 × 生地仕入れの極意 この二つを掛け合わせることで、はじめてその店にとっての「仕入れの方向性」が見えてくる。

ここまでが、これまで三回の流れでした。

そして今回。
いよいよ、その方向性を 具体的な仕入れ計画 として形にしていきます。

ここから先は、理論ではありません。 現場で実際に考え、悩み、そして組み立てていった、 リアルな計画の話 です。

計画

◾️ 仕入れ計画の出発点

まず前提条件をもう一度整理する

ここで改めて、今回の話の前提となる企業像を整理しておきたいと思います。

これは私が実際に関わったオーダースーツチェーンでの経験をベースにしていますが、現在も事業を続けている企業であるため、具体的な数字や細かな戦略については少し表現を和らげながらお伝えしています。

ただし、ここでお話しする内容そのものは、現場で実際に考え、試行錯誤しながら組み立てていったものです。

その企業の特徴を整理すると、次のような条件になります。

・オーダースーツのチェーン展開
・ 店舗数は30店舗弱
・ 店舗の多くは首都圏
・ 東京を中心に横浜、大宮、千葉
・ 名古屋や大阪にも店舗を展開
・ 顧客の中心はビジネスマン
・ 価格帯はエントリーからミドルゾーン
・ 縫製工場は国内と海外の両方を活用
・ 店舗には着分展示スペースが豊富

つまりこの企業を一言で表すなら、 都市型の実衣料オーダースーツチェーン という位置づけになります。

ここから導き出さなければならないのは、 この店にとって最も合理的な仕入れ構成は何か という問いです。


◾️ 仕入れは「理想」ではなく「現実」から作る

仕入れ計画を考えるとき、多くの人はまず「理想」を思い描きます。

トレンド。 ブランド。 新しい提案。

もちろんそれらは大切です。

しかし、私が現場で何度も痛感したのは、 理想から作った仕入れは、現実で崩れる ということでした。

なぜなら、現場には必ず
・ 価格の壁
・ 顧客の価値観
・ 販売スタッフの説明力
・ 在庫リスク
といった現実があるからです。

だからこそ、仕入れ計画は 理想ではなく現実から作る

ここが最初の出発点になります。


「理想」ではなく「現実」

◾️ 顧客は「普通でいい」と言う

受注データを見ていて、私が何度も驚いたことがあります。

それは、ネイビー無地とグレー無地が圧倒的に強いという事実でした。

来店されたお客様の多くは、最初にこう言います。

「普通でいいです。」

この言葉を聞くと、つい物足りなく感じるかもしれません。

しかし実は、この言葉の中に大きなヒントがあります。

お客様が求めているのは、特別な一着ではなく 失敗しない一着 なのです。

仕事で浮かないこと。
長く着られること。
信頼感があること。

この安心感こそが、受注につながる要素でした。


◾️ 王道カラーを厚くする理由

ここから導き出される最初の結論は、とてもシンプルです。

王道カラーを厚くする。

ネイビー
ミディアムグレー
チャコールグレー

この三色が、仕入れ構成の中心になります。

もちろんチェック柄やストライプも必要ですが、本当の主役ではありません。

主役はあくまで 王道無地 です。

派手さはありません。

しかし、 安心感は圧倒的に強い。

この事実を受け入れることが、仕入れ計画の第一歩でした。


◾️ 比較設計という考え方

次に考えたのが、 価格帯の設計です。

人は単体では判断が難しくても、比較すると判断しやすくなります。

そこで生まれた考え方が、比較設計でした。

たとえばネイビー無地を
・ エントリー価格
・ ミドル価格
・ アッパー価格
という三段階で並べます。

触ってもらう。
見比べてもらう。

そうすると、多くのお客様は真ん中か、少し上を選びます。

これは販売テクニックではなく、人間の心理です。


◾️ 価格階層をどう設計するか

では、具体的にどの価格帯を中心にするのか。

この企業の場合、
エントリー:中国縫製
ミドル:国産生地・オリジナル生地
アッパー:インポートブランド生地
の三階層に分ける構成にしました。

ただし主力は、ミドルゾーンです。

なぜなら、価格と品質のバランスが最も納得されやすいからです。

つまり仕入れ構成は ミドルが厚め になります。


◾️ ブランドは「入口」にする

ブランド生地は魅力的です。

名前を聞くだけで、興味を持つお客様も多い。

しかし、ここで注意しなければならないことがあります。

ブランドが主役になりすぎると、 価格の壁 が生まれてしまうということです。

だからこそ、ブランドの役割は 入口 です。

店に興味を持ってもらう。
比較対象を作る。
そのために使う。

主力はあくまで 現実価格で満足度の高いゾーンになります。


◾️ 柄物は「アクセント」にする

柄物は、売り場を華やかにします。

しかし構成比率を間違えると、見て終わる売り場になります。

そこで私が決めたルールはシンプルでした。

柄物はアクセントとして品揃えです。

売り場の5割を柄物にするのではなく、1〜2割程度に抑える。

これが結果的に最も安定しました。

アクセント

◾️ 展示の数は多ければいいわけではない

展示スペースが広い店ほど陥りやすいのが、並べすぎる問題です。

たくさん並べれば選ばれる。

そう思いがちですが、実際には逆です。

選択肢が多すぎると、人は決められなくなる。

だからこそ、選びやすい構成が重要になります。


◾️ 在庫は資産でもありリスクでもある

着分在庫は強みです。

しかし同時に、 最大のリスク でもあります。

売れない在庫は、資産ではなく負債になります。

だからこそ、
半年単位で見直す。
受注データを必ず残す。

この仕組みを作りました。


◾️ 仕入れ計画の基本構成

ここまでの考えをまとめると、仕入れ計画の基本構成はこうなります。

・ 王道無地を中心にする
・ ミドルゾーンを厚くする
・ ブランドは入口として配置
・ 柄物はアクセント
・ 比較設計を作る

つまり、 受注が自然に生まれる構成を作るということです。


◾️ 仕入れの本質は「安心設計」

ここまで長くお話ししてきましたが、オーダースーツチェーン店での仕入れ計画の核心は実はとてもシンプルです。

それはお客様の不安を消すことです。

派手すぎないか。
仕事で浮かないか。
長く着られるか。
安っぽく見えないか。

この不安を先回りして消す。

それができる構成が、良い仕入れなのだと思います。


◾️ まとめ

仕入れ計画とは未来設計である

今回お伝えしたのは、具体的な生地の話というより、仕入れ計画の考え方でした。

整理すると、
・ 自店の前提条件を整理する
・ 顧客の価値観を理解する
・ 価格階層を設計する
・ 比較構造を作る
・ 在庫リスクを管理する

このプロセスを通して、 受注構造を設計する これが仕入れ計画の本質です。

仕入れとは、未来の売上を作る仕事。

そしてその未来は、構造で決まるのだと思います。


◾️ 次回へ

計画を実践すると何が起きるのか

ここまで、仕入れ計画を組み立てるプロセスをお話ししてきました。

しかし、計画は計画です。

現場に持ち込んだとき、必ず予想外のことが起きます。

・ 売れると思った生地が動かない
・ 意外な商品がヒットする
・ 店舗ごとに結果が違う

机上の理論と、現場の現実。
その差は必ずあります。


◾️ 次回は

次回は、今回ご紹介した仕入れ計画を、実際の現場でどのように実行していったのかについてお話ししてみたいと思います。

計画を実行に移す過程では、当然ながらさまざまな課題も見えてきます。

次回は、そうした実行の段階で直面した課題や調整についても、あわせてお伝えしたいと思います。

試行錯誤を重ねながら進めていく、リアルな実践の話です。

ぜひ、また読んでいただけたら嬉しいです。



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