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Textile Industry Column糸偏コラム:自由な視点
私の回顧録

2026.03.05:第79回 私の回顧録

グループ企業
〜リアルな仕入れの現場3〜

ー ここまでの振り返りと、今回のテーマ ー

ここまで2回にわたり、少し思考実験のようなお話をしてきました。

「オーダースーツ専門店の仕入れとは何か?」 そして 「生地問屋(羅紗屋)との違いはどこにあるのか?」

さらに前回は、 “オーダースーツ店にとっての生地仕入れの極意” というテーマで、私なりの結論をお伝えしました。

キーワードは、 回転率ではなく、契約率。 そして、 お客様の不安を消せる構成であること。

今回は、その“思想”を、どうやって現実の仕入れ計画に落とし込んでいくのか。 いよいよ実務の話に入ります。

そのために必要なのが―― 自店分析です。

自店分析

◾️ なぜ今、自店分析なのか?

理想論だけでは、仕入れはできません。

極意を知っても、 それが自分の店に合っていなければ意味がない。

オーダースーツ店は、立地も客層も、価格帯も、工場体制も、すべてが違います。

だからこそまずは、 「自分たちは何者なのか」 を冷静に見つめる必要があるのです。


◾️ 自店分析:私たちの現在地

今回お話しするのは、 私が実際に関わってきたグループ企業のリアルな話です。

ただし現在も事業を継続している会社ですので、 具体的な数字や細かな戦略部分については、少し表現を和らげながらお伝えします。

とはいえ、内容は紛れもなく実体験です。 現場で悩み、考え、試行錯誤してきた積み重ねです。


〜店舗規模とエリア特性〜

店舗数は30店舗弱。 首都圏を中心に、名古屋・大阪にも展開しています。

特に東京圏の比率が高く、 ビジネス街、ターミナル立地、ロードサイド型など、 商圏特性は実に多様でした。

単一モデルでは語れない。 これがまず、仕入れを難しくしている要素でもありました。


〜ターゲットは“実衣料”を求めるビジネスマン〜

お客様の中心は、 日々スーツを仕事着として着用するビジネスマン。

いわゆるモード志向というよりも、 信頼性・実用性を重視した実衣料志向

ここを見誤ると、 仕入れは一気にズレていきます。

流行を追うよりも、 「間違いのない一着」を求める層。

この空気感は、現場に立っていれば自然と感じ取れるものでした。


〜価格帯の幅と工場体制〜

価格帯はエントリーゾーンからアッパーゾーンまで広く、 国内工場と、グループ連携の海外工場を持つ体制。

価格競争力もあり、納期の柔軟性も高い。 これは明確な強みでした。

しかし同時に――

受注が落ち込んだ時の影響は大きい。

店舗と工場、両方に固定費がある。 これは経営に携わる者として、常に頭にあった現実です。

だからこそ、 安定受注を生む仕入れ構成が必要だったのです。


〜展示スペースという武器〜

各店舗とも、着分展示の奥行きは十分にありました。

選べる楽しさを演出できる環境。

しかし一方で、 「並べすぎる」ことの危うさも体験しました。

多ければ売れるわけではない。 選びやすくなければ、契約にはつながらない。

この学びは、現場で何度も痛感しました。


現在の位置

◾️ 自店分析から見える3つの現実

ここまで整理すると、 見えてくるものがあります。


1. 安定受注が最優先

工場を持つ企業にとって、 受注の波は経営に直結します。

だからこそ、 「冒険的な仕入れ」よりも、 **「確実に契約につながる構成」**が必要。


2. トレンド特化型ではない

私たちの強みは、 モード提案ではなく、実衣料としての完成度。

であれば、 生地構成もそれに合わせるべきです。


3. 価格差を説明できるかどうか

価格帯が広いということは、 「なぜこの価格なのか?」 を必ず問われるということ。

説明できない価格差は、 お客様にとって不安材料になります。


◾️ 結論:仕入れは“構造設計”である

ここまでの分析から導かれるのは、

仕入れとは、 単なる商品の調達ではなく、 受注構造の設計である、ということ。


① 色構成は王道を厚く

ネイビー、グレー、チャコール。

迷ったらここを厚くする。

なぜなら、 お客様の7割は 「普通でいい」とおっしゃるからです。

普通とは、 安心という意味。

安心が契約につながります。


② 比較で上げる設計

同じネイビー無地でも、 価格違いを並べる。

触ってもらう。 違いを感じてもらう。

人は比較すると、 自然と一段上を選びやすくなります。

これは販売テクニックではなく、 心理です。


ブランドは“入口”

有名ブランドは、集客の力があります。

たとえば
Ermenegildo Zegna
Loro Piana
VITALE BARBERIS CANONICO

こうした名前は、やはり魅力があります。

しかし主役にしすぎない。

全体の一部として活かす。

主力は、 “現実価格で満足度の高いゾーン”。

ここを厚くする。


在庫は“資産”でもあり“リスク”でもある

着分を多く持てるのは強みですが、 死に在庫は経営を圧迫します。

半年単位で見直す。 受注データを必ず残す。

色別
価格帯別
客層別

数字を見ることは、 感覚を裏付ける作業です。


◾️ 仕入れの本質は「不安の除去」

最終的に行き着くのはここです。

お客様は、スーツに夢を買うのではなく、 安心を買う

・派手すぎないか
・長く着られるか
・仕事で浮かないか
・安っぽく見えないか

この不安を、 生地の構成で先回りして消しておく。

これが本当の極意です。


◾️ さらに一歩踏み込んで

仕入れとは、未来への投資です。

売れる生地を揃えることも大切。 しかし同時に、

「この店は信頼できる」 と思ってもらえる構成を作ること。

それが長期的なブランドになります。


◾️

今回お伝えしたのは、 前提条件 × 極意 = 方向性 という部分。

・自店の立ち位置を知る
・強みと弱みを把握する
・ターゲットの価値観を理解する
・受注構造を設計する

仕入れとは、 感性ではなく構造。

そして構造は、 必ず結果に表れます。


◾️ まとめ|極意を現実に落とす

今回お伝えしたのは、 前提条件 × 極意 = 方向性 という部分。

・自店の立ち位置を知る
・強みと弱みを把握する
・ターゲットの価値観を理解する
・受注構造を設計する

仕入れとは、 感性ではなく構造。

そして構造は、 必ず結果に表れます。

方向性

◾️ 次回予告

いよいよ次回は、
「前提条件」×「生地仕入れの極意」=具体的仕入計画

実際にどの価格帯にどれだけ配分するのか。
どの色をどの程度持つのか。
ブランド比率はどうするのか。

さらに踏み込んで、 “数字に近い設計図”をお話しします。

次回も、ぜひお付き合いください。



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