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Textile Industry Column糸偏コラム:自由な視点
私の回顧録

2026.03.07:第81回 私の回顧録

グループ企業
〜リアルな仕入れの現場5〜

みなさん、こんにちは。

これまでこの連載では、数回にわたって、私がグループ企業で経験した「リアルな仕入れの現場」についてお話ししてきました。

前々回までは、仕入れを考えるための前提条件や、生地仕入れの基本的な考え方、そして実際の現場で大切になる視点などについて、少しずつ整理しながらお伝えしてきました。

そして前回は、それらの考え方をもとにして、オーダースーツ店における具体的な仕入れ計画を組み立ててみました。

まず、自店の前提条件を整理すること。

そしてそこに、これまでの経験から導き出した「生地仕入れの極意」を掛け合わせることで、仕入れの骨格を作っていきました。

具体的には、
・ 無地を厚くする
・ ミドルゾーンを主力にする
・ 比較設計をつくる
・ ブランドは入口にする
という仕入れ構造です。

一見するとシンプルな考え方ですが、実際の売り場では、こうした基本がとても大切になります。

ただし、ここで忘れてはいけないことがあります。

それは、 計画は、あくまで計画でしかないということです。

机の上で組み立てた理論は、現場に持ち込んだ瞬間から、必ず現実とぶつかります。

店舗スタッフの感覚。
お客様の反応。
店舗の立地。
販売スキル。

こうした様々な要素が重なり合い、計画は少しずつ形を変えていきます。

だからこそ、仕入れの仕事というのはとても面白いのかもしれません。

そこで今回は、前回作った仕入れ計画を、実際の現場でどのように実行していったのかについてお話ししてみたいと思います。

ここから先は、机上の理論ではありません。

実際の現場で起きた、仕入れ計画の実行プロセスです。

実行

◾️ 計画を実行に移すということ

仕入れの計画というのは、紙の上ではとても綺麗に整理されます。

どの価格帯を厚くするのか。
どのカラーを中心にするのか。
どのブランドを扱うのか。

こうしたことは、比較的ロジカルに決めることができます。

しかし、それを実際の店舗で動かそうとすると、様々な壁が出てきます。

売り場のスペース。
スタッフの販売スタイル。
店舗ごとの客層。

つまり、計画を作ることと、それを現場で実行することは、まったく別の作業なのです。

今回の話は、まさにその部分の話になります。


◾️ 無地を主軸にするという決断

今回の仕入れ計画の中で、まず最初に決めたことは、無地を主軸にするということでした。

というよりも、当初はかなり極端なほどに、無地を切らさない構成を意識していました。

スーツという商品は、長い歴史の中で様々な柄が生まれてきました。

ストライプ。
チェック。
ヘリンボーン。

しかし実際の販売現場を見ていると、最終的に多くのお客様が選ぶのは、やはり無地です。

特にビジネス用途では、その傾向が非常に強い。

だからこそ、まずは王道をしっかり押さえることが大切になります。


主軸

◾️ データがない時代の仕入れ

本来であれば、仕入れを考えるときに最初に行うことは、売れ筋データの確認です。

どの生地がどれだけ売れたのか。
どの価格帯が動いているのか。

こうしたデータをもとに仕入れを組み立てるのが、理想的な形です。

しかし当時は、そこまで整ったシステムはまだありませんでした。

そのため私たちは、在庫の推移を見ながら、「この生地はどれくらい動いたのだろう」と逆算していくしかありませんでした。

今振り返ると、かなりアナログな方法ですが、当時はそれが普通でした。

それでも、そのデータをじっくり見ていくと、ある傾向が見えてきます。


◾️ ネイビーとグレーという王道

在庫の動きを見ていくと、やはり中心になっているのは、ネイビー系とグレー系でした。

これは今も昔も変わらない、ビジネススーツの王道です。

そこで今回の仕入れでは、
ネイビー系
グレー系
この二つを、明確な主軸カラーとして設定しました。


◾️ ネイビーの幅を広げる

ネイビーと言っても、一色ではありません。

明るめのブルー。
標準的なネイビー。
深いダークネイビー。

こうした微妙な違いによって、印象は大きく変わります。

そこで今回は、ネイビー系のレンジを意識的に広げました。

お客様が、「このネイビーがいい」と思える一着に出会えるようにするためです。


◾️ グレーの奥深さ

グレーもまた、非常に奥が深い色です。

ミディアムグレー。
チャコールグレー。

同じグレーでも、トーンが違えば印象は大きく変わります。

ビジネス用途では、このグレー系も非常によく動きます。

そこでネイビーと同様に、グレーのレンジもしっかりと用意しました。


◾️ 同じ無地でも違うもの

無地といっても、すべて同じではありません。

・ 織り
・ 光沢
・ 質感

こうした要素によって、同じ色でも全く違う表情になります。

そのため売り場では、無地の中にも違いを感じられるラインナップを意識しました。


◾️ ミドルゾーンを主力にする

今回の企業は、エントリーからミドル価格帯が中心のオーダースーツチェーンです。

そこで仕入れでは、ミドルゾーンを最も厚くする構成を取りました。

価格帯としては、
エントリー
ミドル
アッパー
という三層構造です。

しかし数量としては、ミドルゾーンを中心にしました。

理由はとてもシンプルです。

価格と納得感のバランスが最も良いからです。

実際に販売現場でも、このゾーンが最も動きました。


◾️ 比較設計という考え方

今回の仕入れの中で、私が特に意識していたのが、比較設計という考え方です。

例えばネイビー無地でも、
エントリー価格
ミドル価格
アッパー価格
この三つを並べて見せます。

そしてお客様に触っていただく。

すると多くの場合、真ん中か、少し上が選ばれます。

これは、何度も現場で見てきた、人間の自然な選択です。

比較

◾️ ブランド生地の役割

ブランド生地には、やはり特別な魅力があります。

名前を聞いただけで、興味を持つお客様も少なくありません。

ただし、ブランド中心の売り場にすると、価格帯が一気に上がってしまいます。

そこで今回の計画では、ブランドは入口の役割としました。

売り場のアクセント。
比較対象。
話題作り。

この三つの目的です。

主役はあくまで、実用的な価格の生地でした。


◾️ 柄物はアクセント

売り場を華やかにするためには、柄物も必要です。

しかし、柄物ばかりになると、「見て楽しむ売り場」になってしまいます。

そこで柄物は、あくまでアクセントとして配置しました。


◾️ 展示数を整理する

売り場スペースが広い店舗ほど、生地を並べすぎる傾向があります。

しかし実際には、選択肢が多すぎると決められません。

そこで売り場構成を整理し、
・ 似た生地を減らす
・ 比較しやすい構成にする
という調整を行いました。


◾️ 計画と現場の違い

ここまでお話ししてきたように、仕入れ計画そのものは、前回の段階でほぼ完成していました。

しかし実際に現場で動かしてみると、いくつかの修正が必要になりました。

展示数を少し減らしたり、売り場の見せ方を調整したり。

そうした微調整を繰り返しながら、少しずつ売り場は整っていきました。


◾️ 仕入れの仕事の面白さ

仕入れという仕事は、
計画を作る仕事でもあり、現場を見ながら調整していく仕事でもあります。

つまり、
計画は骨格。
実行は調整。
この二つが揃って、初めて仕入れは機能します。

そして、この調整こそが、仕入れの面白さなのだと思います。


◾️ 次回予告

では、この仕入れ計画を実際に動かしてみると、どうなったのでしょうか。

売れると思っていた生地が動かない。

逆に、予想していなかった生地がヒットする。

店舗によって反応が違う。

現場では、本当にさまざまなことが起きました。

次回は、 この仕入れ計画を実行した結果、実際に何が起きたのかについてお話ししてみたいと思います。

売り場の変化。
受注の動き。
そこから見えてきた新しい課題。

リアルな結果について、お伝えしていきます。

ぜひ、また読んでいただけたら嬉しいです。



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