2026.03.04:第78回 私の回顧録
グループ企業
〜リアルな仕入れの現場2〜
はじめに ー 前回からの流れの中で ー
前回、私はグループ企業での「リアルな仕入れの現場」についてお話ししました。
理論ではなく、現場。
理想ではなく、数字。
想いではなく、在庫。
群馬の倉庫に並ぶ反物を前にして、私は改めて考えました。
「仕入れとは、いったい何なのか?」
売れると思って仕入れた生地。
自信を持って選んだはずの構成。
しかし、現実は必ずしも思惑どおりには動かない。
その経験を通じて私は、「仕入れの本質」を考えることにしました。
そして今回。
その延長線上にあるテーマが、
オーダースーツ店にとっての「生地仕入れの極意」とは何か?
という問いです。
今回は、
なぜ、そこまで考えなければならなかったのか。
なぜ、その極意にたどり着いたのか。
その“思考のプロセス”をお伝えしたいのです。
その“思考のプロセス”をお伝えしたいのです。
言うなれば今回は――
仕入れ計画を立てる前段階。
計画のさらに手前にある、「思考の設計図」の話です。
◾️ なぜ、改めて考え直す必要があったのか
前回の現場で私が痛感したのは、
「仕入れは感覚だけでは成立しない」
ということでした。
経験も大切です。
センスも大切です。
トレンド感覚も必要です。
しかし、それだけでは足りない。
なぜなら、仕入れは“結果”が必ず数字として返ってくるからです。
在庫は嘘をつきません。
受注率も嘘をつきません。
感覚が外れた瞬間、すべてが見える。
だから私は、もう一度問い直しました。
「オーダー店にとって、生地とは何か?」
この問いを曖昧にしたまま、計画は立てられない。
◾️ 生地は商品なのか、道具なのか
生地問屋であれば、生地は“商品”です。
仕入れて、値付けをして、売る。
しかし、オーダースーツ店の場合は少し違う。
生地は“完成品”ではありません。
あくまで素材です。
さらに言えば、
それは“受注を生むための材料”です。
ここに大きな違いがあります。
生地が売れるのではない。
生地を通じて契約が決まる。
つまり、生地は目的ではなく手段。
この視点に立たなければ、仕入れの考え方は根本からズレてしまう。
◾️ 「売れる生地」という誤解
仕入れの現場でよく聞く言葉があります。
「この生地、売れそうですね。」
私はこの言葉に、どこか違和感を覚えるようになりました。
売れそう、とは何を指しているのか。
見た目が良い?
トレンド感がある?
ブランド力がある?
それらは大切です。
しかし、オーダー店の場合は少し違う。
必要なのは、
“売れる生地”ではなく、“受注が取れる生地”。
この違いは、似ているようで本質が違います。
売れる生地は、単体で魅力的なもの。
受注が取れる生地は、お客様の決断を後押しできるもの。
私は、この差を明確にしなければならないと感じました。
◾️ なぜ「契約率」で考えるのか
多くの小売業では「回転率」が重視されます。
しかしオーダー店で最も重要なのは、
来店客 → 受注率
です。
どれだけ来店があっても、
決断に至らなければ意味がない。
生地はその「決断の瞬間」に関わる存在です。
ならば、生地の評価基準も変わるはず。
回転率ではなく、契約率。
この視点を持った瞬間、仕入れの見え方が変わりました。
◾️ よくある失敗から見えたもの
考え直すきっかけは、失敗でした。
・ トレンド重視で揃えすぎる
・ 高級生地を並べすぎる
・ 柄物に寄りすぎる
結果はどうだったか。
「かっこいいですね」
「素敵ですね」で終わる。見て終わる。
つまり、決断に至らない。
その瞬間、私は理解しました。
仕入れは“見せるため”ではない。
決めてもらうための構成なのだと。
◾️ なぜ無地が強いのか
データを見て気づいたことがあります。
ネイビー無地、グレー無地。
これらが圧倒的に強い。
来店客の約7割は言います。
「普通でいいです。」
ここにヒントがありました。
お客様は、特別を求めているようで、
実は“失敗しない選択”を求めている。
派手さより安心感。
個性より安定。
ならば、仕入れ構成はどうあるべきか。
理想ではなく、現実。
ここを受け入れることが出発点でした。
◾️ 価格帯を分ける理由
次に考えたのは価格階層です。
29,000円
49,000円
69,000円以上
なぜ分けるのか。
それは、お客様の中にある“迷い”を整理するためです。
人は比較すると、判断しやすくなります。
ただし、その差が明確でなければ意味がない。
見た目の差
触った差
説明できる差
この三つが必要です。
ここで改めて気づいたのは、
価格差を語れない生地は、仕入れるべきではないということでした。
◾️ ブランドの扱いをどう考えるか
例えば、
・ Ermenegildo Zegna
・ Loro Piana
・ DORMEUIL
・ REDA
これらは集客力があります。
名前そのものが力を持つ。
しかし、考えなければならないのは、ブランドが“目的”になっていないか。
ブランドは入口。
決定打は中身。
価格とのバランスを無視すれば、在庫になる。
この現実を、私は何度も見てきました。
だからこそ、ブランドの比率を考える必要がある。
◾️ 比較設計という考え方
生地を単体で仕入れない。
これは、今回の思考の中で生まれた重要な視点です。
ネイビー無地を
29,000円
49,000円
69,000円
と階段状に並べる。
触らせる。
比較させる。
人は比較の中で、少し上を選ぶ傾向がある。
これは心理です。
仕入れは単品選びではなく、
比較の設計。
ここに至ったのは、偶然ではありません。
受注率を見続けた結果、たどり着いた答えです。
◾️ 「死に在庫」をどう防ぐか
考えなければならなかったもう一つの理由。
それは、在庫です。
倉庫に眠る反物。
動かない品番。
これを見て、私は強く思いました。
仕入れは“攻め”であると同時に、“守り”でもある。
小ロット。
バンチ中心。
データ管理。
半年ごとの見直し。
これらはテクニックではありません。
思考の結果として生まれた行動指針です。
◾️ 客層を起点にする理由
仕入れは、自分基準では成立しません。
20代中心店。
40代ビジネス層中心。
経営者層中心。
同じネイビー無地でも、求められる質感は違う。
光沢なのか。
打ち込みなのか。
ストーリーなのか。
つまり、仕入れとは顧客理解そのもの。
これもまた、現場から教えられたことでした。
◾️ 本当の核心 ー 不安を消すこと
最終的に私がたどり着いた答え。
オーダースーツ店の仕入れとは、
お客様の“不安”を消すこと。
派手すぎないか。
仕事で浮かないか。
長く着られるか。
安っぽくないか。
この不安を取り除ける構成。
ここにすべてが集約される。
だから無地が強い。
だから比較が必要。
だから価格差を語る。
すべてが一本につながりました。
◾️ 今回の目的は「考えること」
ここまで書いてきましたが、今日は実践の話ではありません。
今回は、徹底的に“考える”回です。
なぜそう考えたのか。
どんな失敗があったのか。
何を見て、何を捨てたのか。
仕入れ計画は、突然生まれません。
その前に、
揺れ動く思考のプロセスがある。
今日はそこを共有したかったのです。
◾️ 次回へ ー 計画と実践へ
では、この極意をどうやって計画に落とし込むのか。
・ 構成比をどう決めるのか
・ 価格帯をどう設定するのか
・ ブランド比率をどう管理するのか
・ データをどう活用するのか
理論は美しい。
しかし、現場は常に揺れる。
次回は、
この極意を、どのように仕入れ計画へ落とし込み、実践していったのか。
そしてその結果、何が起きたのか。
リアルな数字とともにお伝えします。
考えるだけでは終わらせない。
思考から計画へ。
計画から実践へ。
その続きは、次回で。
ぜひ、また読んでいただけたら嬉しいです。