2026.02.24:第70回 私の回顧録
グループ企業
〜中国仕入れで知り合った方々2〜
みなさん、こんにちは。
TexStylist 糸偏コラムも、第70回を迎えました。
前回は、中国仕入れの現場で出会った「技術者」の方々についてお話ししました。糸番手をその場で測るという、私にとって衝撃的だった出来事。理屈や肩書きではなく、“現場の確かさ”で語る職人の姿勢に心を打たれたことを覚えています。
そして今回は、その続編です。
優れた技術があっても、それがきちんと伝わらなければビジネスにはなりません。
仕様を言語化し、価格を整理し、納期を管理し、時にはトラブルを未然に防ぐ。
そのすべてを担うのが、営業担当の方々です。
商談の席で、メールの文面で、空港のロビーで。
時にはレストランの丸テーブルを囲みながら、時には展示会場を歩きながら。
彼らとの出会いは、単なるビジネスパートナーという枠を超え、私の中で大切な「人の記憶」として残っています。今日は、そんな温かな思い出を、少し情感を込めてお届けしたいと思います。
◾️ 言葉を超えて伝わるもの 〜日本語力と“理解力”〜
中国での仕入れを始めた当初、私がまず驚いたのは、営業担当の方々の日本語のレベルの高さでした。
ほとんどの方が日本語能力試験N1レベル。
ですが、驚いたのは“語彙量”ではありませんでした。
本当に感心したのは、「日本人の考え方を理解している」という点です。
たとえば、
「できれば少し早めに…」
「なるべく柔らかい風合いで…」
日本語は曖昧です。
しかしその曖昧さの中に、実は強い意図が含まれていることもあります。
そうした“行間”を、彼らはきちんと読み取ってくれました。
「つまり、優先順位は納期ですね?」
「風合いを重視されるなら、仕上げ工程を一つ追加しますか?」
言葉を翻訳するだけではなく、意図を整理し、具体化してくれる。
それは単なる語学力ではなく、“理解力”です。
また、商談の席では、場の空気もよく読んでいました。
価格交渉が少し緊張感を帯びた時、さりげないユーモアを挟んで場を和ませる。
こちらが疲れているときは、さっと話題を切り替える。
海外ビジネスは、時に孤独です。
文化の違い、慣習の違い、スピード感の違い。
その中で、同じテンポで会話ができる相手がいること。
それは想像以上に大きな安心感でした。
◾️ Sさん 〜誠実さがにじむ初代担当者〜
最初に私の担当となったのは、縫製工場と生地商社を兼任していたSさんでした。
第一印象は、「静かで丁寧な方」。
しかし仕事を重ねるごとに、その印象は「信頼できる方」へと変わっていきました。
見積りは必ず根拠付き。
スケジュールは余裕を持って提示。
トラブルの芽は、早めに共有。
派手さはありません。
けれど、“堅実さ”という言葉がこれほど似合う方もいませんでした。
ご主人は北京の日本法人に勤務されており、ご家庭でも日本との関わりが深かったそうです。そのせいか、日本的な「段取り」や「報告・連絡・相談」の大切さを自然に身につけていらっしゃいました。
〜北京の夜に見た、文化の別の顔〜
印象に残っているのは、北京市内の北朝鮮レストランに連れて行っていただいた夜のことです。
店内では、チマチョゴリ姿の女性たちがドラムやギターを演奏しながら歌い、華やかなショーが繰り広げられていました。
それまでの私は、“北朝鮮”という言葉から、どこか閉ざされた印象を抱いていました。
けれど、目の前にあったのは、観客を楽しませようとする明るいエネルギー。
音楽に合わせて手拍子が広がり、笑顔があふれる空間。
そのとき私は強く思いました。
国名やニュースだけでは、人は語れない。
Sさんが連れて行ってくださったその夜は、単なる食事の時間ではありませんでした。
文化の奥行き、人の多面性、そして“自分の思い込み”に気づかせてくれる時間でした。
約2年間のお付き合い。
振り返ると、仕入れの基礎を一緒に築いてくれた大切な存在です。
◾️ Tさん 〜理論とユーモアを兼ね備えた商社マン〜
続いて担当してくださったのは、生地商社のTさん。
日本の大手総合商社の北京事務所に勤務されており、数字にも市場にも強い方でした。
Tさんの特長は、「全体像を見る力」。
原料価格の動向。
為替の影響。
工場の生産キャパシティ。
さらには、日本市場の販売動向。
それらを一つの線でつなぎ、「だから今、この価格です」と説明してくれました。
感覚ではなく、構造で語る。
その姿勢に、私は何度も助けられました。
〜展示会で見たプロの背中〜
上海で開催された国際見本市「インターテキスタイル」にご一緒したときのこと。
広大な会場を歩きながら、Tさんは次々とブースを回り、素材を触り、担当者と短時間で要点を確認していきました。
「これは日本では早すぎる」
「これは半年後に来ますよ」
未来を読むようなその言葉に、私はいつも刺激を受けていました。
そして、どんなに忙しくても、必ずどこかで冗談を挟む。
「今日は歩数計、3万歩いきますね」
そんな一言で、疲れが少し和らぐのです。
現在はご退職され、中国各地を旅する生活を楽しまれている様子。
きっと今も、新しい景色を眺めていらっしゃるのだろうと思います。
◾️ Kさん 〜信頼は確認から生まれる〜
3人目はKさん。
一見控えめですが、内に強い責任感を秘めた方でした。
Kさんの最大の特長は、「確認を惜しまない」こと。
たとえ小さな仕様変更でも、
たとえ色番号一つでも、
必ず書面で再確認。
「念のためですが…」
この一言に、何度救われたかわかりません。
海外ビジネスでは、「言った」「聞いていない」が致命傷になります。
しかしKさんの案件では、その種のトラブルがほとんどありませんでした。
それは、慎重だったからではなく、“相手を守ろう”としてくれていたからだと思います。
日本的な几帳面さ。
中国的な柔軟さ。
その両方を自然に行き来できる存在。
彼女の姿勢は、私にとって「信頼とは何か」を改めて考えさせてくれるものでした。
◾️ SYさん 〜穏やかな優しさと家庭への想い〜
最後に担当してくださったのがSYさん。
柔らかな雰囲気を持つ方で、話していると自然と心が和みました。
一度日本に来られた際、一緒に天ぷらを食べに行ったことがあります。
「日本の天ぷらはサクサクしていて美味しいですね」
そう言って笑う姿が、とても印象的でした。
小さなお子さんのお話もよくしてくれました。
家庭を大切にしながら、仕事にも真摯に向き合う姿勢。
そのバランスの取り方に、私は何度も励まされました。
◾️ 仕入れとは「人を信じること」
今回ご紹介した皆さんに共通しているのは、
誠実であること。
相手を理解しようとすること。
そして、自分の役割を全うしようとすること。
仕入れという仕事は、数字や条件だけで動いているように見えます。
けれど本質は、違います。
最後に決断するのは、「この人となら進められる」という気持ちです。
文化が違っても、
言葉が違っても、
信頼は築ける。
むしろ違うからこそ、丁寧に向き合うことの大切さを学べるのかもしれません。
中国で出会った営業の皆さんは、
私に“信頼の仕入れ”という考え方を教えてくれました。
それは、これからも変わらない、私の仕事の軸です。
◾️ 次回予告
今回は営業担当の皆さんとの思い出をお届けしましたが、実はYさんとのエピソードは、これだけでは語りきれません。
5年間という時間の中には、笑いあり、緊張あり、そして数えきれないほどの学びがありました。
次回は、Yさんとの物語を単独でじっくりとお届けしたいと思います。
どうぞお楽しみに。