TexStylist

Textile Industry Column糸偏コラム:自由な視点
私の回顧録

2026.02.21:第67回 私の回顧録

グループ企業
〜新たな展開への序章〜

みなさん、こんにちは。

前回は、仕入れの現場で出会った人たちとのご縁について振り返りました。

数字と向き合い、在庫と向き合い、発注数量と格闘する日々。 けれど、本当に心に残っているのは「商品」よりも「人」だった——そんなお話でした。

営業所閉鎖のときに設備やスタッフを引き受けてくれた方。 産地へ導いてくれた方。 中国や海外取引で支えてくれた方。 高級素材や新しい販路を教えてくれた方。

立場も役割も違う、多くの方々との出会いが、私の仕事をつくってきました。 仕入れという仕事は、数字で管理される世界でありながら、実は“人でできている”。

そして今回からは—— その“ご縁”が、新たな展開へとつながっていくお話です。

新たな展開

◾️ すべては、ひとつの相談から

それは2011年6月。
たしか、社員の結婚式の席でのことでした。

華やかな会場。祝福ムードに包まれた空間。 そんな中で、社長からふと声をかけられました。

「少し相談が——」

その時点では、まだ何も決まっていませんでした。 あくまで“相談”です。

あるオーダースーツチェーンから、身売りの提案が来ている。 それについて、どう思うか意見を聞きたい——という話でした。

突然の大きなテーマ。 お祝いの席とは対照的に、頭の中では一気に現実的な数字が動き始めました。


◾️ 私は、最初は反対でした

正直に言えば、私は最初、反対の姿勢を示しました。

理由は明確でした。

まず、規模の大きさ。 その会社は全国に20数店舗を展開し、さらにオーダースーツとオーダーシャツの縫製工場まで持っていました。

販売と生産の両方を抱える会社。 引き受けるとなれば、相当な覚悟が必要です。

そして、リスク。 在庫、財務、人員体制—— 外から見える数字と、実際の中身は必ずしも一致しない。

これまでの経験から、「立て直すこと」の難しさは身に染みていました。

既存事業も決して余裕があるわけではない。 その中で新たな大きな組織を抱えることに、慎重にならざるを得ませんでした。

最初は反対

◾️ それでも、前に進むと決めた

その後も話し合いは続きました。

検討を重ねる中で、見えてきたものもあります。 既存事業とのシナジー。 仕入れ面での可能性。 工場を持つことの意味。

リスクは消えません。 けれど、可能性もまた確かに存在していました。

勢いではありません。 楽観でもありません。

社長のリスクを理解したうえでの決断でした。

やるからには、中途半端にはできない。
関わる以上、成功させるしかない。

あの日の「相談」は、 私にとって新しい責任の始まりだったのです。


◾️ オーダースーツチェーンという新しいフィールド

その会社は、オーダースーツのチェーン店。 当時、全国に20数店舗を展開していました。

さらに、自社で縫製工場も有している。 つまり、「売る」と「つくる」の両方を持つ会社です。

これは大きな強みでもあり、同時に大きな責任でもあります。

生地を仕入れ、縫製し、店舗で販売する。 流れが一本でつながっている分、どこかが滞れば全体に影響します。

仕入れ担当としての責任は、これまで以上に重くなることが予想されました。


◾️ まずは、現状を知ることから

2011年8月。 私は本格的にその会社の業務に携わることになりました。

担当は、やはり「仕入れ」。

新しい環境でも、原点は変わりません。 生地と向き合い、数字と向き合う。

そして最初に取り組んだのは—— 在庫の把握でした。


◾️ システムと現場のズレ

システム上では在庫量は確認できます。 しかし、細かい部分が見えない。

反物は何メートル残っているのか。 本当に販売可能な状態なのか。

画面の数字と、倉庫の現実が一致していない。

これは、仕入れにおいて最も危険な状態です。

在庫が曖昧なままでは、正しい発注はできません。 まずは土台を整えること。

そこからのスタートでした。


◾️ 群馬の倉庫で見た現実

倉庫は群馬県。 もともとはパチンコ店だった建物を改装したものです。

広い空間に棚やパレットが並び、 そこに大量の生地が保管されていました。

倉庫にあった在庫は、10万メートル超。

カット済みの生地にはバーコードがある。 しかし反物には手書きの札。 長さが書かれていないものも少なくありません。

つまり—— 正確な在庫が、誰にもわからない。

その光景を見たとき、 「これは、まず足元から整えなければ」と強く思いました。


◾️ 地道な作業こそ、会社の体力

反物業者に協力を依頼し、 週に一度、約100反ずつ計測することにしました。

生地を広げ、正確な長さを測り、 紙のメジャーを入れて再梱包。

それを2カ月以上、繰り返しました。

派手ではありません。 目立つ成果もすぐには出ません。

けれど、この作業がなければ前には進めない。

地道な積み重ねが、会社の体力をつくります。

やがて、数字が現実に追いついていきました。


◾️ 在庫が整うと、判断が変わる

在庫が見えるようになると、不思議なことが起こります。

仕入れるべきもの。 止めるべきもの。 強化すべきカテゴリー。

判断がクリアになるのです。

オーダースーツ業界では、在庫管理が販売効率に直結します。 必要なときに必要な生地があること。 余分な在庫を抱えないこと。

仕入れは攻めの仕事に見えて、実は“守り”の要素が大きい。

このグループ企業での経験は、そのことをあらためて教えてくれました。


◾️ 新たな責任、新たな視点

一つの会社の仕入れ担当から、 グループ全体を意識する立場へ。

視野を広げる必要がありました。 数字の見方も、スケールも変わります。

これは、私にとって大きな転換点でした。

不安もありました。 けれど、それ以上に学びがありました。

責任の先

◾️ まとめ 〜土台を整えるという覚悟〜

今回は、グループ企業での新たな仕事、その第一歩についてお話ししました。

仕入れは、発注することが仕事ではありません。 在庫を整え、物流を整え、数字を整える。 土台をつくる仕事です。

華やかではない。 けれど、確実に未来を支える仕事。


◾️ 次回は

次回は、この在庫整理の先に待っていた具体的な仕入れ業務、そしてその後の展開についてお話しします。

新しい環境で、私は何を見て、何を決断していったのか。

どうぞ、次回も楽しみにしていてください。



◀︎◀︎◀︎ 【2026年2月20日】         【2026年2月22日】 ▶︎▶︎▶︎

コラムのトップに戻るには、こちらの糸偏コラム:自由な視点クリック