仕入れ編
〜お世話になった方7〜
みなさん、こんにちは。
前回は、攻めの経営者Tさんについて書きました。 中国出張、英語での価格交渉、為替の話。
スピードのある仕入れの世界。
その余韻がまだ残っている方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、少し違います。
派手さはない。 けれど、じわじわと効いてくる存在。
レース専業問屋の社長、Kさんです。

仕入れ編
〜お世話になった方7〜
みなさん、こんにちは。
前回は、攻めの経営者Tさんについて書きました。 中国出張、英語での価格交渉、為替の話。
スピードのある仕入れの世界。
その余韻がまだ残っている方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、少し違います。
派手さはない。 けれど、じわじわと効いてくる存在。
レース専業問屋の社長、Kさんです。

◾️ 紹介だった、はず
最初の出会いは、正直に言うと曖昧です。
私が勤めていた会社の大阪営業所。 仕入れの打ち合わせで大阪にいった時だったのか、 誰かに紹介されたのか。
はっきり思い出せない。
でも不思議と、 その後のやり取りは鮮明に覚えています。
人との縁は、 出会いの瞬間よりも、 積み重ねのほうが記憶に残るのかもしれません。
◾️ レースの世界は、少し違う
私はそれまで、婦人インナーを扱った経験がありました。
レース自体は、知らないわけではない。
けれど、「レース専業問屋」は別世界でした。
サンプル帳。
柄図鑑。
細かく分類された品番。
後半に事務所へ伺ったとき、 棚に並ぶ資料を見て思いました。
(これは、沼だな。)
レースは、装飾ではない。 一つの専門分野でした。

◾️ 「〇〇ちゃん」と呼ばれて
Kさんは、私を「〇〇ちゃん」と呼びました。
取引先同士の取引です。 普通なら、名字か役職。
でも、ちゃん付け。
最初は少し戸惑いましたが、不快感はありませんでした。
むしろ、親近感を持ちました。
フランク。
人の良い方。
でも、知識は深い。
職人肌ではないのに、レースのことを聞けば、 細部まで説明してくれる。
「これはな、下の生地で全然見え方が変わるで。」
その一言で、 レースの見方が変わりました。
◾️ ソフトで、軽やかで、上質
初めてしっかり触ったエンブロイダリーレース。
ソフト。
軽やか。
透け感。
フェミニンで、優しい。
そして、どこか上質。
糸の立体感。
柄の奥行き。
「高いのには、理由がある。」
そう思いました。
◾️ 相場は決まっている
値段交渉は、意外と静かでした。
レースには、ある程度の相場がある。
工賃が上がるときは、 事前に提示してくれる。
「今回はこれだけ上がるで。」
フェア。
無理に押し込まない。 でも、安売りもしない。
問屋としての矜持を感じました。
◾️ 偶数でしか頼めない
とはいえ、壁はありました。
加工単位。
偶数の反数。
「え、奇数では無理ですか?」
「無理やな。」
(使いづらいな……。)
仕入れ担当としては、 柔軟性が欲しい。
ここは正直、 小さなストレスでした。
◾️ 下生地を変えろ
しかしKさんは言いました。
「それやったら、下を変えたらええやん。」
同じレース柄。
でも、下生地を変える。
ツイード。
スーツ地。
私は最初、半信半疑でした。
(レースって、もっとフェミニンなものじゃないのか?)
でもやってみると、 想像以上に新鮮でした。
◾️ 付加価値という武器
生地+加工賃。
単価は上がる。
展示会では、動きが鈍いときもありました。
「ちょっと高いですね。」
その言葉に、 何度もうなずきながら内心焦る。
(やっぱり難しいか。)
でも、売れた日がありました。
通常レースでは見ない、 ツイードベースのエンブロイダリー。
「これ、面白いね。」
その一言で空気が変わった。
レースは装飾ではない。 生地を“格上げする装置”だと気づいた瞬間でした。
◾️ バスケの夜
Kさんは、バスケットボール好きでした。
NBA。
そして、日本人で最初にNBAに挑戦した。
田臥勇太の話。
「あれはすごいなあ。」
酒の席で、何度もその話になりました。
私はバスケをしていませんでした。
でも、私の母校は当時全国常連校。 さらに遡れば、オリンピック選手も輩出していた。
「ほう、それはすごいな。」
そこから一気に距離が縮まる。
仕入れの話より、 バスケで盛り上がる夜。
大阪出張のたび、 最後まで付き合ってくれました。
「ちゃんと帰れよ。」
そう言って送り出してくれる。
人情のある人でした。
◾️ 工場へ行け
あるとき、 エンブロイダリーレース工場を案内してくれました。
機械の音。
規則正しく動く針。
無数の糸。
私は立ち止まりました。
(こんな工程を経て、あのレースになるのか。)
頭の中の知識が、 立体になった瞬間でした。

◾️ 現場は、最高の教科書
現場を見ると、 アイデアが変わる。
この糸なら、 この下生地なら。
単なる「仕入れ」ではなく、 「企画」に近づいていく感覚。
Kさんは、 レースを売っていたのではありません。
知識をくれていたのです。
◾️ 業界が良かった頃
酒の席で、 昔の話もしてくれました。
「昔はな、もっと動いたんや。」
活気のあった時代。
私はその時代を知りません。
でも、話を聞きながら思いました。
(今をどう生きるかは、自分次第だな。)
◾️ 静かな財産
派手な事件はありません。 大きなトラブルもありません。
でも、 私の中に確実に残った。
ロットの考え方。 加工単位。 下生地の発想。 付加価値という視点。
生地バイヤーとしての財産。
レースは、 飾りではありませんでした。
私の知識の層になったのです。
Kさん、ありがとうございました。
◾️ 次回予告
これまで、仕入れの中でお世話になった7人の方をご紹介してきました。
けれど、まだまだご紹介できていない、 印象に残る方がいます。
そこで次回は、 そんな“忘れられない方々”を、 エピソードを交えながら一挙にご紹介します。
仕入れの世界は、 やはり「人」でできている。
どうぞ、次回もお付き合いください。
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