TexStylist

Textile Industry Column糸偏コラム:自由な視点
私の回顧録

2026.02.12:第58回 私の回顧録

仕入れ編
〜印刷屋との関わり〜

みなさん、こんにちは。

前回は、中国仕入れで体験した印象的なエピソードの話をしました。 国を越え、人を介し、文化の違いに戸惑いながら進めた仕入れの現場。

今回はそこから少しだけ話題がズレます。 けれど、仕入れ編としては決して脇役ではない、むしろ足元をしっかり支えてくれていた存在についてのお話です。

それが、「印刷屋との関わり」。

生地でも、糸でも、縫製でもない。 けれど、サンプル制作を語るうえで欠かすことのできない、大切な仕事でした。

印刷屋

◾️ サンプル制作は「紙」から始まっていた

私たちが扱っていたのは生地です。 当然、主役は生地。

ですが、その生地を“サンプル”として成立させるためには、 必ず必要になるものがありました。

それが、サンプル台紙

生地を貼り付け、情報を載せ、手に取ってもらうための土台。 この台紙の出来ひとつで、 生地の印象は驚くほど変わってしまいます。

だから、印刷物の仕入れもまた、生地の仕入れと同じくらい重要な業務でした。


◾️ 見た目だけではない、台紙に求められる条件

サンプル台紙に求められるのは、単なる「きれいさ」ではありません。

・ 生地を貼っても反らないこと
・ 何度もめくられてもヨレないこと
・ 色味が生地の邪魔をしないこと
・ 情報が読みやすく、疲れないこと

そして何より、触ったときの安心感

台紙が頼りないと、 その上に載っている生地まで軽く見えてしまう。 逆に、しっかりした台紙は、生地の価値を底上げしてくれます。

この感覚は、実際に現場で何度も失敗と修正を重ねて、ようやく身についたものでした。


◾️ 印刷屋は「発注先」ではなく「相談相手」

だからこそ、印刷屋さんとの関係は、 単なる発注・納品の関係ではありませんでした。

「この生地なら、紙はこれくらいの厚みがいいですね」 「今回は光沢を抑えた方が、質感が伝わりますよ」 「コストを抑えるなら、この刷り方もあります」

そんな会話を、何度も何度も重ねてきました。

こちらが要望を一方的に伝えるのではなく、 一緒に考え、悩み、答えを探す。

印刷屋さんは、ものづくりのパートナーだったと思っています。


◾️ 「四六判」や「菊版」という、業界の共通言語

印刷業界には、独特のサイズ表記があります。 代表的なのが、「四六判(しろくばん)」と「菊版(きくばん)」です。

・ 四六判:788mm × 1091mm
・ 菊版:636mm × 939mm

普段よく目にするA4やB4サイズは、 これらの大きな紙を断裁して作られています。

サンプル台紙で私たちが主に使っていたのは、 四六判の両面コート紙(190g/㎡)

硬すぎず、柔らかすぎず。 生地を貼ったときの安定感と、めくりやすさのバランスが良い紙でした。

紙のサイズ

◾ 「連(れん)」という単位で動く、紙の世界

紙の取引は、独特な単位で行われます。 四六判の場合、100枚または1,000枚をまとめて「1連(れん)」。

この「連」という単位が、 後々とんでもない数字になっていきます。


◾️ 年間160万枚という現実

年間で使用していたサンプル台紙の枚数は、 およそ160万枚

連数にすると、約670連。 重量にすると、10トン以上。

数字で書くとあっさりしていますが、 現実はなかなか壮観でした。

倉庫のスペース確保。
搬入・搬出の段取り。
湿気や反りを防ぐための保管管理。

紙は「ただの消耗品」ではなく、 れっきとした在庫であり、資産でもありました。

紙は資産

◾️ 在庫を切らさないための神経戦

サンプル台紙は、 「足りなくなってから発注」では間に合いません。

在庫が切れれば、 サンプルが作れない。 サンプルがなければ、営業が止まる。

だから常に、
「今、何連残っているか」
「次はいつ補充するか」
頭の片隅で考え続けていました。


◾️ 「出物の紙」を見逃さない

そんな中で、コストを抑えるための重要なポイントがありました。 それが、出物(でもの)の紙

印刷屋さんが抱えている持ち越し在庫や、 規格変更などで行き場を失った紙。

品質は問題ないのに、価格が抑えられている。 大量に使う私たちにとっては、まさにありがたい存在でした。

「今、ちょうどいい出物がありますよ」

この一言で、 一気に数十連単位の話が動くこともありました。


◾️ 気がつけば、支払い額は生地屋以上

ある時期、ふと帳簿を見て気づいたことがあります。

「……印刷屋さんへの支払い、  生地屋さんより多くないか?」

それくらい、 印刷と紙にかかるコストは大きなものでした。

だからこそ、
無駄な工程を減らすこと。
刷り直しをなくすこと。
一度で決めきること。

すべてが、重要なテーマでした。


◾️ 手作業の版下と、終わらない確認作業

初期の頃は、 原稿を手作業で作り、版下を起こし、 それを何度も確認するという工程でした。

ちょっとした文字修正。
配置のズレ。
色味の違い。

そのたびに時間とコストが積み重なっていきます。

今思えば、 とても手間のかかる方法でしたが、 その分、「印刷物を作る」という感覚を、身体で覚えた時期でもありました。


◾️ デジタル化がもたらした変化

やがて、印刷の世界にもデジタル化の波が押し寄せます。

データ入稿。
画面上での確認。
修正のスピードアップ。

作業効率は格段に上がりました。

ただ、その一方で、 「現物を触って決める」感覚が薄れていくことへの、 少しの寂しさも感じていました。


◾️ 印刷不況の中で、共に考えた時間

当時、印刷業界は長い不況の真っただ中でした。

価格競争。
仕事量の減少。
厳しい現実。

そんな中でも、 担当者の方とは何度も話し合いました。

「どうすれば品質を落とさず、コストを抑えられるか」 「どこを工夫すれば、無理が出ないか」

それは、取引というより、 一緒に乗り切るための相談だったように思います。


◾️ 今はもう会えない、大切な担当者の方へ

当時お世話になった印刷屋の担当者の方は、 残念ながら、今ではお会いすることができません。

けれど、 あの方がいなければ、 あの量のサンプルを、あのクオリティで回し続けることはできなかった。

そう断言できます。

この場を借りて、 心から感謝を伝えたいと思います。


◾️ まとめ|仕入れは「人」と「現場」でできている

印刷屋との関わりは、 生地の仕入れと同じくらい、 私に多くのことを教えてくれました。

紙を選ぶこと。 工程を考えること。 コストと品質のバランスを取ること。

そして何より、 人と信頼関係を築くこと

仕入れとは、 単にモノを買うことではない。 そのことを、改めて実感させてくれた現場でした。


◾️ 次回予告

次回は、 仕入れを通して出会い、支えてくれた人たちを、 何回かに分けて紹介していきたいと思います。

どんな商売でもそうですが、 仕入れ先や取引先との信頼関係は、何よりの財産です。

今回お話しした印刷業者の担当者の方も、 まさにその一人でした。

ということで、次回ご紹介するのは、 印刷業者のMさん

たくさんのエピソードがあります。 ぜひ、楽しみにしていてください。



◀︎◀︎◀︎ 【2026年2月11日】         【2026年2月13日】 ▶︎▶︎▶︎

コラムのトップに戻るには、こちらの糸偏コラム:自由な視点クリック