2026.02.10:第56回 私の回顧録
仕入れ編
〜仕入れルートの開拓2〜
みなさん、こんにちは。
いよいよ「国内の外」へ目を向けた理由
前回のコラムでは、国内での仕入れ環境が少しずつ変化し、
「これまでと同じやり方では、いずれ限界が来る」
そんな危機感を抱くようになったところまでをお話ししました。
在庫が減り、バイオーダーが主流になり、
“掘り出し物”と呼べるような生地に出会う機会は、確実に少なくなっていく。
その流れの中で、私が次に考えたのが「海外仕入れ」でした。
今回は、その第一歩となった中国での仕入れ体験について、できるだけ具体的にお話ししたいと思います。
◾️ 仕入れルートの開拓が持つ意味
仕入れの仕事は、目立つ仕事ではありません。
表に出ることも少なく、成果が数字でしか評価されないことも多い。
しかし、
・ 商品の品質
・ 販売価格
・ ラインナップの幅
これらすべてに影響する、非常に重要な業務です。
特に「どこから仕入れるか」という仕入れルートの選択は、
会社の方向性そのものを左右すると言っても、決して大げさではありません。
だからこそ、新しいルートを開拓する際には、
期待と同時に、強い緊張感もありました。
◾️ 仕事ではないけれど、縁のあった上海
今回の中国訪問は、2010年1月。
実は、上海自体はこれが3回目でした。
仕事とは関係なく、これまでに2度ほど訪れたことがあり、
街のスケール感やエネルギーの強さは、すでに肌で感じていました。
ただし、
「観光で見る中国」と
「仕事で向き合う中国」は、まったく別物です。
今回は、仕入れという明確な目的を持っての訪問。
関西国際空港で取引先と合流し、同じ便で上海へ向かいました。
◾️ 空港から始まる“仕事モード”
飛行機が離陸したあたりから、自然と会話は仕事の話に切り替わります。
今回の狙い、見たい市場、想定している価格帯。
頭の中では、
「本当にうまくいくだろうか」
「国内と同じ感覚で大丈夫だろうか」
そんな不安が、ずっとぐるぐるしていました。
◾ 最初に訪れたOEM工場
上海に到着後、まず向かったのは、
すでに取引のあったOEMを依頼している会社でした。
ここでは、いきなり価格交渉の場面に立ち会うことになります。
◾️ “1円”をめぐる交渉
OEMの発注数量は、万単位になることも珍しくありません。
そのため、1円の違いが、最終的には大きな金額差になります。
現地では、
「あと1円下げられないか」
「この条件なら、もう少し何とかならないか」
そんなやり取りが、当たり前のように繰り返されていました。
日本での仕入れ交渉では、
ここまで細かい金額交渉をすることは、正直あまりありません。
その光景を目の当たりにして、
「これが海外のスタンダードなんだな」
と、強く印象に残りました。
◾ 数字に対する感覚の違い
どちらが良い・悪いという話ではありません。
ただ、数字に対する向き合い方が、明らかに違う。
1円でも、0.5円でも、積み重なれば大きな差になる。
その感覚が、非常にシビアでした。
◾️ 世界最大級の生地市場へ
次に向かったのが、
浙江省・紹興にある 柯橋市場(中国軽紡城) です。
当時ですが、
約3万店舗が集まる、世界最大規模の生地市場として知られていました。
◾️ 圧倒的なスケール感
市場に一歩足を踏み入れた瞬間、
言葉を失うほどの光景が広がっていました。
どこを見ても、生地、生地、生地。
通路の両脇に、延々と続く店舗。
その奥にも、さらに店舗。
日本では、まず見られないスケールです。
◾️ 生地を運ぶ“日常の風景”
特に印象的だったのが、生地の運搬風景でした。
トラックやリヤカーに、
「それ、積みすぎでは?」
と思うほど、生地が山積みになっている。
真っ赤な生地が、荷台からはみ出すように積まれ、
それが普通に街を走っている。
どこか現実感がなく、
まるで映画や漫画のワンシーンを見ているようでした。
◾️ 店舗の多様性
市場内には、実にさまざまな店舗がありました。
・ アラブ系の民族衣装向け生地専門店
・ 大量ロットを前提とした問屋的な店
・ 加工に特化したショップ
同じ「生地」でも、用途も背景もまったく違う。
その多様性に、ただただ圧倒されました。
◾️ 今回の仕入れテーマ
今回の仕入れでは、
「日本では高価になりがちな生地」
「国内ではあまり見かけない加工」
を意識して選びました。
具体的には、
・ シフォンの刺繍生地
・ ニードルパンチ加工を施した生地
・ 先染め+プリントの凝った生地
どれも、日本で仕入れると価格が跳ね上がるものばかりです。
◾️ 価格の魅力と、その裏側
現地で提示された価格は、日本の感覚で言えば、
おおよそ6掛け程度。
正直、「安いな」と感じました。
ただし、
・ 検品費用
・ 関税
・ 輸送コスト
これらを加味すると、最終的には8掛け前後になります。
◾️ 数字だけでは判断できない
確かに安い。
しかし、それだけで判断するのは危険です。
物性、耐久性、ロットごとの差。
国内基準で見たときに、問題がないかどうか。
コスト面のメリットはあるものの、
その分、リスクも確実に存在していました。
◾️ 海外仕入れで痛感した難しさ
実際に仕入れてみて、
海外市場ならではの難しさを、いくつも実感しました。
1.品質管理の壁
事前にサンプルを確認していても、
量産ロットでは微妙に違う。
色、風合い、仕上がり。
現地での検品は、ほぼ必須だと感じました。
2.言語の壁
細かい仕様やニュアンスは、
やはり通訳を介さないと伝わりません。
「このくらいなら伝わるだろう」という感覚は、
簡単に裏切られます。
3.物流と関税という現実
仕入れ単価が安くても、
輸送費と関税が積み重なると、
国内仕入れと大差がなくなるケースもあります。
4.リスクと向き合う覚悟
万が一、日本の基準に合わなかった場合、
簡単に返品できるわけではありません。
仕入れとは、
「責任を引き受ける仕事」なのだと、改めて感じました。
◾️ 「最初で最後」の中国仕入れ
こうした経験を踏まえ、
中国マーケットからの直接の仕入れは、結果的に最初で最後となりました。
決して無駄だったわけではありません。
むしろ、得たものは非常に大きかった。
◾️ 見て、触れて、知ったからこそ
実際に現地を見て、
市場の空気を感じ、
人と話し、交渉し、悩んだ。
そのすべてが、
その後の仕入れの判断基準を作ってくれました。
◾️ おわりに
今回は、中国での仕入れルート開拓についてお話ししました。
初めての海外仕入れは、驚きの連続であり、同時に多くの課題も突きつけられる経験でした。
次回は、この中国仕入れの中で起きた具体的なエピソードや、
そこからどのように考え方が変わっていったのか、
そして次の一手についてお話ししたいと思います。
ぜひ、次回もお付き合いください。