2026.02.09:第55回 私の回顧録
仕入れ編
〜仕入れルートの開拓〜
みなさん、こんにちは。
生地と向き合う時間が、少しずつ変わっていった
前回のコラムでは、生地の産地展を巡りながら、改めて「仕入れる」という行為の奥深さについて触れました。
作り手の想い、背景にある産地の空気感、そして一反一反に込められた時間。
そうしたものに触れれば触れるほど、仕入れという仕事は単なる「モノの調達」ではなく、「考え方」や「姿勢」が問われるものだと感じるようになっていきました。
今回は、その延長線上にあるお話です。
テーマは「仕入れルートの開拓」。
今でこそ当たり前のように語られる言葉ですが、当時の私にとっては、かなり大きな挑戦でした。
◾️ 生地を仕入れる、という仕事の本質
アパレルメーカーが生地を仕入れる場合、基本的な考え方はとてもシンプルです。
「作りたい服に、最適な生地を選ぶ」
ただ、それを実現するためには、素材感、色、風合い、価格、納期など、さまざまな条件を同時に満たす必要があります。
一方で、生地を“販売する側”になると、話は少し変わってきます。
特定のアイテムに最適な生地を選ぶのではなく、
できるだけ多くの人のニーズに応えられる品揃えが求められるからです。
通販という形態で生地を扱う以上、
・プロのデザイナー
・個人のクリエイター
・服づくりを始めたばかりの方
など、実に幅広い方々が顧客になります。
「この生地があって助かりました」
そう言ってもらえる確率を高めるには、選択肢そのものを増やす必要がある。
そのため、仕入れの戦略は非常に重要なテーマでした。
◾️ すべてを正規単価で仕入れるという現実
理想を言えば、すべての生地を正規のルートで、正規の単価で仕入れたい。
品質も安定し、背景も明確。
メーカーとの関係性も良好に保てます。
しかし、現実はそう簡単ではありません。
生地の原価には、さまざまな要素が積み重なっています。
◾️ 生地価格を構成するもの
生地の仕入れ価格は、大きく分けると以下の要素で構成されています。
・ 糸代(原材料費)
・ 織工賃(生産コスト)
・ 染色整理加工代(仕上げコスト)
・ メーカー利益
・ 問屋のマージン(問屋経由の場合)
これらが積み重なることで、最終的な価格が決まります。
特に問屋を通す場合は、複数の中間マージンが加算されることも珍しくありません。
もちろん、それぞれに役割があり、必要なコストです。
ただ、通販で生地を販売する立場としては、そのまま価格に転嫁すると、どうしても販売価格が高くなってしまう。
「良い生地だけど、ちょっと高いですね」
その一言が積み重なると、選ばれにくくなってしまうのも事実でした。
◾ 仕入れ担当者の“腕の見せ所”
だからこそ、仕入れ担当者には工夫が求められます。
いかに上手く仕入れるか。
どこで、どのタイミングで、どんな条件の生地を確保するか。
その差が、最終的な価格競争力につながります。
私自身も、仕入れを任される立場として、
「どうすれば、質を落とさずに価格を抑えられるか」
その問いと向き合い続けていました。
◾️ 在庫という“重み”
メーカーや問屋は、一定量の在庫を持っています。
しかし、在庫は売れなければ“資産”であると同時に、“負担”にもなります。
在庫が増えれば、
・ 倉庫代
・ 管理コスト
・ 人件費
など、さまざまなコストが発生します。
そのため、一定の条件が揃うと、在庫処分という判断が下されます。
◾ 在庫処分が行われる理由
在庫処分には、主に以下のような背景があります。
1.管理コストの削減
売れ残った在庫は、帳簿上は資産として残ります。
しかし、実際には現金を生まないため、決算時には利益を圧迫する要因になります。
2.決算対策
決算前に在庫を減らすことで、財務状況を健全に見せる狙いがあります。
3.新商品の導入
新しいシーズンの生地を仕入れるためには、倉庫を空ける必要があります。
そのため、旧在庫は早めに処分されることが多いのです。
仕入れ担当者にとっては、こうしたタイミングこそが狙い目です。
◾️ 「良い在庫処分品」との出会い
在庫処分と聞くと、
「売れ残り=質が悪い」
そんなイメージを持たれる方もいるかもしれません。
しかし、実際にはそうとは限りません。
時代の流れや企画変更、数量の読み違いなど、理由はさまざまです。
中には、
「なぜこれが残っているのだろう?」
と思うほど、品質の良い生地が含まれていることもあります。
そうした生地を、適切な価格で仕入れることができれば、
・ 品質
・ 価格
・ 満足度
そのすべてを高いレベルで提供できます。
◾️ 少しずつ感じ始めた違和感
ただ、こうした仕入れを続けて数年が経つと、少しずつ変化を感じるようになりました。
「あれ、最近あまり在庫が出てこないな」
「以前ほど条件の良い話が回ってこない」
その理由は、いくつかありました。
◾️ 国内市場の変化
まず一つ目は、日本全体の生産量の減少です。
アパレル産業全体が縮小する中で、生地の生産量も減っていきました。
生産量が減れば、当然、余剰在庫も減ります。
そもそも「処分するほど作らない」という流れが強くなっていったのです。
◾️ バイオーダーへの移行
二つ目は、バイオーダー比率の上昇です。
受注生産が主流になり、メーカーや問屋が在庫を抱えなくなりました。
必要な分だけ作る。
無駄を出さない。
理想的ではありますが、仕入れの選択肢は確実に減っていきました。
◾️ 国内仕入れの限界
一部の商社では在庫を持っているケースもありましたが、
全体としては、国内だけで幅広い品揃えを維持することが難しくなってきた。
「このままでは、いずれ行き詰まるかもしれない」
そんな危機感を、はっきりと感じるようになりました。
◾️ 視野を広げるという選択
そこで考えたのが、
国内市場にこだわらない仕入れです。
これまで築いてきた国内のルートは大切にしつつ、
新たな可能性を探る必要がありました。
そして、自然と視線は海外へ向かっていきました。
◾️ 海外仕入れという未知の世界
とはいえ、海外仕入れは簡単な話ではありません。
当時の私は、貿易に関する知識も経験もほとんどありませんでした。
・ 言葉の壁
・ 商習慣の違い
・ 品質管理
・ 支払い条件
・ 輸送リスク
考えれば考えるほど、不安要素は山ほどありました。
◾️ 代理店仕入れの限界
当時すでに、ヨーロッパの生地を代理店経由で仕入れることはしていました。
ただ、それらはどちらかと言えば、
・ 高価格帯
・ 付加価値重視
の商品が中心です。
もちろん魅力的ではありますが、
「幅広い品揃え」「価格帯のバリエーション」という点では、別のアプローチが必要でした。
◾️ 鍵となった“人とのつながり”
そんな中、思いがけないきっかけが訪れます。
取引先の一つに、OEMを手掛けている会社がありました。
そこに在籍していた中国人の担当者の存在が、大きなヒントになったのです。
◾️ 中国との縁
その方は、もともと中国の大手アパレルメーカー
「Yグループ」に在籍していた経歴を持っていました。
中国国内の生地事情に詳しく、
工場や商社とのネットワークも非常に広い。
「もしかしたら、この方となら直接取引ができるかもしれない」
そんな期待が膨らんでいきました。
◾️ 本気で動くと決めた瞬間
話を重ねるうちに、
「一度、現地を見に行きましょう」
という流れになりました。
最終的には、
・ その会社の社長
・ 営業担当者
・ 中国人担当者
そして私。
4人で、中国へ仕入れルートを開拓しに行くことを決断しました。
◾️ 次回へつづく
こうして、私にとって初めての本格的な海外仕入れへの挑戦が始まりました。
右も左も分からない中で、何を見て、何を感じ、何を学んだのか。
次回は、実際に中国へ渡航し、現地で体験した仕入れのリアルをお話しします。
うまくいったことも、失敗したことも、すべて含めて。
ぜひ、次回もお付き合いください。
0