TexStylist

Textile Industry Column糸偏コラム:自由な視点
私の回顧録

2026.02.08:第54回 私の回顧録

仕入れ編
〜生地の産地展〜

みなさん、こんにちは。

前回のコラムでは、JITACの見本市を通じて、輸入生地や代理店という立場から見た「仕入れの現実」についてお話ししました。 今回は、国内の生地産地そのものに足を運ぶ「産地展」についてお話ししたいと思います。

海外展示会や都市型の見本市が「市場を見る場」だとすれば、 産地展は「現場を見る場」。 同じ生地を見るにしても、空気の密度がまったく違います。

招待状

◾️ 産地展との出会いは、だいたい招待状から

私が産地展に足を運ぶきっかけは、ほとんどの場合、取引先からの招待状でした。 「今年もやりますので、ぜひ」 そんな一言が添えられた案内が届くと、スケジュールを調整して向かう。 今振り返ると、それが当たり前のようになっていました。

産地展は、特定の地域に根ざした機屋や加工場、コンバーターが集まり、自社の技術や生地を紹介する場です。 事前に公式サイトや資料で情報を得ることもできますが、 やはり現地に行って、直接見る・触る・話すことに勝るものはありません。


◾️ 産地展に行く理由

産地展には、当然ながら競合他社も集まります。 そのため、取引先によっては 「個別展示会」 「内覧会」 という形で、特定の顧客だけを招くケースもあります。

それでも、産地展には産地展ならではの価値があります。 それは、産地全体の空気感を一度に感じられることです。

同じ地域にありながら、
・ 得意とする素材
・ 設備の違い
・ 考え方やスタンス
が、驚くほど異なる。

その違いを一気に体感できるのが、産地展の面白さでもあります。


◾️ 米沢展で感じた「産地の厚み」

絹の産地から、多素材の産地へ

数ある産地展の中でも、特に印象に残っているのが米沢展です。 米沢といえば、古くから絹織物の産地として知られていますが、 実際に足を運んでみると、そのイメージは良い意味で裏切られました。

合繊、ウール混、機能素材。 時代の変化に合わせて、しっかりと守備範囲を広げている。 「産地は変われる」 そう感じさせてくれた場所でもありました。

思い出深い、あの展示

特に心に残っているのは、 以前このコラムでもご紹介した産学ファッションショーで制作した作品を、 米沢展の会場で展示していただいたことです。

学生たちと一緒に試行錯誤しながら作り上げた作品が、 業界の方々の目に触れる。 その場に立って眺めていたときの感覚は、今でもよく覚えています。

「生地は、使われてこそ意味がある」 そんな当たり前のことを、改めて実感した瞬間でした。

地場コンバーターという存在

米沢では、地場のコンバーターとも取引がありました。 コンバーターは、複数の機屋から生地を集約し、販売する役割を担います。

最大のメリットは、決済を一本化できること。 機屋ごとに精算する手間が省け、取引が非常にスムーズになります。

もちろん、口銭は発生します。 ですが、信用を担保にした取引ができるという点では、 非常に合理的な仕組みだと感じていました。

米沢展

◾️ 尾州展が教えてくれた、技術の重なり

世界が認める毛織物産地

毛織物の一大産地として知られる尾州。 ここも、何度か足を運んだ産地のひとつです。

尾州展の会場には、 「ウールとは、ここまで表情を変えられるのか」 と思わせる生地が並びます。

国内ブランドはもちろん、海外メゾンにも生地を供給している理由が、 一目でわかる空間でした。

伝統と最先端が同居する場所

尾州の魅力は、昔ながらの職人技と、最新設備が同じ地域に存在していることです。

縮絨を手作業に近い感覚で行う機屋もあれば、 最新鋭の機械で高効率な生産を行う企業もある。

どちらが正解、という話ではありません。 その幅の広さこそが、尾州という産地の強さなのだと思います。

尾州展

◾ 行かなかった産地、京都の話

不思議と縁がなかった京都展

意外に思われるかもしれませんが、 私は京都の産地展には一度も足を運んだことがありません

京都といえば、 ジャカード、プリント、和装由来の高度な技術。 生地産業としては非常に奥深い地域です。

京都スクープという伝説

産地展には行っていませんが、 「京都スクープ」という展示会の話は、昔からよく耳にしていました。

90年代、ジャパンクリエーションが始まる前、 国内最大規模とも言われた展示会。 受付に舞妓さんが立っていた、という話まで残っています。

今となっては、少し伝説めいた話ですが、 それだけ産地展が華やかな時代もあったという証なのかもしれません。


◾ 意外性に満ちた産地展

高野口で知った、パイルの世界

少し珍しい産地展として印象に残っているのが、高野口です。 和歌山県橋本市高野口町を中心とした地域で、 パイル織物や編物を得意とする産地です。

正直に言えば、訪れるまで 「どんな生地を作っているのか」 ほとんど知りませんでした。

技術力に驚かされた理由

実際に見て、触れて、話を聞いて、 高野口の技術力には驚かされました。

パイル織は、
・糸の選定
・織りの精度
・加工技術
そのすべてが揃わなければ、成立しません。

だからこそ、簡単には真似できない。 産地としての強みが、はっきりと見えました。

天龍産地という存在

もう一つ印象深いのが、天龍産地です。 静岡県磐田市、掛川市、袋井市、周智郡に広がる織物産地で、 国内唯一のコーデュロイと別珍の生産地でもあります。

遠州産地として浜松の綿織物は知っていましたが、 天龍を知ったことで、 「産地は、知れば知るほど面白い」 と感じるようになりました。


◾️ 産地展を訪れる、本当の意義

生地は、情報の集合体

産地展を訪れる最大の意義は、 新しい生地との出会い、そして 取引先との関係強化にあります。

生地は、単なる商品ではありません。 技術、歴史、人、環境。 それらすべてが重なって、一反の生地になります。

産地ごとの強みを知る

例えば――

・ 米沢:合繊・機能素材の幅広さ
・ 尾州:ウールの質感と仕上げ
・ 高野口:高付加価値パイル
・ 天龍社:唯一無二のコーデュロイ・別珍

こうした特徴を把握しておくことが、 仕入れの精度を大きく左右します。

会話の中に、ヒントがある

産地展では、生産者と直接話ができます。

その会話の中に、
・ 開発の背景
・ 今後の方向性
・ 課題や悩み
が、自然とにじみ出てきます。

その情報こそが、 仕入れ担当にとっての「武器」になります。


◾️ 次回は

次回は、「仕入れルートの開拓」についてお話しします。 どのようにして新しいルートを見つけ、 どうやって関係を築いていったのか。 少し実務寄りの視点で振り返ってみたいと思います。

どうぞ、お楽しみに。



◀︎◀︎◀︎ 【2026年2月7日】         【2026年2月9日】 ▶︎▶︎▶︎

コラムのトップに戻るには、こちらの糸偏コラム:自由な視点クリック