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Textile Industry Column糸偏コラム:自由な視点
私の回顧録

2026.01.22:第37回 私の回顧録

仕入れ編
〜商品知識〜

◾️ サンプル作りの先に見えてきたもの

前回までのコラムでは、サンプル作りについて、工程や企画、そしてその裏側にある考え方をお話ししてきました。 サンプルは、生地の魅力を伝えるための大切な道具であり、言わば「黙って働く営業マン」でもあります。

ただ、サンプルをどれだけ丁寧に作っても、そこに確かな商品知識が伴っていなければ、本当の意味での説得力は生まれません。 今回は、仕入れの仕事の根幹とも言える「商品知識」について、私自身の戸惑いや失敗、そして学びを交えながらお話ししていきたいと思います。

商品知識

◾️ 仕入れは「買う仕事」ではなかった

仕入れという仕事に対して、 「商品を選んで、安く仕入れる仕事」 そんなイメージを持たれている方も多いかもしれません。

実際に私も、仕入れを担当する前は、どこかそんな認識を持っていました。 ですが、いざ現場に立ってみると、仕入れは単なる“購入作業”ではなく、判断と知識の積み重ねで成り立つ仕事だということを思い知らされました。

特に洋服に関わる生地の仕入れは、 素材、糸、織り・編み、加工、用途、価格、納期── さまざまな要素が複雑に絡み合っています。

その一つでも理解が浅いと、判断を誤ってしまう。 そんな緊張感のある仕事でした。


◾️ 新人時代の戸惑いと、最初の一歩

仕入れを担当することになった当初、私はまったくの素人というわけではありませんでした。 洋服屋でのバイヤー経験があり、柄名や素材名、糸に関する基礎的な知識は、ある程度身についていたと思います。

ただし、それはあくまで小売の現場で必要とされる範囲のもの。 生地屋として求められる、より専門的で幅広い知識量には、到底及ばないことも自覚していました。 特に、レディース向けに使われる多様な素材や表現については、ほとんど未知の世界だったのです。

仕入れ担当という立場になった以上、 生地の商品知識は「あればいいもの」ではなく、仕事の土台そのもの。 分からないことと向き合いながら、一つずつ積み重ねていくしかありませんでした。


◾️ 「わからない」ことから始まる学び

そんな頃、前任者から聞かせてもらったエピソードがあります。 営業職出身だったその方も、仕入れを任されるまで、生地の知識はほとんどなかったそうです。

ある日、「ヘリンボーンの生地を持ってきてほしい」と頼まれたものの、 当時はそのヘリンボーン自体を知らなかった。 そこで、お客様と一緒に車に積んでいた生地を一枚ずつ見ながら、 実物を通して覚えていったのだと話していました。

この話を聞いたとき、 「分からないのは自分だけじゃない」 そう思えたことで、肩の力が少し抜けました。 知らないことは、恥ではなく、出発点なのだと。


◾️ 言葉の曖昧さが、仕事を止める

実は、私自身にも似たような失敗があります。 「カットの生地を探してほしい」と言われ、 迷わず“カットソー用の生地”を思い浮かべてしまったのです。

実際に求められていたのは、「カットボイル」や「シフォンカット」。 言葉を知っているだけでは足りず、 意味や使われ方まで理解していなければ、仕事としては通じません。

この経験から、 知識の曖昧さが、現場の判断や信頼に直結することを強く意識するようになりました。


◾️ 生地屋の世界は、想像以上に広かった

メンズ小売でのバイヤー経験から、 スーツ地や定番素材にはある程度の自信がありました。 ですが、生地屋で扱う世界は、それをはるかに超える広さと深さがありました。

素材の違い、織りと編みの構造、加工による表情の変化。 同じ名前でも、用途や質がまったく違う生地。 「知っているつもり」が、次々と崩されていきます。

それでも、不思議と嫌にはなりませんでした。 むしろ、知れば知るほど興味が湧いてくる。 それが、生地の世界の面白さだったのだと思います。


◾️ 商品知識は、点ではなく“線”で捉える

仕入れを続ける中で気づいたのは、 商品知識は一つひとつを“点”で覚えようとすると、必ず行き詰まるということでした。

そこで意識するようになったのが、体系的に整理する考え方です。 たとえばプリント生地であれば、 プリント方法、染料と顔料の違い、用途や向き不向き。 こうして全体の中で位置づけていくことで、理解も記憶も深まっていきました。

点ではなく“線”で捉える

◾️ 仕入先と原価構造も、商品知識の一部

商品知識は、生地そのものだけでは完結しません。 仕入先の得意分野や産地の特性、 そして糸代や加工賃、ロットや納期といった原価構造。

これらを理解してはじめて、 価格の妥当性や、交渉の着地点が見えてきます。


◾️ 現場を見るという選択

知識を深めるため、私はできるだけ製造現場を見るようにしていました。 糸が選ばれ、染められ、織られ、仕上げられていく工程。 そこには、資料だけでは得られない学びがあります。

「現場を見ると値下げ交渉がしにくくなる」 そんな意見もありましたが、 私は、現場を知ったからこそできる提案があると感じていました。

素材を変える、工程を整理する、ロットを工夫する。 単なる値下げではなく、建設的な選択肢が増えていったのです。

製造現場

◾️ 生地の先に、洋服を想像する

仕入れの仕事で、常に意識していたことがあります。 それは、「この生地は、どんな洋服になるのか」を想像すること。

同じデザインでも、生地が変われば服の表情はまったく変わります。 生地は、必ず誰かの手を通り、誰かが着るものになる。 その“先”を思い描けるかどうかが、仕入れ担当としての大切な視点でした。


◾️ 仕入れを通じて得た、三つの学び

最後に、仕入れの仕事を通じて強く感じたことを、三つにまとめます。

1つ目。広く学び、必要なところを深く掘ること。
2つ目。現場を知ることが、信頼につながるということ。
3つ目。常に「洋服になる姿」を意識すること。

今回は、仕入れ編・第二章として「商品知識」についてお話ししました。


◾️ 次回へ向けて

次回は、仕入れ担当として販売にどう関わっていくのか。 その接点について、私なりの経験をお伝えできればと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。 次回も、楽しみにお待ちください。



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