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Textile Industry Column糸偏コラム:自由な視点
私の回顧録

2026.01.23:第38回 私の回顧録

仕入れ編
〜売ること〜

◾️ 販売の視点

みなさん、こんにちは。
糸偏コラムも第38回を迎えました。前回までお伝えしてきた「商品知識」の話を、今回はもう一歩進めて、“販売の視点”から振り返ってみたいと思います。

仕入れ担当というと、「生地を選んで買う人」というイメージを持たれがちですが、実際の業務はそれだけではありませんでした。むしろ、仕入れた商品を“どう売るか”まで含めて考えることが、私の仕事だったように思います。仕入れと販売は別物ではなく、常に地続きでつながっていた──そんな実感を持ちながら、当時のことを思い返しています。

仕入れと販売

◾️ 仕入れは「売ること」から逆算する

仕入れの仕事をするうえで、私が常に意識していたのは、「この生地は、どうやって売るのか」という視点でした。どれだけ良い生地でも、売り方を誤れば、その魅力は伝わりません。逆に言えば、伝え方ひとつで、生地の価値は大きく変わります。

振り返ってみると、当時の私は、次の三つのことを特に意識していたように思います。

・ 商品の魅力を、どう伝えるか
・ 販路を、どう広げるか
・ まだ出会っていないお客様に、どう届けるか

今回は、この三つの視点を軸に、仕入れ担当としての取り組みをお話ししていきます。


◾️ 商品の魅力は「第一印象」で決まる

どれほど品質の良い生地でも、最初に目にしたときに心をつかめなければ、手に取ってもらうことはできません。そこで私がまず考えたのが、「第一印象をどう作るか」という点でした。

生地通販では、実際に触れる前の印象がとても重要です。サンプルを手に取った瞬間に、「いいな」「使ってみたいな」と感じてもらえるかどうか。その入り口を整えることが、仕入れ担当としての大切な役割でした。


◾️ サンプルの色使いで、季節を伝える

具体的な取り組みのひとつが、サンプルに使う文字色を季節ごとに変える工夫でした。

それまでは、サンプルの表記はすべて黒文字で統一されていました。機能的ではありますが、少し無機質な印象でもありました。そこで、春にはピンク、夏にはブルー、秋にはブラウン、冬にはグレーといったように、季節を感じさせる色を取り入れてみたのです。

従来から「SPRING」「SUMMER」といった表記はしていましたが、色が変わるだけで、視覚的な印象は大きく変わります。パッと見ただけで季節感が伝わることで、お客様の中で生地のイメージが膨らみやすくなりました。

小さな工夫ではありましたが、「見せ方次第で、印象は変わる」ということを実感した出来事でした。


◾️ 情報があると、生地は選びやすくなる

見た目と同じくらい大切だったのが、商品情報の整理です。

この生地は何でできているのか。
どんなアイテムに向いているのか。
どんなシーンで使いやすいのか。

こうした情報があるかどうかで、お客様の選びやすさは大きく変わります。

そこでサンプルには、その生地に適したアイテムをイラストで表記するようにしました。コート向け、ワンピース向け、ブラウス向けなどをアイコン化し、ひと目で用途が分かるようにしたのです。

特に、趣味で洋裁を楽しんでいる方にとっては、「この生地で何が作れるのか」が明確になることは、とても重要でした。完成形を想像しやすくすることで、生地選びのハードルを下げることができたように思います。

アイコン

◾️ 販路を広げるという課題

仕入れた商品を活かすためには、販路を広げることも欠かせませんでした。当時の新規顧客獲得の中心は、雑誌広告でした。

文化出版局の『ミセスのスタイルブック』や、ブティック社の『レディブティック』は、洋裁好きな方々にとって定番の媒体です。そこに広告を掲載し、電話やハガキで問い合わせをいただき、サンプルを送付する──そんな流れができていました。

特に、仕事として洋裁をされている方向けに絞った広告は、購買力のある顧客層にしっかり届いていました。ただ、その一方で、「もっと幅広い方に届けたい」という思いも強くなっていきます。


◾️ 趣味層に向けた、新しいサンプル

そこで取り組んだのが、趣味で洋裁を楽しむ方向けのサンプル作りでした。

価格を抑えたサンプルセットを年に三回用意し、「まずは作ってみる楽しさ」を感じてもらえる内容にしました。難しいことは抜きにして、「この生地で、こんなものが作れますよ」という入り口を用意するイメージです。

この取り組みによって、それまで接点のなかったお客様にも、生地の魅力を届けることができました。結果として、購買層が広がり、長くお付き合いできるお客様が増えていったのです。


◾️ 新たな販路としてのホームページ

さらに大きな挑戦だったのが、ホームページの立ち上げでした。2004年4月1日、仕入れ担当として関わりながら、ホームページを開設することになります。

当時は、まだ今ほどネット販売が一般的ではありませんでした。ただ生地を並べて売るだけでは、なかなか興味を持ってもらえない。そこで意識したのが、「洋裁の楽しさを伝える場」にすることでした。

洋裁教室の擬似体験コンテンツを用意したり、娘のために作った洋服を日記形式で紹介したり。商品を売ることよりも、まずは洋裁に親しんでもらうことを大切にしました。

その結果、ホームページは単なる通販サイトではなく、お客様との距離を縮める場所として機能していきました。


◾️ 潜在顧客と出会うということ

こうした取り組みを通じて強く感じたのは、「潜在顧客」の存在です。

最初から生地を買うつもりはなくても、洋裁に興味がある。 何かを作ってみたい気持ちはある。

そうした方々に向けて、入り口を用意することで、新しい出会いが生まれていきました。簡易サンプルやホームソーイング向けの提案は、そのきっかけづくりだったのだと思います。

潜在顧客

◾️ 生地の先にある「洋服」を想像する

これらすべての取り組みの根底には、常に「洋服」がありました。

この生地は、どんな洋服になるのか。 それを着る人は、どんな気持ちになるのか。

生地は、最終的には必ず洋服になります。その先を想像できるかどうかが、仕入れ担当としての大切な視点でした。

私自身、娘のために服を作る中で、生地が持つ力や、完成したときの喜びを何度も味わってきました。その経験があったからこそ、仕入れた生地一つひとつに、自然と想いが重なっていったのだと思います。


◾️ 仕入れと販売は、ひとつの仕事

仕入れは、買う仕事ではなく、売る仕事でもある。

商品を選び、仕入れ、見せ方を考え、届け方を工夫する。そのすべてがつながって、初めて生地は価値を持ちます。仕入れ担当として過ごした時間は、私にとって「商いの本質」を学ぶ時間でもありました。


◾️ 次回へ向けて

今回は、仕入れの仕事における「販売の視点」についてお話ししました。

次回は、今回少し触れたホームページについて、もう少し深く掘り下げていきます。2004年に立ち上げたホームページが、どのように育ち、どんな役割を果たしていったのか。その舞台裏をお伝えする予定です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回も、どうぞよろしくお願いいたします。



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