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Textile Industry Column糸偏コラム:自由な視点
私の回顧録

2026.01.21:第36回 私の回顧録

仕入れ編
〜サンプル作り 3〜

◾️ 少しだけ前回の続きから

みなさん、こんにちは。
前回のコラムでは、サンプル作りの現場や工程、そしてそれを支える人たちの存在についてお話ししました。 今回は、最初の段階──サンプル作りの「企画」そのものに焦点を当ててみたいと思います。

実はこの企画の段階こそが、サンプル作り全体の方向性を決める、いちばん重要なパートでした。 生地の良し悪し以前に、「どう見せるか」「どう伝えるか」。 ここを誤ると、どんなに良い生地でも、埋もれていってしまいます。

サンプル

◾️ サンプル作りは、企画で8割決まる

サンプル作りというと、 「生地を切って、貼って、送る」 そんな単純な作業をイメージされる方も多いかもしれません。

ですが、実際はまったく違います。
どの生地を
どの順番で
どの切り口で
どんな言葉を添えて
届けるのか。

この企画の設計図がなければ、サンプルはただの布切れになってしまいます。

特に通信販売の場合、サンプルを発送した時点で、こちらからできることはほとんどありません。 あとは、お客様が封を開け、手に取り、触れ、考える時間にすべてを委ねることになります。

だからこそ、 「発送する前に、どれだけ考え抜けるか」 それが勝負でした。


◾️ 最初の仕事は、地味な在庫整理から

サンプル企画のスタートは、いつも在庫整理から始まりました。

派手さはありません。 むしろ、かなり地味で根気のいる作業です。

・ 一年中、安定して動く定番品
・ 季節限定で輝く生地
・ 思ったより動かなかった生地
・ 理由は分からないが、なぜか残っている在庫

それらをひとつひとつ、あらためて見直します。

ここで大切なのは、 「売れた・売れなかった」という結果だけで判断しないこと。

なぜ売れたのか
なぜ動かなかったのか
本当に生地の問題なのか
見せ方に原因はなかったのか

そんなことを、自分に問いかけながら整理していきます。


◾️ 分類することで、生地の個性が見えてくる

企画の段階では、生地を細かくグルーピングしていきました。

・ 柄別
・ 素材別
・ 用途別
・ 生地幅別
・ 価格帯別
・ 季節感

こうして並べ直してみると、不思議なことに、 今まで見えていなかった生地の表情が浮かび上がってきます。

「この生地、単体だと地味だけど、並べ方次第で活きるな」 「このグループ、まとめて見せた方が伝わるかもしれない」

企画とは、こうした気づきの積み重ねでもありました。


◾️ サンプルにするか、しないかの判断

すべての在庫が、必ずしもサンプルになるわけではありません。

在庫量が少ないもの
すでに終盤に差し掛かっているもの
次の展開が難しいもの

そうした生地は、無理にサンプル化せず、 着分カットとして出張販売に回したり、 セール用として別ルートで活かしたりしました。

サンプルを作るということは、コストもかかりますし 「これから売りに行く」と決意するものでもあります。

その覚悟が持てない生地は、サンプルにはしませんでした。


◾️ 転記という、もうひとつの企画作業

在庫が整理されると、次は転記の作業に入ります。

品番を新しく振り直し、 過去のイメージを一度リセットする。

これも立派な企画のひとつでした。

特に長く取引のあるお客様にとっては、 「見たことがある生地」になってしまうと、 どうしても新鮮味が薄れてしまいます。

そこで、 中身は同じでも、見せ方を変える。 生地の貼る順番を変える。

それだけで、生地はもう一度販売のチャンスをもらえるのです。


◾️ 東京と大阪、在庫入れ替えの意味

転記と並行して行っていたのが、 東京と大阪の在庫入れ替えでした。

年に2回、大型トラックを手配し、 社員総出で行う大仕事です。

体力的にも正直きつい作業でしたが、 この入れ替えには、明確な狙いがありました。

同じ生地でも、 地域が変わると、反応が変わる。

そして何より、 「見慣れたはずの商品が、違う顔で現れる」 この効果は想像以上に大きかったのです。

トラック入れ替え

◾️ サンプル制作は、段取りがすべて

企画が固まると、ようやくサンプル制作に入ります。

ここでも重要なのは、段取りです。

・ 生地幅ごとにまとめる
・ 同時に裁断できるものを揃える
・ 無駄が出ない順番を考える

ほんの数センチのロスが、 積み重なると大きな差になります。

サンプルは「少量」ですが、 扱う総量は決して少なくありません。

だからこそ、 頭を使って、身体を使って、 効率を突き詰めていきました。


◾️ 情報は多すぎても、少なすぎてもいけない

サンプルには、必要な情報を記載します。

・ 品番
・ 品名
・ 生地幅

ただし、単価については、 一目で分からない表記にしていました。

理由はシンプルです。 当社のサンプルを、そのまま商売に使う方がいたから。

少し意地悪に聞こえるかもしれませんが、 これは長年の経験から生まれた、現実的な判断でした。

守るべきものは、きちんと守る。 それもまた、仕入れの仕事の一部です。


◾️ 生地と向き合う時間

・ 企画を考え、
・ 生地を選び、
・ 並べ、
・ 切り、
・ 貼り、
・ 情報を添える。

この一連の流れは、 私にとって「生地と対話する時間」でした。

この生地は、何を語りたいのか。
どんな人の手に渡るのか。
どんな服になるのか。

答えが出ることはありません。
それでも考え続けること自体に、意味がありました。

生地との対話

◾️ サンプルは、黙って働く営業マン

前回もお伝えしましたが、私に仕入れの仕事を教えてくれた番頭さんは、サンプルのことをよく「文句を言わない営業員」と呼んでいました。

まさに、その通りだと思います。 ただ、私の中ではそれ以上に、「黙って働く営業マン」という言葉がしっくりきていました。

生地の魅力を伝えるには、人が言葉で説明するよりも、 生地そのものを実際に見て、触ってもらう方が、 はるかに正確に伝わります。

だからこそ、 その一枚に、どれだけ想いを込められるか。

サンプル作りの企画とは、 その覚悟を常に問われる仕事でもありました。


◾️ 次回へ向けて

今回は、サンプル作りの中でも 「企画」という、少し地味だけれど、 とても重要な部分についてお話ししました。

次回は、 仕入れに必要な知識や判断軸について、 もう少し踏み込んでお伝えしていく予定です。

仕入れの仕事に興味がある方にも、 そうでない方にも、 何かひとつ持ち帰っていただける内容にできればと思っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。 次回も、どうぞよろしくお願いいたします。



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