2025.12.25:第9回 私の回顧録
バイヤー編 Prat3
〜ファッション予測〜
こんにちは。
糸偏コラム「私の回顧録」第9回です。
これまでのコラムでは、
・ 新人バイヤーとして右も左も分からなかった頃の話
・ 商品力を鍛えるために、素材や背景を必死に学んだ話
そんな私自身の経験を中心にお話ししてきました。
そして今回のテーマは、
バイヤーという仕事の“心臓部”とも言える存在
――「ファッション予測」と「仕入」の関係についてです。
「ファッション予測」と聞くと、
なんだか難しそう、専門家だけの世界、
もしくはセンスのある人だけができる特殊能力…
そんなイメージを持たれる方も多いかもしれません。
でも、実際の仕入れ現場におけるファッション予測は、
もっと地道で、もっと現実的なものです。
私の中では、
ファッション予測=仕入れ担当者にとっての“天気予報”
という感覚でした。
天気予報がなければ、
今日は傘を持つべきか、コートは必要か、判断できませんよね。
それと同じで、
予測がなければ「何を」「どれくらい」「どんな方向で」
仕入れていいのか分からなくなる。
今回は、そんな
「なぜ予測が必要なのか」
「どんな情報を見ていたのか」 「それをどう仕入れ判断に落とし込んでいたのか」
について、私なりの体験を交えながらお話ししていきます。
◾️ ファッション予測とは「未来を当てる」ことではない
まず大前提としてお伝えしたいのは、
ファッション予測は未来をピタリと当てることではありません。
占いでも、予言でもないんです。
ファッション予測とは、
過去と現在の情報を集め、
そこから“起こりそうな流れ”を読み解く作業。
・ 社会の空気感
・ 人々の価値観の変化
・ 経済状況
・ ライフスタイル
・ 技術の進化
こうした要素が少しずつ絡み合いながら、
色や素材、シルエットとして表に現れてきます。
そしてバイヤーの仕事は、
その情報を自分たちのブランド・売場・お客様に合わせて翻訳すること。
流行っているから仕入れる。
みんながやっているから真似する。
それだけでは、
結局どこにでもある売場になってしまいます。
「流行を追う」のではなく、
「流行を使う」。
ここが、ファッション予測の一番面白く、
一番難しいところでした。
◾️ 予測のスタートは、いつも「色」から
ファッション予測の入口として、
私がまず注目していたのが**「色」**です。
色はとても正直です。
・ その時代のムード
・ 人々の気分
・ 安心したいのか、刺激が欲しいのか
そういった感情が、
驚くほどストレートに色に表れます。
だからこそ、
カラートレンドは予測の“起点”になる。
国際流行色委員会(インターカラー)が発表する
トレンドカラーは、約2年先を見据えたもの。
初めて知ったときは、
「え、そんな先のことまで決めてるの?」と驚きました。
でも、アパレル業界は
企画から生産、店頭に並ぶまでに長い時間がかかる。
だからこそ、未来を見て動く必要があるんですね。
展示会資料、
海外のカラーブック、
国内メーカーの提案色。
これらを見比べながら、
「これはうちのお客様に合うかな?」
「この色は定番として残りそうだな」
そんなことを、毎シーズン考えていました。
◾️ 色の次に見るべきは「素材の空気感」
色の方向性が見えてきたら、
次に重要なのが素材です。
素材は、
そのシーズンの“体温”を決める存在。
軽いのか、重いのか。
柔らかいのか、ハリがあるのか。
ナチュラルなのか、機能的なのか。
こうした要素は、
見た目だけでなく、着たときの気分にも大きく影響します。
海外のテキスタイル展示会、
たとえばパリの「プルミエール・ヴィジョン」や
ドイツの「インターストフェックス」などは、
まさに素材トレンドの最前線。
私は実際にこの当時足を運ぶことは少なかったものの、
展示会レポートや資料を通じて、
「次はこんな素材が来るんだな」
という全体像を掴むようにしていました。
その上で、
日本の合繊メーカー、紡績メーカーの動きと照らし合わせる。
海外の流れと、
国内の現実。
この両方を見ることで、
「実際に商品として成立する素材」が見えてくるんです。
◾️ バイヤーの必読書「ファッション予測」
私にとって、
ファッション予測のバイブル的存在だったのが
**『ファッション予測(チャネラー別冊)』**です。
正直に言うと、
初めて見たときは
「分厚い…」「難しそう…」という印象でした(笑)。
でも、中身は本当に濃い。
・ カラー
・ 素材
・ シルエット
・ ディテール
・ スタイリング
それぞれが体系的にまとめられていて、
「なるほど、そういう流れなのか」と腑に落ちる。
私はこれを使って、
シーズンごとの商品政策の“骨組み”を作っていました。
すべてを鵜呑みにするわけではありません。
あくまで参考資料。
でも、
「考えるための土台」としては、
これ以上ないほど心強い存在でした。
◾️ マーケットを見ることで予測は現実になる
どれだけ資料を読んでも、
机の上だけでは分からないことがあります。
それが、マーケットのリアル。
・ 他社の売場
・ 競合ブランド
・ 百貨店
・ ファストファッション
・ セレクトショップ
ときには、
アパレル以外の業態からヒントを得ることもありました。
雑貨屋さんや、カフェ、
ライフスタイルショップ。
「今、人はどんな空間を心地いいと感じているのか」
そんな視点で見ると、
ファッションにも通じるものがたくさんあるんです。
◾️ リサーチは「テーマ」を持つと深くなる
マーケットリサーチで大事なのは、
なんとなく見ないこと。
「今日はこのテーマで見る」と、
自分の中で決めてから売場に立つ。
・ 今年はどんな色が動いているか
・ 価格帯と品質のバランスはどうか
・ どんなアイテムが主役になっているか
テーマを持つと、
同じ売場でも見え方がまったく変わってきます。
バイヤーは“情報の旅人”。
でも、地図がなければ迷子になります。
テーマは、その地図なんですね。
◾️ ストリートは最高の教科書
特にカジュアルウェア中心だった私のショップでは、
ストリート観察が欠かせませんでした。
街を歩く。
電車に乗る。
カフェで一息つく。
そんな何気ない時間も、
バイヤーにとってはリサーチの一部。
「この人、なんでその服を選んだんだろう?」
「今、こういう着こなし多いな」
街は、生きたランウェイ。
ここで得られる情報は、
どんな資料よりもリアルでした。
◾️ 情報が多い時代だからこそ「選ぶ力」が問われる
ファッション予測で一番難しいのは、
情報の取捨選択です。
情報は山ほどある。
でも、全部を採用することはできません。
大切なのは、
「自社らしさ」と照らし合わせること。
どんなに流行っていても、
自分たちのブランドに合わなければ意味がない。
逆に、
少しトレンドから外れていても、
お客様にフィットするなら価値がある。
ここで問われるのが、
バイヤーとしての“軸”です。
◾️ トレンドと「稼げるアイテム」のバランス
そして、忘れてはいけないのが
稼げるアイテムの存在。
どんなにトレンドを熟知しても、
利益が出なければ店舗運営はできません。
売れ筋商品は、
地味だけど、確実に支えてくれる存在。
その土台があるからこそ、
少し挑戦的な商品も展開できる。
仕入れとは、
夢と現実のバランスを取る仕事でもありました。
◾️ ファッション予測は「仕入れの覚悟」を作る
ファッション予測をしっかり行うことで、
仕入れに覚悟が生まれます。
「これでいく」
「この方向を信じる」
迷いながら仕入れる商品と、
腹をくくって仕入れた商品では、
売場での扱い方も変わってくる。
予測は、
仕入れの精度だけでなく、
チームの意識も揃えてくれる存在だったと、
今ではそう感じています。
◾️ 次回予告 〜売れる商品は偶然じゃない〜
次回は、
そんな予測と仕入れの先にある
「稼げるアイテムはどう生まれるのか?」
についてお話しします。
売れる商品には、
ちゃんと理由があります。
ヒットは偶然じゃない。
その裏側を、少しだけお見せできればと思います。
次回も、どうぞお楽しみに。