2025.12.24:第8回 私の回顧録
バイヤー編 Prat2
〜商品力を鍛えるということ〜
こんにちは。
糸偏コラム「私の回顧録」第8回です。
今回は前回に引き続き、バイヤー編 Part2。
テーマはズバリ、
**「商品力を鍛える重要性」**についてお話ししたいと思います。
前回は、新人バイヤーとして展示会やメーカー訪問を重ね、
とにかく数を見て、数を触って、数を聞いていた
――まさに“修行のような日々”を振り返りました。
今回はそこから一歩踏み込んで、
「では実際に、バイヤーは何を基準に商品を選んでいるのか」
「商品を見る目は、どうやって鍛えられていったのか」
そんな部分を、私自身の体験をもとにお話ししていきます。
◾️ バイヤーという仕事の本質
バイヤーという仕事をひと言で表すなら、
「売れる商品を見つけて仕入れる人」。
……と、簡単そうに聞こえますが、
実際はそんなに単純ではありません。
市場には、本当に星の数ほどの商品があります。
展示会場に並ぶ何百、何千というアイテムの中から、
「これはいける」
「これは売れる」
そう確信できる商品を選び取るのが、バイヤーの仕事です。
そこには、「経験・勘・センス・情報」
そして、ほんの少しの運が必要になります。
でも、そのすべての土台になるのが、
「商品を見る目」=商品力を見極める力でした。
◾️ 商品仕入れに潜む「原価構造」という迷路
洋服というのは、
「布を縫い合わせただけのもの」ではありません。
一着の洋服ができるまでには、
・ 原料となる繊維
・ 糸を作る工程
・ 生地を織る・編む工程
・ 染色や加工
・ 縫製
・ 企画・デザイン
・ 流通
と、数えきれないほどの工程と人の手が関わっています。
私がバイヤーをしていた当時、
小売店は基本的にメーカーや問屋から商品を仕入れていました。
当然、仕入れ値が安く売価が高ければ、
粗利は大きくなります。
ここだけ見ると、
「じゃあ、安く仕入れればいいじゃない」
と思いますよね。
ところが、現実はそう甘くありません。
仕入れ価格を下げようとすれば、
・ 素材のグレードを落とす
・ 縫製工賃の安い国で作る
・ 中間業者を省く
といった選択肢が浮かびますが、
すでに完成している商品に対して、
それを小売側がコントロールするのはほぼ不可能です。
だからこそ必要だったのが、
完成品の中に隠れている「素材の本質」を見抜く力。
これこそが、
私にとっての「商品力を鍛える」という意味でした。
◾️ 「素材って何?」から始まったバイヤー修行
正直に言います。
バイヤーになった当初、私はこう思っていました。
「素材って……そんなに重要?」
素材は、そこに“あって当たり前”の存在。
深く考えたことがなかったのです。
でも、バイヤーとして商品を選ぶ立場になると、
その考えは一瞬で通用しなくなりました。
洋服の価値の大半は、
実は「素材」で決まる。
その現実を突きつけられた瞬間でした。
◾️ 重衣料メーカーで学んだ「素材の基礎」
幸運だったのは、
当時の親会社が
スーツやジャケットといった重衣料を専門とするメーカー
だったことです。
しかも、素材仕入れに精通した先輩社員の方がいて、
私はほぼマンツーマンで
生地の基礎を叩き込んでいただきました。
そこで学んだのは、
・ 繊維の種類と特性
(ウール、コットン、リネン、ポリエステル……)
・ 糸の撚り
(S撚り・Z撚り。格闘技ではありません)
・ 糸の太さ、織り組織
(平織、綾織、朱子織)
・ 柄の出し方や染色技法
(プリントか、ジャカードか)
当時は正直、
「覚えること多すぎない?」
と思いました。
でも、この“基礎中の基礎”が、
のちのバイヤー人生の土台になったのは間違いありません。
◾️ 「良い商品」と「売れる商品」は別物
素材を見る目が少しずつ育ってくると、
今度はこんな感情が芽生えてきます。
「これは、良い商品だな」
ところが、
その“良い商品”が必ずしも売れるとは限りません。
むしろ、
「良いのに売れない」
そんな商品の方が、山ほどありました。
最初は理解できませんでした。
でも理由は単純で、
私の「良い」と
お客様の「欲しい」が
ズレていたのです。
ファッションは常に流動的。
「トレンド・時代背景・気分」
それらが噛み合わなければ、
どんなに完成度が高くても売れません。
逆に、
「え?これが?」
と思う商品が爆発的に売れることもある。
ここで私は、
**「未来を読む力」**の必要性を痛感しました。
◾️ 商品力がもたらした視点の変化
素材や縫製背景が分かるようになると、
商品を見る視点が大きく変わります。
たとえば、
・ 「この素材なら、もう少し原価を下げられる」
・ 「縫製は甘いけど、この価格なら許容範囲」
・ 「リスクはあるが、流行色だから短期勝負」
こうした判断が、
感覚ではなく“根拠”を持ってできるようになります。
素材知識は、
机上の勉強ではなく、
現場で使える武器でした。
この武器を持つことで、「仕入れ交渉・商品選定・売価設定」
すべての精度が上がり、
結果として売上にもつながっていきました。
◾️ 商品力を鍛えるということ
商品力を鍛えるとは、
単に知識を増やすことではありません。
「見る・触る・比べる・考える」
この積み重ねです。
そして何より、
「なぜこの商品なのか?」
を常に自分に問い続けること。
この姿勢が、
バイヤーとしての軸を作ってくれました。
◾️ 次回予告:ファッション予測という世界
今回は、
「商品を見る目」をどう鍛えてきたか、
私自身の体験を通してお話ししました。
次回はいよいよ、
その先にある
**「ファッション予測」**について。
流行を読むという、
正解のない世界で
どう考え、どう判断してきたのか。
天気予報より難しい(かもしれない)
ファッションの未来予測について、
リアルな話をお届けします。
どうぞ、次回もお楽しみに。