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私の回顧録

2026.04.09:第114回 私の回顧録

機屋の仕事6
〜内側を整えていく仕事〜

みなさん。こんにちは。

前回のコラムでは、「テーラー開拓」という営業活動を通じて、外に向かって価値を届けていく仕事のリアルについてお話ししました。 電話をかけ、メールを送り、対話を重ねる中で見えてきたのは、「売る」という行為の本質が単なる取引ではなく、“価値観のすり合わせ”であるということでした。

そして今回のテーマは、その対極にあるものです。

外に広げていく仕事ではなく、内側を整えていく仕事。 いわば、“攻め”ではなく“守り”、しかし実際にはその両方を支える極めて重要な領域です。

それが「在庫管理」や「販売管理」といった、いわゆる裏方の仕事です。

一見すると地味で、成果が見えにくい。 営業のように数字がすぐに現れるわけでもありません。

しかし、この土台が曖昧なままでは、どれだけ営業がうまくいっても、事業としての安定や成長にはつながりません。 むしろ、後になって大きな歪みとして現れてしまうこともあります。

約1年前、販売管理ソフトを導入しました。 今回は、その導入の背景から、実際の運用の中で感じたこと、そして現在直面している課題まで、現場の視点でお話ししていきたいと思います。

管理業務

◾️ 「見える化」への第一歩——“感覚経営”からの脱却

営業が動き出し、取引先が増え、売上も少しずつ積み上がっていく。 その一方で、どこか曖昧さが残っていました。

「在庫は足りているのか」 「どの商品が実際に動いているのか」

こうした問いに対して、明確な数字ではなく、“感覚”で答えている自分がいました。

もちろん、長年の経験による感覚は決して間違いではありません。 しかし、事業が次の段階に進むためには、それだけでは不十分です。

感覚を否定するのではなく、感覚を裏付ける“数字”を持つこと。 これが「見える化」に取り組んだ本当の理由でした。


◾️ 導入のきっかけ

今回導入した販売管理ソフトは、以前の会社でも使用していたものでした。

当時は、在庫確認や売上確認など、必要な情報を“引き出す側”でした。 しかし今回は、その仕組みを一から“構築する側”です。

この違いは想像以上に大きく、 「なぜこの項目が必要なのか」 「どういう構造でデータがつながっているのか」

そういった“裏側の設計”を理解しながら進める必要がありました。

きっかけ

◾️ 一元管理

販売管理の本質は、「つながり」にあります。

売上、仕入、在庫。 これらは単独で存在するのではなく、すべてが連動しています。

どの商品が仕入れられ、 どの顧客に販売され、 どれだけ在庫として残っているのか。

この一連の流れが“線”としてつながることで、初めて意味のあるデータになります。

この仕組みを理解することが、運用の第一歩でした。


◾️ Accessからの移行

これまで使用していたAccessは、非常に柔軟なツールでした。

必要に応じてカスタマイズできる反面、 その仕組みを理解している人に依存する側面も強くありました。

実際、長年支えてくださっていた方の存在があってこそ成り立っていた部分も多く、 その方のサポートが難しくなったことで、次の選択を迫られました。


◾️ 属人化という“静かなリスク”

属人化は、日常の中では気づきにくいものです。

しかし、一度その人がいなくなると、急に機能しなくなる。 それは、事業にとって非常に大きなリスクです。

今回のシステム導入は、 「誰でも使える状態にする」 という、将来に向けた投資でもありました。


◾️ 初期設定——“入力作業”ではなく“設計作業”

実際に取り組んでみて感じたのは、 これは単なる入力作業ではないということでした。

商品コードの付け方一つをとっても、 後々の検索性や分析に大きく影響します。

顧客の分類も同様です。 細かく分けすぎても使いにくく、粗すぎても意味がない。

こうしたバランスを考えながら進める作業は、まさに“設計”そのものでした。


◾️ ルールづくり——未来を左右する決断

ルールは、後から変えるのが難しい。 だからこそ、最初の設計が重要になります。

「今」だけでなく、「これからどう使うか」を考えながら決める必要がありました。

この工程は時間もかかり、迷う場面も多くありましたが、 結果的には最も価値のある時間だったと感じています。


◾️ 導入後の現実——“運用”という本当のスタート

システムは導入した瞬間から価値を生むわけではありません。

むしろ、そこからが本当のスタートです。

入力を続ける。
確認する。
修正する。

この繰り返しの中で、少しずつ“使える状態”に近づいていきます。

システム導入

◾️ 分析への壁——“見える”と“使える”の違い

現在、データは徐々に蓄積されています。 しかし、それを分析し、意思決定に活かす段階にはまだ至っていません。

「見える」ことと、「使える」ことは全く別です。

この違いをどう乗り越えるか。 それが、今後の大きなテーマです。


◾️ エクセルという現実的な補助ツール

現状では、エクセルで再整理することで理解を深めています。

システムのままでは把握しづらい情報も、 自分なりに整理することで、初めて見えてくることがあります。

これは過渡期ならではの対応ですが、 非常に重要なプロセスでもあります。


◾️ データ活用——“行動につながるか”がすべて

データの価値は、行動につながるかどうかで決まります。

売れている商品が分かるだけでは不十分です。 「なぜ売れているのか」 「次にどうするのか」

ここまで踏み込めて初めて、データは意味を持ちます。


◾️ 在庫と現場感覚——ズレを埋める作業

現場では、「足りない」「余っている」という感覚があります。

一方で、システムはあくまで数字です。

この2つの間には、どうしてもズレが生じます。 そのズレを認識し、調整していくことが、運用の質を高めていきます。


◾️ 理想と現実——ホームページ連動の壁

理想は、在庫データとホームページの連動です。

しかし現実には、更新の手間や運用体制の問題があり、 まだアナログな対応に頼っている部分があります。

このギャップをどう埋めるかも、今後の課題です。


◾️ システムの本質——“使い手で価値が決まる”

どんなに優れたシステムでも、使い方次第です。

逆に言えば、シンプルな仕組みでも、 使いこなせば大きな武器になります。

システムに振り回されるのではなく、 自分たちの目的に合わせて使う。

その意識が重要だと感じています。


◾️ 次のステージへ——“管理から戦略へ”

今はまだ、管理の段階です。

しかし、目指すべきはその先。 データをもとに意思決定を行う“戦略のステージ”です。

ここに進めるかどうかが、今後の成長を大きく左右します。


◾️ まとめ

在庫管理や販売管理は、単なる事務作業ではありません。 それは、「未来をどう判断するか」を支える基盤です。

どの商品に力を入れるべきか。 どのタイミングで仕入れるべきか。 どこに無駄が潜んでいるのか。

これらの問いに対して、感覚だけでなく、根拠を持って答えられる状態をつくる。 それが在庫管理の本質です。

営業が外に向かって価値を届ける仕事だとすれば、 在庫管理は内側から価値を支える仕事です。

そして、この2つは決して切り離せるものではなく、 むしろ相互に影響し合いながら、事業全体の質を高めていきます。

今回の取り組みを通じて感じたのは、 「整っていない状態では、次には進めない」というシンプルな事実でした。

どれだけ勢いがあっても、土台が曖昧であれば、どこかで必ず歪みが出ます。 だからこそ、時間をかけてでも、しっかりと整える必要がある。

そしてもう一つ。

仕組みは“完成するもの”ではなく、“育てていくもの”だということ。

導入しただけでは意味がない。 使い続け、改善し、現場に馴染ませていくことで、初めて価値が生まれます。

今はまだ途中段階です。 しかし、この積み重ねは確実に未来につながっていると感じています。

在庫管理とは、単に「今を把握する」ためのものではなく、 「これからを見通す」ための道具でもある。

そう考えたとき、この取り組みの意味はさらに大きくなります。


◾️ 次回予告

次回は、生産現場というまた別の視点から、機屋の仕事の奥深さをお伝えしていきます。

ぜひ引き続きご覧ください。



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