2026.03.21:第95回 私の回顧録
グループ企業
〜リアルな現場19〜
みなさん。こんにちは。
前回のコラムでは、「縫製工場そのものの仕事」として、フルオーダーという世界についてお話ししました。
一着に対して、職人の技術と感覚を積み上げていく世界。その奥深さに触れてきました。
そして今回は、同じ「縫製工場」でもまったく性質の異なる、量産型のオーダースーツ工場についてお話ししたいと思います。
フルオーダーが「一着を極める世界」だとすれば、量産工場は「安定して作り続ける世界」です。
一見対極にあるようでいて、どちらもスーツづくりには欠かせない存在です。
今回は、その現場のリアルと、そこで感じたことをお伝えしていきます。
◾️ 初めて見た量産工場の光景
実際に工場を訪れたのは東北の工場でした。
移転などもありましたが、延べで10回ほど足を運んだと思います。
初めて見たときの印象は、とてもシンプルでした。
「ミシンがひたすら並んでいる」
それが率直な感想です。
整然と並ぶミシン、一定のリズムで響く稼働音。
そこには、職人の工房とはまた違う、規律ある空気が流れていました。
同じような印象は、北京の工場を見たときにも感じました。
規模は違えど、量産工場には共通する「流れ」があります。
それは、人と機械が一体となって動く、生産のための空間です。
◾️ 量産工場の基本は“分業”
量産工場の最大の特徴は、徹底した分業体制です。
一人がすべてを作るのではなく、工程ごとに役割が細かく分かれています。
この分業こそが、生産性と安定品質を支えているのです。
◾️ 受注というスタートライン
すべては受注から始まります。
単なる接客ではありません。
むしろ、ここでスーツの“設計図”が決まると言っても過言ではありません。
・ 採寸表の確認
・ 生地の確認
・ 不備があれば受注元へ連絡
ここでの確認が甘いと、後工程に大きな影響が出ます。
いわば“入口の精度”が問われる工程です。
◾️ CADで設計するスーツ
次に行われるのがCAD工程です。
採寸データをもとに、パターンデータを作成します。
・ サイズの調整
・ 生地不足時の差し込み対応
・ 効率を考えた設計
ここでは、デジタル技術が大きな役割を果たします。
人の経験とデータが融合する工程です。
◾️ CAMによる裁断と手作業の融合
裁断はCAM(自動裁断機)で行われます。
正確でスピーディーな裁断が可能ですが、すべてが機械任せではありません。
・ 無地 → 自動裁断
・ チェック・ストライプ → 手裁断
柄合わせが必要な生地は、人の目と手が不可欠です。
途中からは、柄対応のCAMも導入されていましたが、
最終的な精度を担保するのはやはり人でした。
◾️ 工程ごとに分かれるスーツ
裁断されたパーツは、それぞれの工程へ振り分けられます。
・ ジャケット
・ パンツ
さらにジャケットの中でも細かく分かれ、
各担当がそれぞれのパートを仕上げていきます。
まさに“流れ作業”ですが、
その一つひとつに役割があります。
◾️ 縫製という連携の作業
縫製は、個人技とチームワークの両方が求められる工程です。
・ パーツごとの縫製
・ 組み立て
・ 工程間の受け渡し
一人の遅れが全体に影響するため、
スピードと正確性のバランスが重要になります。
◾️ プレスで整える最終の表情
縫い上がったスーツは、プレス工程へ。
ここで見た目が整えられ、商品としての完成度が上がります。
シワを伸ばすだけでなく、
立体感やラインを整える役割も担っています。
◾️ 検品という最後の砦
最終工程は検品です。
・ 寸法確認
・ 外観チェック
・ 汚れや糸残りの確認
問題があれば、工程に戻して修正します。
ここは“最後の防波堤”とも言える重要な工程です。
◾️ 出荷までの流れ
検品を通過した商品は、梱包され出荷されます。
こうして、一着のスーツが完成します。
一見シンプルな流れですが、
その裏には多くの人と工程が関わっています。
◾️ 人が作るという現実
量産工場といえど、すべてが機械で完結するわけではありません。
多くの工程は、人の手によって行われています。
・ 上手い人
・ 早い人
・ 安定している人
それぞれの技量が、生産に影響します。
だからこそ、工程設計と人員配置が重要になります。
◾️ ボトルネックとの戦い
どこか一箇所でも詰まると、全体が止まります。
これが量産工場の難しさです。
・ 工程のバランス
・ 人員の配置
・ 作業の標準化
常にボトルネックを意識し、改善し続ける必要があります。
◾️ 工場の利益構造
工場の売上は「工賃」です。
その中には付属品も含まれますが、
大部分は人件費です。
つまり、
効率=利益
という構造になります。
◾️ 生産性という指標
よく聞かされたのが、
「1人あたり何着作れるか」という考え方です。
例えば、
100人で100着 → 1人1着
ここから、
100人で110着にするには、効率化が必要です。
単純な人数増ではなく、
工程設計が重要になります。
◾️ 受注の波と工場の現実
理想は、毎日安定した受注。
しかし現実は違います。
・ 多い日:200着
・ 少ない日:50着
この波を、納期で調整していきます。
通常3〜4週間の納期の中で、
バランスを取るのが工場の腕です。
◾️ パンクと余剰のジレンマ
・ 受注過多 → 納期遅れ
・ 受注不足 → 人員余剰
どちらも問題です。
このバランスを取ることが、
工場経営の難しさでもあります。
◾️ フルオーダーとの違い
フルオーダーは、
「一着の完成度」を追求する世界。
一方、量産工場は、
「安定して作り続けること」が使命です。
ホームランではなく、
常に一定の品質を出し続けること。
それが求められます。
◾️ どちらが優れているのか
正直なところ、優劣はありません。
求める価値が違うだけです。
・ 最高の一着を求めるのか
・ 安定した品質を求めるのか
選ぶのはお客様です。
◾️ 外から見て感じたこと
フルオーダーと量産工場。
この二つを見て感じたのは、
「スーツは異なる価値の上に成り立っている」
ということでした。
どちらも必要で、どちらも意味がある。
そして、そのどちらにも人の技術がある。
そのことを、強く実感しました。
◾️ 今回のまとめ
今回は、量産型オーダースーツ工場についてお話ししました。
・ 分業による効率化
・ 工程設計と人員配置の重要性
・ 生産性と利益の関係
・ 受注の波との向き合い方
そして、フルオーダーとの違い。
スーツづくりは、
一着を極める世界と、
安定して作り続ける世界、
その両方によって支えられています。
◾️ 次回は
次回も引き続き、縫製工場について、
少し違った視点からお話ししたいと思います。
現場の中で見えてきたこと、
そして仕入れという立場だからこそ感じたこと。
そのあたりを、さらに深く掘り下げていきます。
次回も、ぜひ楽しみにしていてください。