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Textile Industry Column糸偏コラム:自由な視点
私の回顧録

2026.03.19:第93回 私の回顧録

グループ企業
〜リアルな仕入れの現場17〜

みなさん。こんにちは。

前回のコラムでは、オーダースーツ店舗の現場について、課題やリアルな状況をお伝えしました。 現場には常に緊張感があり、その裏側には責任の重さ、そしてお客様に喜んでいただけたときの達成感がありました。

仕入れの立場から見ても、店舗は単なる販売の場ではなく、すべての価値が試される最前線です。

そして今回は、前回に引き続き、オーダースーツ店舗との関わりについて、もう少し踏み込んでお話ししたいと思います。

オーダースーツ

◾️ バイヤーの役割は「武器を渡すこと」

バイヤーの仕事とは何か。 それを一言で表すならば、「店舗に武器を渡すこと」だと思います。

ただし、それは単に良い商品を用意するという意味ではありません。

店舗全体として、
・ どんな価格帯で構成するのか
・ どの商品を主軸にするのか
・ どの商品で売上を作り、どの商品で利益を確保するのか
こうした全体設計があってこそ、商品は“武器”として機能します。


◾️ 「品揃え」は設計である

品揃えは、単なるラインナップではありません。 それは設計です。

例えば、 目を引く商品(見せる商品) 確実に売上を取る商品 利益率の高い商品

これらをバランスよく配置することで、初めて店舗は機能します。

そして、その意図を店舗が理解しているかどうかが、結果を大きく左右します。


〜思い通りにいかない現場〜

しかし、どれだけ綿密に設計しても、現場は思い通りには動きません。

それは、現場には現場のリアルがあるからです。

今回お話しするのは、まさにそんな「想定外」が起きた出来事です。

品揃えは設計

◾️ 勝負をかけた企画

それは、グループの仕入れを始めて3年目のことでした。

インポート生地を中国の代理店を通して仕入れ、 そのまま中国の縫製工場に送り、現地で縫製する。

いわゆる、 **「インポート生地 × 中国縫製」**という組み合わせです。


〜価格競争力という強み〜

このスキームには、大きなメリットがありました。

・ 物流コストの削減
・ 関税負担の最適化
・ 縫製コストの圧縮

これらによって、非常に競争力のある商品を作ることができました。

さらに、インポート生地のブランド力もあり、 「売れる商品」として大きな期待をかけていました。


◾️ 期待を込めた数量発注

そのため、通常よりも踏み込んだ数量を発注しました。

いわば、“勝負をかけた商品”です。 売上・利益ともに牽引する存在として位置づけていました。


〜現場で起きていた異変〜

ところが、ある店舗で異変が起きていました。

その商品で受注した数着に、縫製ミスが発生。 結果として、クレームにつながってしまったのです。


◾️ 見えない「販売停止」

問題はその後でした。

その店舗では、 その商品を販売しなくなっていたのです

表立って「販売停止」と言われたわけではありません。 しかし、実質的には提案されていなかったのです。


〜現場の判断〜

話を聞くと、理由は明確でした。

生地自体は非常に良い。 しかし、その分デリケートで、縫製の粗が目立ちやすい。

結果として、クレームにつながりやすい。 だから提案しない。

これは、店舗としては当然の判断です。


◾️ バイヤーとの認識のズレ

一方で、バイヤーとしては、 「売れる商品」として位置づけていたものです。

価格競争力もあり、ブランド力もある。 まさに主力商品になるはずでした。

しかし店舗にとっては、 **“リスクのある商品”**になっていたのです。


◾️ 現場の工夫と苦悩

さらに興味深かったのは、 その生地自体を否定していたわけではない点です。

どうしても販売する場合は、 国内縫製に切り替えて提案していました。

つまり、 「売りたいが、安心して売れない」 というジレンマがあったのです。

ジレンマ

◾️ 苦渋の判断:インセンティブ施策

この状況を受けて、私は一つの判断をしました。

その商品に対して、**報奨金(インセンティブ)**を設定したのです。

正直に言えば、理想的なやり方ではありません。 しかし、仕掛けた商品を止めるわけにはいかない。

苦渋の決断でした。


〜結果と安堵〜

結果として、 なんとか想定していた水準まで消化することができました。

数字としては成功です。 しかし、心の中には引っかかるものが残りました。


◾️ 本質的な問題への向き合い

このままではいけない。 そう感じ、工場に対して改善を強く求めました。

・ 縫製品質の見直し
・ 検品体制の強化

そして何より、 「一着のミスがブランド全体の不信につながる」 という現実を伝えました。


〜上級ラインという選択〜

さらに、抜本的な対策として、 縫製の上級ラインを新たに設けることにしました。

コストは上がります。 しかし、それによって店舗が安心して販売できる。

それこそが、本当の意味での改善だと考えました。


◾️ 「売るのは人」であるという事実

この出来事から、強く学んだことがあります。

それは、 商品を売るのは人であるということです。

どれだけ良い商品でも、 販売する側が不安を感じていれば売れません。


◾️ バイヤーの本当の仕事

バイヤーの役割は、商品を揃えることだけではありません。

・ 店舗の不安を取り除くこと
・ 安心して提案できる環境を作ること

それもまた、重要な仕事です。


◾️ 「一着のスーツの重み」を再認識

前回もお伝えしましたが、 この出来事で改めて感じたのは、 一着のスーツの重みです。

お客様にとっては、特別な一着。 だからこそ、一つのミスが大きな意味を持つ。


◾️ 忘れられない教訓

この経験は、今でも強く心に残っています。

バイヤーの視点、店舗の視点、そしてお客様の視点。
それぞれが交差する中で、初めて“商品”は成立する。

そのことを、身をもって学びました。


◾️ 今回のまとめ

今回は、店舗との関わりの中で起きた、 一つの象徴的な出来事をご紹介しました。

仕入れは、単なる調達ではありません。 人と人の間にある、信頼の仕事です。


◾️ 次回予告

少し前に、縫製工場の仕入れや営業についてお話ししました。

次回は、その縫製工場で実際に経験した出来事について、 よりリアルな視点でお届けしたいと思います。

現場の奥にある、もう一つの“リアル”。 ぜひ楽しみにしていてください。



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