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Textile Industry Column糸偏コラム:自由な視点
私の回顧録

2026.03.10:第84回 私の回顧録

グループ企業
〜リアルな仕入れの現場8〜

前回のコラムでは、「仕入れ計画の答え合わせの評価基準」というテーマについてお話ししました。

売上が上がれば成功なのか。 在庫を残さなければ成功なのか。 それとも計画通りに進めば成功なのか。

一見すると数字で評価できそうですが、実際の仕入れの現場では、そんな単純なものではありません。

売上、在庫、チャンスロス、粗利、集客、トレンド…。 さまざまな要素が複雑に絡み合うため、仕入れ計画の「正解」を一つに決めることは非常に難しいものです。

だからこそ、仕入れという仕事は、常に「仮説」と「検証」を繰り返す仕事でもあります。

そして、考えるだけでは終わりません。 最終的には、実際の発注という決断をしなければならないのです。

今回は、その続きとして、 「仕入れ計画を実際の発注に落とし込むプロセス」 について、少しリアルな現場の話をしてみたいと思います。

発注

◾️ 計画から「発注」へ

仕入れ計画は、あくまで計画です。

どれだけ綿密に考えても、計画は紙の上の話に過ぎません。

実際のビジネスは、最終的に 「何を、どれだけ仕入れるか」 という発注の判断で決まります。

つまり、仕入れの現場では、 計画 → 判断 → 発注 というプロセスを経て、初めて商品が動き始めるのです。


◾️ 通常の企業では「売上予算」から始まる

一般的な小売企業では、まず 売上予算 が設定されます。

例えば、
・ 年間売上○億円
・ 店舗売上前年比○%
・ 客単価○円
といった目標が決まり、それを達成するために仕入れ計画が作られます。

つまり、
売上目標 → 仕入れ計画 → 発注
という順番になることが多いのです。

売上予算

◾️ しかし、当時は売上予算がなかった

ところが、私が関わったグループ企業では、当初この「売上予算」が明確に決まっていませんでした。

これは、今振り返ると少し珍しい状況だったかもしれません。

もちろん過去の実績は分かっていました。

ですから、まずはシンプルに 「前年を上回ること」 を目標にしました。

売上前年比をクリアする。

それが、最初の大きなテーマでした。


◾️ もう一つの課題 ― 利益率の改善

ただ、売上だけを見ていても会社は良くなりません。

当時の状況を振り返ると、もう一つの大きな課題がありました。

それは、 利益率の低さ です。

売上はある程度あっても、利益が出ていない。

これは経営として非常に大きな問題です。

そのため、私がまず考えたのは、 客単価アップと利益率の改善 でした。


◾️ 単価アップという戦略

そこで考えたのが、 客単価を上げる という戦略です。

例えば、客単価が20%上がればどうなるでしょうか。

仮に来店客数や購買率が同じだとすると、売上は大きく変わります。

ただし、ここには一つの問題があります。

単価アップ

◾️ 数量が減るという現実

客単価が上がると、当然ですが 販売数量は減る可能性 があります。

例えば、
客単価が20%アップ
売上が10%アップ

この場合、
数量は10%減る
ことになります。

店舗だけを見れば、売上が増えているので問題はありません。

しかし、私たちのグループにはもう一つの事情がありました。


◾️ グループ工場との関係

当時は、グループ内に縫製工場がありました。

つまり、販売数量が減ると、 工場の受注量も減る ということになります。

これは、グループ全体で見ると非常に大きな問題です。

小売の都合だけで判断すると、工場に大きな影響が出てしまう。

つまり、 小売と生産のバランス を考えながら、仕入れ計画を作らなければならなかったのです。


◾️ バランスを取りながらの戦略

そのため、単純に「単価を上げればいい」という話ではありませんでした。

売上
利益
数量
工場稼働

この四つのバランスを考えながら、戦略を組み立てる必要がありました。

それでも、やはり 単価アップは必要 という結論に至りました。


◾️ 最低価格の見直し

まず行ったのが、 最低価格の引き上げ です。

安すぎる商品は、ブランドの価値を下げることがあります。

そこで、極端な低価格商品を減らし、 ブランドとしての価値を守る価格設定 に見直しました。


◾️ セールの活用

ただし、価格を上げるだけでは売れません。

そこで活用したのが、 期間限定セール です。

普段はブランド価値を保つ価格で販売しながら、 タイミングを見てセールを実施する。

これによって、
・ ブランド価値を維持
・ 購買のきっかけを作る
という二つの効果を狙いました。


◾️ ブランド内容の見直し

さらに、ブランド自体の内容も見直しました。

同じブランドでも、商品内容が魅力的でなければ売れません。

そこで、
・ 生地のグレード
・ デザイン
・ 素材提案
などを見直しながら、 常に訴求力のある商品 を用意するようにしました。


◾️ オフシーズンの仕掛け

売上を作るためには、季節の常識を少し崩すこともあります。

例えば、 真夏にコートを販売する という企画です。

普通に考えれば売れない商品ですが、 オフシーズンだからこそ 思い切った価格 を設定できます。

これが意外と売上に貢献することもありました。


◾️ ミスマッチをあえて作る

また、閑散期には ミスマッチの商品 をあえて投入することもありました。

通常の売れ筋とは少し違う商品をぶつけることで、 プラスアルファの売上 を狙うのです。

これも、仕入れの面白いところかもしれません。


◾️ PB(プライベートブランド)の開発

さらに徐々にではありますが、 PB(プライベートブランド) の開発も始めました。

これは、利益率を改善するためにも重要な取り組みでした。


◾️ 日本製素材へのこだわり

PBでは、まず 日本製の生地 を使った商品を作りました。

さらに、 高品質な原毛を使用した素材 なども開発しました。

品質を前面に出した商品は、ブランド価値の向上にもつながります。


◾️ 機能素材への挑戦

時代の流れとして、 カジュアル化 も進んでいました。

そのため、
・ ストレッチ素材
・ 機能素材
などにも挑戦しました。

ただ、これらは主力商品になるまでには至りませんでした。

やはりスーツの世界では、 伝統的な素材の強さ を改めて感じた部分でもありました。


◾️ 毎年同じでは飽きられる

もう一つ大切にしていたのは、 常に新しい商品を用意すること です。

同じ商品を毎年続けていると、お客様はどうしても飽きてしまいます。

そのため、
・ 新素材
・ 新デザイン
・ 新企画
などを絶えず考えていました。


◾️ 単価アップの難しさ

ただし、単価アップというのは簡単ではありません。

価格を上げるには、 それに見合う価値 が必要です。

その価値をどう作るのか。

これは、今振り返っても非常に難しいテーマでした。


◾️ 仕入れの現場で学んだこと

これまで、このシリーズでは、
・ 仕入れの現場
・ 実際の施策
・ 失敗談
・ 苦労したこと
などをリアルにお伝えしてきました。

さらに、
・ 検証の考え方
・ 評価基準
についても触れてきました。

仕入れという仕事は、数字だけでは語れません。

現場の経験と試行錯誤の積み重ねが、その判断を支えているのだと思います。


◾️ 次回予告

ここまで、仕入れの現場について様々な角度からお話ししてきました。

そして、仕入れを語るうえで、もう一つ欠かせない存在があります。

それは、 仕入先です

どんな商品を扱うのか。 どんな取引関係を築くのか。

それによって、仕入れの世界は大きく変わります。

次回は、 「仕入先」 というテーマについて、私の経験をもとにお話ししたいと思います。

仕入れという仕事は、実は 商品だけではなく、人との関係 で成り立っている部分も多いのです。

そのあたりのリアルな話も含めて、次回お伝えしたいと思います。

次回もぜひお付き合いください。



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