TexStylist

Textile Industry Column糸偏コラム:自由な視点
私の回顧録

2026.02.26:第72回 私の回顧録

グループ企業
〜中国仕入れで知り合った方々4〜

いよいよ“ラスボス”の物語へ

前回のコラムでは、Yさんとの5年間にわたる信頼と友情についてお話ししました。 担当者という立場を超えて、まるで「同じ釜の飯を食った仲間」のような関係になっていったご縁。

仕事を共にし、悩みを分かち合い、喜びも苦労も共有してきたからこそ生まれた絆でした。あらためて、人と人とのつながりこそが何よりの財産なのだと実感させられる関係でした。

そして今回。

いよいよ登場します。 これまでの話の中で何度も名前が出てきた、あの方。

合弁企業の社長(総経理)Kさんです。

決断力、迫力、スケール感。 まさに「これぞ中国の社長」と言える存在。

私の中国仕入れの物語における、いわば“ラスボス”。

今回は、そのKさんとの濃密なエピソードをお届けします。

ラスボス

◾️ 初対面で感じた

〜ザ・中国の社長〜

彼と初めて会った日のことは、今でも鮮明に覚えています。

部屋に入った瞬間に分かる存在感。 声も大きく、その場の空気が変わる。

エネルギッシュで、体も態度も大きい。 まさに「ザ・中国の社長」。

背筋が自然と伸びるような緊張感がありました。

「これは簡単な相手ではないな」

それが正直な第一印象です。

しかし同時に、どこか魅力的でもありました。 圧倒されながらも、「この人と仕事をしたら面白いかもしれない」と、心のどこかで感じていたのです。


◾️ 商談の合図はいつも

〜“値上げ”から〜

Kさんとの商談には、ある“お決まり”がありました。

打ち合わせが始まると、ほぼ毎回、最初の話題は「工賃」。

「今回は工賃を上げてほしい」

開口一番、ストレートに切り出されます。

最初の頃は、「またか…」と内心思ったものです。 しかし背景を聞けば、中国国内の人件費上昇や物価高騰など、確かに理解できる事情もありました。

当時の中国は、まさに成長の真っただ中。 都市部の生活水準は年々上がり、賃金も右肩上がりでした。

それでも、日本の感覚からすると、毎回のように値上げ交渉が始まることには戸惑いがありました。


いつも値上げ

◾️ “価格の安定”という日本的感覚

日本では、長年の取引の中で信頼を積み上げ、ある程度の価格の安定を前提に関係を築いていくことが多いです。

もちろん、やむを得ない事情があれば値上げの相談はします。 しかし、それは「ここぞ」というタイミング。

毎回の商談で価格交渉を繰り返すという文化は、あまりありません。

それに対してKさんのスタイルは、とにかくストレート。

まずは高めの金額を提示する。 そこからお互いに歩み寄る。

まるで市場での値切り交渉のようなダイナミックさでした。

ここで私は、「商売の文化の違い」を強烈に体感することになります。


◾️ ついに日本側社長が激怒

そんなやり取りが何度か続いたある日。

ついに日本側の社長が堪忍袋の緒を切りました。

「もういい加減にしてくれ。毎回値上げでは話にならない」

場の空気が凍りつきました。

その結果、価格交渉の実務は私が引き継ぐことになったのです。

正直、不安はありました。

Kさんは一筋縄ではいかない相手。 交渉のたびに熱を帯びるタイプです。

「自分に務まるだろうか」

そんな思いもよぎりました。

その落ち着きぶりに、改めて感心しました。


◾️ 文化の違いを“否定せずに伝える”

私がまず心がけたのは、相手を否定しないことでした。

「日本では、毎回値上げ交渉をする習慣はあまりありません。 ある程度はお互いに我慢し、本当に厳しいときに話し合いましょう」

そう、静かに伝えました。

文化の違いとして説明する。 どちらが正しい、という話ではない。

すると意外なことに、Kさんは耳を傾けてくれました。

「そういう考え方もあるのか」

その一言が、空気を変えました。

完全に交渉がなくなったわけではありません。 しかし、以前のような感情的な押し問答は減り、少しずつ信頼が芽生えていったのです。


◾️ 中国のスピード感に圧倒される

Kさんと仕事をしていて感じたのは、とにかく“速い”ということ。

決断が早い。
行動が早い。
失敗を恐れない。

日本では慎重に検討するような案件も、 「やってみよう」で前に進める。

正直、「これで大丈夫か?」と心配になることもありました。

しかし結果的に成功するケースも多い。

そのたびに、「商売はスピードが命」という言葉の意味を実感しました。

スピード感

◾️ 短期利益と長期信頼のはざまで

一方で、戸惑いもありました。

短期的な利益を優先しているように見える場面もあったからです。

日本的な感覚では、「長く続く関係」を重視します。 しかし中国の現場では、まずは今の数字。

この温度差に悩むこともありました。

それでも不思議と、「この人たちと一緒にやるのは楽しい」という気持ちが消えることはありませんでした。

常に変化があり、予想外が起こる。 まるでジェットコースターのようなビジネス。

その緊張感と高揚感は、日本ではなかなか味わえないものでした。


◾️ 酒の席は第二の会議室

Kさんは大のお酒好き。

日本出張の際は、ほぼ毎晩一緒に飲みに行きました。

「今日は軽く一杯だけ」

その言葉を信じたことはありません(笑)。

焼酎や日本酒にも詳しく、日本の居酒屋文化を心から楽しんでいました。

中国では「酒席は交渉の延長」と言われます。

お酒の場で本音を語り、翌日の商談がスムーズになる。

仕事を離れたKさんは、意外にも人懐っこく、冗談好きで、どこか憎めない人でした。


◾️ 警戒心が親近感に変わるまで

最初は正直、警戒していました。

迫力があり、交渉も激しい。 簡単に心を開いてはいけない相手だと思っていました。

しかし何度も酒席を重ねるうちに、少しずつ距離が縮まりました。

冗談を言い合い、昔話で笑い合う。

気がつけば、「この人とは不思議と気が合うな」と思うようになっていました。


◾️ 合弁解消という転機

時代の流れとともに、合弁契約は解除されました。

為替の変動。
中国コストの上昇。
価格差の縮小。

かつてのコストメリットは薄れていきました。

取引量は減りましたが、関係は完全には途切れませんでした。


◾️ ビジネスを超えた“旧友”のような関係

合弁解消後も、中国に行けば食事に誘ってくれる。

上海や北京の高級レストラン。
新しくできたホテルのバー。

相変わらず社交的で、スケールの大きなもてなし。

「あの時、お前が怒っていたな」
「いや、あれはそちらが無茶を言ったんですよ」

そんな昔話を笑いながら語れる関係になっていました。

これはもう、単なる取引先ではありません。


◾️ ビジネスは“人”が動かしている

彼との関係は、まさに異文化交流でした。

考え方も商習慣も違う。 時にはぶつかり、時には譲り合う。

しかし最後に残ったのは、「人としての信頼」でした。

仕入れの仕事は、単にモノを買うことではありません。

相手を理解しようとする姿勢。
立場を尊重する心。
そして何より、誠実さ。

契約書以上に大切なのは、人と人との信頼なのだと、彼から学びました。


◾️ ラスボスから学んだこと

Kさんは、確かに手強い存在でした。

しかし同時に、多くを学ばせてくれた存在でもあります。

スピード。
度胸。
決断力。
そして人情。

振り返れば、あの濃密な時間こそが、私の中国仕入れ人生を大きく成長させてくれました。

“ラスボス”との戦いは、 実は最高の学びの時間だったのかもしれません。


◾️ おわりに

〜そして物語は続く〜

中国仕入れの現場で過ごした日々は、今振り返っても色あせません。

スピードと交渉。
文化の違い。
そして人と人の絆。

どれも、日本だけにいては得られなかった経験です。

次回は、グループ企業の貿易担当として知り合った、 中国のもう一人の縫製工場の社長、Jさんの物語をお届けします。

まだまだ続く、中国仕入れの人間ドラマ。 どうぞお楽しみに。



◀︎◀︎◀︎ 【2026年2月25日】         【2026年2月27日】 ▶︎▶︎▶︎

コラムのトップに戻るには、こちらの糸偏コラム:自由な視点クリック