2026.02.02:第48回 私の回顧録
仕入れ編
〜産学 思いがけない「つながり」〜
みなさん、こんにちは。
たった一言が、流れを変えることがある
前回のコラムでは、米沢産地との出会いや、
仕入れを通して産地と向き合う中で感じたことをお伝えしました。
その最後に、
「会場でのたった一言が、次の展開につながる」
そんな予告をしましたが、今回はその続きのお話です。
仕入れの仕事というと、
「どの商品を、いくらで仕入れて、どう売るか」
そうした実務的な側面が強く語られがちです。
ですが実際には、
人と人が出会い、
思いが交差し、
思いもよらない形で新しい流れが生まれることもあります。
今回のテーマである「産学」は、
まさにそんな偶然と必然が重なって生まれた取り組みでした。
◾️ 思いがけない話題
きっかけは、セール会場でのことでした。
米沢のコンバーターの方が、応援として現場に立ってくださっていた時のことです。
その場には、
夜間の服飾専門学校に通う学生アルバイトの子たちもいました。
彼女たちは、日中は別の仕事をしながら、
夜に学校へ通い、服づくりを学んでいます。
そんな彼女たちが、
「近々、ファッションショーをやるんです」
と、何気なく話してくれたのが始まりでした。
◾️ 「その生地、使わせてもらえませんか?」
軽い一言が、形になっていく
会話の流れの中で、私はふと思い立ちました。
「せっかくだったら、
ファッションショーで使う生地を協賛してもらえないだろうか」
決して、計算された提案ではありません。
その場の空気と、
学生たちの真剣な表情を見て、
自然と口に出た言葉でした。
それを聞いたコンバーターの方は、
「面白そうですね。持ち帰って検討します」
と、穏やかに答えてくださいました。
正直なところ、
実現するかどうかは半信半疑でした。
◾️ 数日後に届いた、生地
産地からの、静かなエール
それから数日後。
会社に届いた箱を開けて、私は思わず声を上げました。
中には、
いかにも米沢らしい、
上質で表情豊かな生地が入っていたのです。
「本当に送ってくれたんだ」
その瞬間、
これは単なる生地提供ではなく、
何か特別な取り組みになるかもしれない、
そんな予感がしました。
こうして、
産地の企業と学生たちによる、
思いがけないコラボレーションが始まりました。
◾️ 産学協力という形
双方にとっての「意味」
今回の取り組みは、
結果として、双方にとって大きな意味を持つものになりました。
きっかけとなったのは、
ファッションショーの制作メンバーの一人が、
当社でアルバイトをしていたという、ごく小さな縁です。
一方、
米沢のコンバーター側にも明確な思いがありました。
「ショーで作られた作品を、
後日、産地の展示会などで展示し、
米沢の服地をアピールしたい」
学生の創作と、
産地のものづくり。
その両方を活かせる形を、自然と描いていたのです。
◾️ 「条件なし」という条件
学生の創造力を信じる姿勢
今回の協力にあたって、
特別な条件はほとんどありませんでした。
「テーマも自由でいい」
「どんな作品になるか、こちらも楽しみたい」
そう言ってくださったことが、
とても印象に残っています。
学生たちにとっては、
実際の産地で織られた生地を使い、
プロの世界とつながる、貴重な経験になります。
一方で産地にとっても、
自社の生地が、
若い感性によって新しい形に生まれ変わる。
まさに、
産学双方にとっての「学び」がある取り組みでした。
◾️ 再びの挑戦
二度目だからこそ見えたもの
今回のファッションショーは、
文化服装学園二部服装科の学生9名によるものです。
実はこの取り組み、
昨年に続いて2回目の開催でした。
モデルも運営も、
すべて学生とその友人たちで行います。
当日は、
およそ30名ほどがショーを支える予定でした。
プロに頼らず、
自分たちの力で作り上げる。
その姿勢そのものが、
すでにひとつの表現だと感じました。
◾️ 今回のテーマは「夜」
それぞれの「夜」が、形になる
今回のショーのテーマは「夜」。
一言で言えばシンプルですが、
解釈の幅は無限にあります。
学生たちは一人3作品ずつ製作し、
合計27点がランウェイに並ぶ予定でした。
幻想的な夜の街をイメージしたドレス、
静まり返った夜の森を思わせるアウター、
夜空に瞬く星をモチーフにした装飾。
同じ「夜」という言葉から、
これほど多様な表現が生まれるのかと、
感心させられました。
◾️ 打ち合わせの日
待ち合わせのカフェベローチェから、学校の一室へ
ショーが近づいたある日、
製作状況を確認するため、打ち合わせを行うことになりました。
当初は、
文化服装学園近くのカフェ「ベローチェ」で行う予定でしたが、
急遽、学校の部屋を借りられることになり、
文化服装学園の校内での打ち合わせとなりました。
久しぶりに足を踏み入れる、学校という空間。
どこか懐かしいような、
少し背筋が伸びるような、
不思議な感覚でした。
◾️ 学生たちの言葉
作品に込めた思い
9名のうち、
その日は8名が集まりました。
一人ずつ、自分の作品について説明していきます。
生地を選んだ理由、
シルエットへのこだわり、
テーマとの向き合い方。
言葉はまだ拙い部分もありますが、
その奥には、確かな熱量がありました。
「この服は、
夜に一人で歩くときの気持ちを表現しました」
そんな一言に、
こちらがハッとさせられる場面もありました。
◾️ ラストスパートへ
高まっていく熱量
この打ち合わせの日、
もう一つ、嬉しい知らせがありました。
文化出版局のご好意により、
ファッションポータルサイト
「fashionjp.net」に、
今回のファッションショー情報が掲載されることが決まったのです。
学生たちにとっては、
自分たちの活動が、
学校の外へと広がっていく瞬間でした。
「見てもらえる」
その実感は、
何よりの励みになったことでしょう。
◾️ 産学協力の、その先へ
点ではなく、線として
今回の取り組みは、
生地を提供して終わり、
というものではありません。
学生たちにとっては、
産地や業界を「現実のもの」として感じる経験になり、
産地にとっては、
若い感性と出会う場となりました。
こうした産学連携が、
一度きりで終わるのではなく、
線としてつながっていくこと。
それこそが、
業界全体にとっての財産になるのだと思います。
◾️ 変わり続ける業界の中で
若い力と、積み重ねた技術
ファッション業界は、
常に変化し続けています。
だからこそ、
若い力と、
長い時間をかけて積み重ねられた技術が出会うことには、
大きな意味があります。
今回の「産学」という取り組みは、
その可能性を、
静かに、しかし確かに示してくれました。
◾️ 次回予告
いよいよ、ファッションショー当日へ
次回は、
いよいよファッションショー当日の様子と、
その後に起きた出来事についてお話しします。
舞台裏で何が起きていたのか。
そして、この取り組みが、
どんな広がりを見せていったのか。
次回のコラムも、
ぜひお楽しみに。