2026.01.28:第43回 私の回顧録
仕入れ編
〜ホームページ 影響を受けたこと 2〜
みなさん、こんにちは。
今回も「糸偏コラム」にお越しいただき、ありがとうございます。
前回は、ホームページを形づくる上で大きなヒントとなった
「洋裁教室」との出会いについてお話ししました。
“ハードルを下げること”
“楽しさを先に伝えること”
その考え方が、私の価値観を大きく変えてくれた、
そんな回だったように思います。
今回はもうひとつ、
当時の私の考え方そのものに、深く影響を与えてくれた存在についてお話しします。
ホームページを作るとき、そして仕入れの仕事を続ける中で、
何度も立ち返ることになったサイトです。
その名は
「ひらけ服!オープンクローズ」
当時をご存じの方には、
少し懐かしく感じていただけるかもしれません。
◾️ 「ひらけ服!オープンクローズ」との出会い
「ひらけ服!オープンクローズ」は、
今で言うSNSがまだ一般的ではなかった時代に登場した、
とても先進的なコミュニティサイトでした。
今振り返ると、
「少し早すぎた存在だった」とさえ思います。
けれど、当時の私にとっては、
まさに“開かれた洋服の世界”そのものでした。
◾️ 島として設計された、ユニークな世界観
このサイトの最大の特徴は、その世界観にありました。
サイト全体が「ひとつの島」として設計され、
会員は「島民」と呼ばれます。
新しく参加する人は「みなと」から上陸し、
島の中には掲示板や交流の場が点在している。
今でこそ珍しくないコンセプトですが、
当時としては、かなり斬新なものでした。
◾️ 無料で、誰でも参加できるという強み
もうひとつ印象的だったのが、
無料で、誰でも参加できたという点です。
学生でも、
洋服が好きなだけの人でも、
誰でも島民になれる。
この「間口の広さ」が、
サイト全体の空気を、とても柔らかくしていました。
プロも、アマチュアも、初心者も、
同じ島にいる。
それが当たり前の世界だったのです。
◾️ ビジネスと趣味が、自然に共存していた
「ひらけ服!オープンクローズ」は、
完全な趣味サイトではありませんでした。
運営は、「デジマ」という生地屋さん向けの企業ページと連動し、
広告収入によって支えられていました。
それでも、商業色が前に出過ぎることはありません。
むしろ、
・ 企業が、きちんとそこにいること
・ プロが、実名で語っていること
その姿勢そのものが、信頼につながっていました。
◾️ 私が特に惹かれた「水のみ場」
数あるコンテンツの中で、
私が特に惹かれたのが
**「水のみ場」**と呼ばれる掲示板でした。
島の広場のような場所で、
誰でも質問を書き込み、誰でも答えることができる。
けれど、そこに流れていたのは、
驚くほど誠実な空気でした。
◾️ 知識が、惜しみなく共有されていた
たとえば、
「ウールとカシミヤって、何が違うんですか?」
そんな素朴な質問に対して、
原料の話から、繊維の太さ、風合い、価格差の理由まで、
丁寧な回答が返ってくる。
しかも、それを書いているのは、
メーカーや商社、販売の現場にいるプロたちです。
◾️ 上から目線ではない、プロの姿勢
印象的だったのは、
誰も“教えてやる”という態度を取っていなかったことです。
質問者を否定せず、
「いいところに気づきましたね」
「そこ、実は大事なんですよ」
そんな言葉が、ごく自然に交わされていました。
◾️ 見ているだけでも、学びがあった
私は、毎回書き込んでいたわけではありません。
むしろ、読む専門だった時期の方が長かったと思います。
それでも、
洋服を好きな人たちが、
どんなことに疑問を持ち、
どんな言葉で理解しようとしているのか。
それを知ることができたのは、
仕入れの仕事をする上で、非常に大きな財産でした。
◾️ 「知識は、信頼になる」という実感
この場所を通じて、
私は強く感じるようになりました。
正しい知識を、わかりやすく伝えることは、
確実に信頼につながる。
そしてその信頼は、
一朝一夕ではなく、積み重ねによって生まれるものだ、ということも。
◾️ 「OCアイランド」への進化
やがて「ひらけ服!オープンクローズ」は、
**「OCアイランド」**へと名前を変え、さらに進化していきます。
世界観はそのままに、機能はより洗練され、
コミュニティとしての完成度も高まっていきました。
◾️ 出店者として、島に関わるということ
ご縁があり、私もOCアイランドに、
自社のページを出店させていただくことになります。
島の中に拠点を持ち、
生地を紹介する立場として関わる──
それは、それまでの仕入れの仕事とは、
少し違った距離感で、洋服好きの方々とつながる経験でした。
掲示板で直接質問に答える、という関わり方ではありません。
私が力を入れたのは、
自社のホームページでの情報発信でした。
◾️ 自社サイトで伝えたかった「わかりやすさ」
OCアイランドへの影響により、
自社サイトでは、
・ 「生地の選び方いろいろ」
・ 「洋裁Q&A」
といったコンテンツを充実させていきました。
そんな視点で、生地を言葉にしていくことを意識しました。
◾️ メールで届く、リアルな声
サイトを通じて、
質問や相談がメールで届くことも増えていきました。
「この生地、夏でも暑くないですか?」
「家庭用ミシンでも縫えますか?」
「初心者でも扱いやすいですか?」
一つひとつの声に、
できる限り丁寧に、誠実にお答えする。
顔が見えないやり取りだからこそ、
言葉選びには特に気を配りました。
◾️ 伝えることで、気づかされたこと
質問に答えるためには、
自分自身が、生地を本当に理解していなければなりません。
その過程で、
自分がいかに“業界側の常識”で
物事を考えていたかに、
あらためて気づかされる場面も多くありました。
◾️ 仕入れの基準が、静かに変わっていった
こうした経験を重ねるうちに、
仕入れを見る目にも、少しずつ変化が生まれていきます。
「売れるかどうか」だけでなく、
「きちんと説明できるか」
「初心者にも納得してもらえるか」
そんな視点が、
自然と加わるようになりました。
◾️ サイト閉鎖という、ひとつの区切り
その後、OCアイランドはサービスを終了します。
あの場所がなくなると知ったとき、
正直、寂しさはありました。
けれど、
「すべてが終わった」という感覚はありませんでした。
あの島で育まれた考え方や空気感は、
すでに自分の中に、しっかりと残っていたからです。
◾️ 思想は、形を変えながら受け継がれていく
作る人と、使う人の距離が近いこと。
物語や背景を大切にすること。
モノの向こう側にある想いや文脈を、きちんと伝えること。
今では当たり前になった価値観の多くが、
あの場所には、すでに息づいていました。
◾️ 私の中に残り続けているもの
「ひらけ服!オープンクローズ」。
そして「OCアイランド」。
振り返ってみると、
この二つの存在が私に教えてくれたのは、
洋服や生地は、単なる商品ではなく、
人と人とをつなぐ“媒介”になり得る、ということだったのだと思います。
◾️ ホームページは、関係が生まれる場所
あの頃、私は次第に、
ホームページを
「売るためだけの場所」ではなく、
人と人が言葉を交わし、関係が育っていく場として
捉えるようになっていきました。
その考え方は、
その後の仕事や、ものづくりの姿勢にも、
静かに影響を与え続けています。
◾️ まとめ|影響は、静かに、深く
今回お話ししたサイトは、もう存在しません。
けれど、その影響は、今も確実に私の中で生きています。
伝えること。
共有すること。
開かれていること。
それらはすべて、
仕入れの仕事にも、
ホームページにも、つながっていました。
◾️ 次回予告
次回は、
取引先であった出版局との話をさせていただきます。
どのように取引が始まり、
どんな経験をさせてもらったのか。
また少し違った角度から、
私の回顧録をお届けできればと思います。
最後までお読みいただき、
ありがとうございました。