2026.01.19:第34回 私の回顧録
仕入れ編
〜サンプル作り〜
◾️ はじめに|思いがけない転機
みなさん、こんにちは。
糸偏コラムも第34回を迎えました。ここまで読み続けてくださっている皆さまには、改めて心より感謝申し上げます。
前回は、私の営業時代を総集編として振り返りました。
人との出会い、訪れた先々での出会い、そして生地を通じて築いた信頼関係。あの一年半は、今思い返しても非常に濃密な時間でした。
そんな営業生活が、ようやく板についてきた頃——。
思いがけず、私の仕事人生は次のステージへと進むことになります。
今回からお届けするのは、**「仕入れ編」**です。
営業とはまったく違う視点、違う責任、違う緊張感。
そして、結果的に私はこの仕入れの仕事に、退社するまでの約19年間携わることになります。
その最初の一歩が、今回お話しする**「サンプル作り」**でした。
◾️ 仕入れへの異動|慣れ始めた矢先の決断
当時、会社には専任の仕入れ担当者がいました。
しかし、その方の退職により、仕入れのポストが空くことになります。
その頃の私は、営業としてようやく仕事の流れを掴み始めたタイミングでした。
お客さまの顔と名前が一致し、訪問すれば自然と会話が生まれ、少しずつ信頼関係も築けてきた頃です。
正直に言えば、
「今、変わる必要があるのだろうか」
という気持ちもありました。
営業という仕事は、お客さまと直接向き合い、声を聞き、反応を肌で感じられる仕事です。
そのやり取りの中に、私はやりがいと手応えを感じ始めていました。
◾️ それでも惹かれた、仕入れという仕事
一方で、仕入れという仕事には、以前から強い興味がありました。
会社の根幹を支える役割。
「何を、どれだけ、どのタイミングで仕入れるか」が、売上にも在庫にも、ひいては会社の存続にも直結します。
小売業時代に、仕入れ業務を経験したこともありましたが、生地という商材は、また別の世界です。
色、素材、風合い、トレンド、価格、ロット——。
考えるべき要素は一気に増えます。
不安はありましたが、それ以上に
「やってみたい」
という気持ちが勝ちました。
こうして私は、営業から仕入れへと、業務の軸足を移すことになったのです。
◾️ 最初の大仕事|サンプル作り
仕入れ担当になって、最初に取り組んだ大きな仕事。
それが、サンプル作りでした。
この会社の販路は、主に通販。
つまり、お客さまは実店舗で生地を直接見ることができません。
だからこそ、
「サンプル=お客さまとの最初の接点」
と言っても過言ではありませんでした。
営業時代には、完成したサンプルを“使う側”でしたが、
仕入れでは、それをゼロから作る側になります。
この違いは、想像以上に大きなものでした。
◾️ 通販におけるサンプルの役割|写真では伝わらないもの
生地という商品は、非常に感覚的です。
色味の微妙な差、触ったときの柔らかさ、ハリ、落ち感、厚み。
写真や文章だけでは、どうしても伝えきれない部分があります。
だからこそ、お客さまはサンプルを手に取り、
「これなら使える」
「これはイメージと違う」
と判断されます。
つまり、サンプルの出来が悪ければ、その生地は最初から選択肢に入らない。
逆に言えば、サンプルがしっかりしていれば、売れる可能性は大きく広がる。
サンプル作りは、単なる付随作業ではなく、販売戦略そのものでした。
◾️ サンプルの種類|想像以上のバリエーション
では、実際にどのようなサンプルを扱っていたのか。
その全体像をご紹介します。
年間5回の無料サンプル発送
この会社では、年間5回、無料でサンプルをお客さまにお届けしていました。
構成は以下の通りです。
・春物
・春夏物
・盛夏物
・秋冬物
・冬物
特に春夏物・秋冬物は品種が多く、各400種前後。
盛夏物・冬物でも約200種はありました。
この時点で、年間約1,400種以上のサンプルを準備する必要がありました。
◾️ 定番サンプル|2年間継続の安心感
さらに、2年間継続して展開する定番サンプルも存在しました。
その数は約150種。
流行に左右されにくく、常に選択肢として置いておきたい生地。
お客さまとの信頼関係を支える、大切な存在でした。
◾️ セール向けサンプル|最後まで手を抜かない
シーズン後半には、格安奉仕品としてのサンプルも用意します。
これは年間3回、1回あたり約80種。
「セールだから適当でいい」
そんな考えは一切ありません。
むしろ、価格が安いからこそ、サンプルの印象が重要でした。
◾️ 数字で見る、サンプル作りの現実
これらをすべて合計すると、
年間1,790種ものサンプルを扱っていたことになります。
当時の顧客数は、約3,400社。
単純計算でも、見本生地の総数は年間600万枚超。
今、数字として見るだけでも、なかなかの規模感です。
当時は、その数字の重みを噛み締める余裕もなく、ただ必死でした。
◾️ サンプル一枚に込める責任
仕入れ担当になり、私は強く意識するようになりました。
「この一枚のサンプルが、お客さまの判断を左右する」
「この一枚で、生地の印象が決まる」
サイズ、カットの仕方、貼り方、表示内容。
どれ一つとして、いい加減にはできません。
営業時代にお客さまから聞いた声が、ここで生きてきました。
「このサイズが見やすい」
「生地の巾は?」
「この生地の用途は?何に向いているの」
それらを一つひとつ思い出しながら、サンプル作りに反映していったのです。
◾️ 仕入れ編のはじまりとして
こうして、私の仕入れの仕事は、「サンプル作り」から本格的に始まりました。
表に出ることは少ない仕事ですが、縁の下の力持ちのような存在で、この土台があってこそ、通販は成り立ちます。
営業とは違う形で、私は再び「生地」と深く向き合うことになったのです。
◾️ 次回予告|サンプルは、こうして作られていた
次回のコラムでは、
実際にサンプルがどのような工程を経て作られていたのか、
現場の流れを、もう少し踏み込んでお話しします。
仕入れという仕事のリアルを、
引き続きお届けしていきますので、どうぞお楽しみに。