2026.04.14:第119回 私の回顧録
FaW TOKYO
〜時代のスピードと、変化の本質〜
みなさん。こんにちは。
前回までのコラムでは、私の幼少期から学生時代、そして約40年にわたる糸偏の仕事について、できる限り時系列に沿ってお話ししてきました。
思い返せば、本当に長い年月でしたが、その一つひとつの経験が、今の自分の判断や価値観の礎になっていると、改めて実感しています。
その流れの中で触れた「FaW TOKYO(ファッション ワールド 東京)」について、今回はもう一歩踏み込み、現地で実際に感じた変化や気づきを、少し立体的にお伝えしていきたいと思います。
◾️ 展示会という“時代の縮図”
FaW TOKYOは、単なる商談の場ではなく、その時代のファッション業界の「現在地」をそのまま映し出す場所だと、私は感じています。出展企業の顔ぶれや提案内容、来場者の熱量、さらには会場全体の空気感に至るまで、すべてが一つの“時代の断面”として現れているのです。
これまで何度も足を運んできましたが、不思議なことに「同じ展示会だった」と感じたことは一度もありません。毎回必ず、新しい発見や違和感、あるいは時代の変化を示す小さなサインがあります。
それはトレンドの移り変わりであったり、技術の進化であったり、あるいはビジネスの前提条件そのものが変わっていることだったりします。今回もまた、「ああ、確実に時代は進んでいる」と実感させられる場面がいくつもありました。
◾️ 驚きの体験:チェックイン履歴の可視化
今回、特に印象に残ったのが「来場履歴のデジタル管理」という体験です。
展示会では、限られた時間の中でできるだけ多くのブースを回ろうとするため、どうしても一つ一つの滞在時間は短くなります。その場では理解したつもりでも、後から振り返ると「あの会社、どこだったか」「あの素材、どこのブースだったか」と思い出せなくなることは珍しくありません。
そんな中、今回の展示会では、各ブースでQRコードを読み取ることでチェックインが完了し、その履歴が後日メールで届く仕組みが導入されていました。
この体験は、想像以上にインパクトがありました。単なる便利さ以上に、「展示会の記憶がデータとして残る」という点に大きな価値を感じました。
◾️ 名刺交換からデータ管理へ
従来の展示会といえば、やはり名刺交換が基本でした。
しかし現実的には、すべてのブースで名刺交換をするのは時間的にも心理的にも負担が大きく、また、後から整理するのも一苦労です。
今回の仕組みでは、名刺を渡さなくても、QRコードを読み取るだけで情報が自動的に紐づけられます。
さらに後日届いたメールには、
・ 会社概要
・ 事業の特徴や強み
・ PDF資料へのリンク
・ メールアドレス、電話番号、Webサイト
といった情報が整理された状態でまとめられており、非常に見やすく、実用的でした。
単なる「記録」ではなく、「後から使える情報」として設計されている点に、強い合理性を感じました。
今後、このスタイルが標準になっていく可能性は高いと感じています。
◾️ “あとで考える”を支える仕組み
展示会の現場では、その場で判断を求められることが多く、どうしても直感的な選択になりがちです。しかし実際のビジネスにおいては、「一度持ち帰り、比較し、検討する」というプロセスが非常に重要です。
今回のような仕組みは、その“持ち帰り”の質を大きく高めてくれます。
情報が整理されていることで、冷静に比較ができ、時間を置いてから再評価することも可能になります。結果として、より納得感のある意思決定につながるのではないかと感じました。
来場者にとってはもちろん、出展者にとっても「きちんと検討してもらえる機会が増える」という意味で、大きなメリットがある仕組みだと思います。
◾️ 技術以上に価値がある「設計力」
こうした仕組み自体は、技術的にはそれほど難しいものではないでしょう。しかし重要なのは、それを「どういう体験として設計するか」という点にあります。
ただ便利なだけではなく、「使いたくなる」「あとで助かる」と感じさせる設計。この発想こそが価値を生んでいるのだと思います。
この考え方は、まさにものづくりにも通じる部分です。どれだけ良い素材や技術があっても、それをどう活かすかで結果は大きく変わる。改めて、設計の重要性を実感しました。
◾️ マッチングの進化がもたらす未来
今回の体験から感じたのは、今後さらに「マッチングの精度」が高まっていくという可能性です。
来場者の行動履歴や興味関心のデータをもとに、最適な出展企業を提案したり、事前に商談をセッティングしたりする仕組みが一般化していくかもしれません。
そうなれば、展示会は単なる「出会いの場」ではなく、「成果を生み出す場」へと進化していくでしょう。
効率と質の両立。その方向に確実に進んでいると感じました。
◾️ 変わらないテーマ:サステナビリティ
もう一つ、毎回感じるのが「サステナブル」というテーマの存在感です。
数年前に初めて強く打ち出されたときは、「時代のキーワード」という印象でしたが、今ではそれが“前提条件”として定着してきています。
今回も、環境配慮素材や循環型ビジネスの提案が数多く見られ、単なるコンセプトではなく、具体的な取り組みとして深化している印象を受けました。
◾️ ファッションテックの可能性と現実
以前、私はメタバース上でのバーチャルショップに興味を持ち、実際に開発企業とやり取りをしていました。
当時は非常に新鮮で、「これからはこういう時代になるのかもしれない」と感じたのを覚えています。しかし、実際には開発の遅れや実用性の課題もあり、最終的にはその構想を断念することになりました。
理想と現実のギャップ。この経験もまた、大きな学びでした。
◾️ 技術トレンドの移り変わり
その後、メタバースに代わるように注目を集めたのが生成AIです。
特に2022年以降、その普及スピードは驚くべきもので、多くの企業や個人が一気に関心を寄せるようになりました。
こうした流れを見ていると、「何が主役になるか」は非常に流動的であり、常に変化し続けていることを実感します。
◾️ リユースビジネスという新たな軸
今回、個人的に印象が大きく変わったのが「リユースビジネスEXPO」の存在です。
当初は、「新品の需要を奪うのではないか」という懸念がありましたが、実際に話を聞くと、その考えは大きく覆されました。
◾️ 新品とリユースの“共存”という考え方
セミナーで語られていたのは、「新品とリユースは競合ではなく、相互に価値を高め合う関係である」という考え方でした。
これは、かつての実店舗とECの関係と非常によく似ています。一方だけでは届かない顧客に、もう一方がアプローチすることで、全体としての価値が広がるのです。
この考え方は、非常に現実的で納得感がありました。
すべてが新しい領域であり、一つひとつ学びながら進める必要があります。
◾️ 身近にある変化の実例
実際に、私たちの身近なところでもその流れは見られます。
例えば、ユニクロが行っている衣料回収とリメイクの取り組みは、その代表的な例です。ただのリサイクルではなく、新たな価値として再提案している点が印象的です。
こうした動きを見ると、リユースはすでに特別なものではなく、日常の中に自然に溶け込み始めていると感じます。
◾️ 古着ブームと“価値の再発見”
私自身も、最近は古着に触れる機会が増え、過去の名品を探す楽しさを改めて感じています。
昔の服には、今では見られないディテールや素材の魅力があり、それを発見する喜びは非常に大きいものです。
これは単なる懐かしさではなく、「価値を見直す」という行為なのだと思います。
◾️ スピードの時代に求められるもの
今回の展示会を通じて強く感じたのは、あらゆるものの変化スピードの速さです。
技術も、トレンドも、ビジネスモデルも、想像以上のスピードで更新されていきます。
その中で大切なのは、すべてを追いかけることではなく、「何が本質なのか」を見極めることだと感じました。
◾️ 変化の中で軸を持つということ
新しいものを受け入れる柔軟さと、自分の軸を保つ強さ。この両方が求められる時代です。
何を選び、何を選ばないか。その判断こそが、これからの価値を左右していくのだと思います。
◾️ 次回へつながる視点
FaW TOKYOは、一度の来場ではとても語りきれないほどの情報量と示唆に富んだ場です。
今回お伝えした内容も、その一部に過ぎません。
次回も引き続き、別の視点からFaW TOKYOについてお話ししていきたいと思います。
今回はここまでです。
次回もぜひ楽しみにしていてください。