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私の回顧録

2026.04.02:第107回 私の回顧録

中国縫製の日本営業6
〜壁と向き合うこと〜

みなさん。こんにちは。

前回のコラムでは、中国縫製の強みとして見えてきた 「他では対応できないものを作れる」という価値についてお話ししました。

量産型では対応できない細かな要望や、 既存の枠組みから外れた仕様。 それらに応えられる“個別対応力”は、 確かに一つの武器になり得るものでした。

しかし、その強みを活かそうとすればするほど、 同時に浮かび上がってきたのが、 見て見ぬふりをできない“構造的な課題”でした。

強みとは、持っているだけでは意味がありません。 それをどう活かし、どう安定させ、 どう継続可能な形にするのか。

そこまで落とし込めて初めて、 ビジネスとして成立します。

そして私は、まさにその「次の壁」に直面しました。

「強みはある。  しかし、それが回らない。」

今回は、その現実の中で私が何を考え、 どのように試行錯誤し、 どんな壁にぶつかっていったのか。

その“現場のリアル”を、できるだけ正直にお伝えします。

次の壁

◾️ 受注が増えるほど、問題も増えていく現実

ビジネスにおいて、受注が増えることは本来喜ばしいことです。 売上が上がり、評価され、可能性が広がる。

しかしこの時の私は、その「当たり前の喜び」に対して、 どこか素直に喜びきれない自分がいました。

なぜなら、 受注が増えるのと同時に、 確実に“トラブル”も増えていったからです。

・ 仕様違い
・ 認識のズレ
・ 納期の遅れ
・ 品質に関するクレーム

一つひとつは小さな問題でも、 数が増えることで、 それは一気に“構造的な不安”へと変わっていきます。

「このまま増やしていいのか」 「むしろ止めるべきではないか」

売上を追う営業としては、 本来考えたくない問いでした。

しかし、この段階でそれに向き合わなければ、 後戻りできない状況になる—— そんな予感がありました。


◾️ 「増やすこと」よりも「守ること」

そこで私は、一つの決断をします。

それは、 “攻める営業”から“守る営業”へと 一時的に視点を切り替えることでした。

新規を増やせば売上は伸びます。 しかし、その裏側で既存の取引品質が崩れれば、 それは一瞬で信頼を失うことにつながります。

積み上げたものは崩れやすく、 失った信頼は簡単には戻らない。

だからこそ私は、 あえてこう考えました。

「どう増やすか」ではなく、 「どう崩さないか」。

この視点に立ったとき、 今やるべきことは明確になっていきました。

それは、 “拡大”ではなく“安定化=守ること”。

派手さはありませんが、 この判断が後の大きな分岐点になっていきます。

守ること

◾️ 最大の問題は「間違いが起きやすい構造」

様々なトラブルを一つずつ振り返っていく中で、 ある共通点に気づきました。

それは、 「同じようなミスが繰り返されている」ということです。

つまり問題は、 個人のミスではありませんでした。

誰かが気をつければ防げる、 というレベルではなく、

“誰がやっても起きてしまう構造”

これこそが最大の問題でした。

この構造を変えない限り、 どれだけ努力しても、 同じことが繰り返される。

逆に言えば、 ここに手を入れなければ、 未来は変わらない。

そう確信した瞬間でもありました。


◾️ 理解の壁という見えない障害

最初に立ちはだかったのは、 「理解の壁」でした。

言語の違いは、もちろんあります。 しかし本質的な問題は、そこではありませんでした。

文化の違い。 仕事に対する考え方の違い。 優先順位の置き方の違い。

同じ言葉を使っていても、 その背景にある“前提”が違う。

例えば、 「このくらいで大丈夫だろう」という感覚。

日本側と中国側では、 その基準が微妙にズレている。

そのわずかなズレが、 積み重なることで大きな誤差になる。

そしてそれは、 完成品として初めて顕在化するのです。


◾️ 伝言ゲーム化する情報伝達

さらに問題を複雑にしていたのが、 情報伝達の構造でした。

受注元 → 私 → 貿易担当 → 工場

この流れの中で、 情報は何度も“解釈”され、 何度も“翻訳”されます。

その過程で、 少しずつ意味が変わっていく。

悪意はありません。 誰も間違えようとしていない。

それでもズレる。

これが、 いわゆる“伝言ゲーム”の怖さです。

しかもこの構造は、 簡単には変えられない。

だからこそ、 より精度の高い「伝え方」が求められました。


◾️ ルールなき受注体制の危うさ

もう一つの大きな問題は、 「ルールが存在しない」ということでした。

・ 誰が確認するのか
・ どのタイミングでチェックするのか
・ どこまでが責任範囲なのか

これらが曖昧なまま、 業務が進んでいました。

柔軟に対応できる反面、 責任の所在がぼやける。

そして問題が起きたとき、 原因が特定できない。

この状態は、 長く続けられるものではありませんでした。


◾️ 必要だったのは「共通言語」

ここまでの問題を整理したとき、 一つの結論にたどり着きます。

それは、 「共通言語の必要性」です。

誰が見ても同じ解釈になる基準。 誰が読んでも同じ理解ができる資料。

これがなければ、 どれだけ努力してもズレはなくならない。

逆に言えば、 これさえ整えば、 多くの問題は未然に防げる。

私はそう考えました。


◾️ 採寸マニュアルという再挑戦

そこで取り組んだのが、 採寸マニュアルの“再構築”でした。

過去にも作成していましたが、 今回はさらに踏み込み、

・ 誰が見ても迷わない
・ どの工程でも使える
・ 言語を超えて伝わる

そんなレベルを目指しました。

これは単なるマニュアルではなく、 “共通言語そのもの”を作る作業でした。

再挑戦

◾️ 週1回、半年という現実的な計画

そこで取り組んだのが、 採寸マニュアルの“再構築”でした。

過去にも作成していましたが、 今回はさらに踏み込み、

・誰が見ても迷わない ・どの工程でも使える ・言語を超えて伝わる

そんなレベルを目指しました。

これは単なるマニュアルではなく、 “共通言語そのもの”を作る作業でした。


◾️ 週1回、半年という現実的な計画

私は貿易担当に提案しました。

週に一度、定例で打ち合わせを行い、 半年かけて完成させる。

短期的な売上よりも、 長期的な安定を優先する。

この判断は、 決して軽いものではありませんでした。

しかし、それでも 「ここを変えなければ未来はない」

そう確信していました。


◾️ 動き出せない現実とのギャップ

しかし、現実は想像以上に厳しいものでした。

打ち合わせは、すぐには始まりません。 日々の業務に追われ、後回しになる。

そして、 ようやく実現したのは1ヶ月後。

しかしその後、 継続されることはありませんでした。

理想と現実のギャップを、 強く感じた瞬間でした。


◾️ 現場にある“余裕のなさ”という本質

ここで見えてきたのは、 現場の“余裕のなさ”でした。

・ 受注を取らなければならない
・ コンペに勝たなければならない
・ 資金回収は遅い

この中で、 未来への投資に時間を割く余裕はない。

これは責められることではなく、 “現実”でした。


◾️ 短期と長期、その埋まらない距離

私が見ていたのは「未来」。
現場が見ていたのは「今」。

どちらも正しい。

しかし、 その視点の違いが、 大きなズレを生んでいました。

このズレを埋めることの難しさを、 痛感しました。


◾️ それでも守り続けた既存顧客

私は、新規を追うことよりも、 既存顧客を守ることを選びました。

一件一件、丁寧に対応し、 できる限りのフォローをする。

派手さはありませんが、 これが信頼の本質だと思いました。


◾️ 価値が見えにくい存在になる

しかし工場側から見れば、 私は“すぐに数字を作らない存在”でした。

仕組みを作ろうとする営業。
時間をかけようとする人間。

短期的には、 価値が見えにくい存在です。

そして最終的に、 契約解除という結果に至りました。


◾️ それでも最後までやり切る責任

それでも私は、 途中で手を離すことはしませんでした。

自分が関わった取引先。 そこには責任があります。

最後までやり切る。

それが、 自分なりの“仕事のけじめ”でした。


◾️ まとめ

今回の経験を通して、 最も強く感じたことがあります。

それは——

強みは、それ単体では意味を持たない ということです。

どれだけ優れた技術があっても、 どれだけ他にない対応力があっても、

それが 「誰でも再現できる形」 「安定して提供できる状態」

になっていなければ、 ビジネスとしては成立しません。

そしてもう一つ。

「できる」と「任せてもらえる」は違う。

これは非常に重要なポイントです。

技術的にできる。 対応もできる。

しかし、 “安心して任せられるかどうか”は別問題です。

そこに必要なのは、 再現性と安定性。

つまり、 “仕組み”です。

さらに言えば、 ビジネスは「短期」と「長期」のバランスの上に成り立っています。

今を回さなければ、未来はありません。 しかし、未来を作らなければ、今はいずれ崩れます。

この両立の難しさ。

私はこの時期、 その現実と真正面から向き合いました。

結果として、 形にはなりませんでした。

しかし、 この経験は確実に残りました。

仕組みの重要性。 共通言語の必要性。 現場との温度差の難しさ。

すべてが、 次の仕事へとつながっていきます。

これは失敗ではありません。

“次に進むために必要だった経験”

そう、今ははっきりと言えます。


◾️ 次回予告

次回は、この「中国縫製の日本営業」という章の総集編として、 これまでの流れを整理しながら、得た本質を深く掘り下げていきます。

そして次回も、一つの仕事にフォーカスし、 その時のリアルな判断と背景をお伝えします。

ぜひ、次回も楽しみにしていてください。



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