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私の回顧録

2026.03.26:第100回 私の回顧録

生地卸売業での20年間
〜総集編〜

みなさん。こんにちは。

前回のコラムでは、「グループ企業全体の総集編」についてお話ししました。 さまざまな現場を見てきた中で、最終的に強く感じたのは「仕事の本質は人である」という、ごくシンプルでありながら揺るぎない事実でした。

そして今回は、いよいよ第100回という節目の回です。 この節目にあたり、これまでの回顧録の中でも、私自身にとって最も長く、そして最も濃密な時間を過ごした **生地卸売業での20年間(2000年〜2020年)**を、総集編としてお届けします。

前回までお伝えしてきた「グループ企業〜リアルな現場〜」のすべては、この20年間の中に含まれています。 言い換えれば、この20年があったからこそ、あの一つひとつの現場の経験が存在しているとも言えます。

またプライベートに目を向ければ、長女の誕生というかけがえのない喜びがあり、同時に両親との別れという大きな出来事もありました。 仕事と人生が密接に重なり合いながら進んでいった、まさに「自分そのもの」と言える20年間でした。

今回はそんな、人生の軸となった時間を、少し丁寧に、そして一つひとつの出来事に思いを重ねながら振り返っていきたいと思います。

まとめ

◾️ 最初の衝撃「生地の山」という世界

その会社に初めて足を踏み入れたときの光景は、今でも鮮明に覚えています。 まさに「生地の山」という言葉がぴったりでした。

倉庫いっぱいに積み上がる反物。 整然と並びながらも圧倒的な量を誇るその光景は、これまで見てきたどの売り場とも違い、まるで別の世界に来たかのような感覚でした。 色、柄、素材、それぞれが主張しながら存在している空間は、単なる商品棚ではなく、一つの“素材の宇宙”のようでもありました。

それまでは、完成された「製品」を扱う仕事をしてきました。 しかしここでは、その前段階である「生地そのもの」が商品です。 この違いは想像以上に大きく、単に扱うものが変わるというだけでなく、商売そのものの見方や考え方を根本から変えるものでした。

なぜこの世界に来たのか。 今振り返ると、小売やアパレルを経験してきた中で、「もっと川上を見てみたい」という気持ちが、自然と自分をここへ導いたのだと思います。 その一歩が、これほど長く続く道になるとは、その時はまだ想像もしていませんでした。


◾️ はじめての営業で味わった現実

今でもはっきり覚えています。最初の営業先。 緊張と期待を抱えて臨んだ初日は、結果としてまったく売れませんでした。

どう話していいのかも分からず、何を伝えればいいのかも見えない。 ただ時間だけが過ぎていく感覚は、これまでに経験したことのないものでした。 「営業とはこんなにも難しいのか」と、早くも現実の厳しさを突きつけられた瞬間でもありました。

そして2日目。 前日の反省も整理しきれないまま臨んだ営業でしたが、偶然にも売上が立ちました。 しかしそれは、自分の力というよりも、タイミングや運に助けられたものであったと、今でははっきり分かります。

売上が上がらない日、会社に電話をしたときのこと。 番頭さんからかけられた言葉があります。

「そんな日もあるよ。車の運転だけは気をつけろよ」

たった一言ですが、その言葉には不思議な重みと優しさがありました。 結果だけではなく、「無事に帰ってくること」を気にかけてくれるその姿勢に、どれだけ救われたか分かりません。 この言葉は、今でも私の中で大切に残り続けています。

はじめての営業

◾️ 催事で出会った忘れられない常連さん

催事の現場では、本当に多くの出会いがありました。 その中でも、特に印象に残っているのが、ある常連のお客様です。

最初にお会いしたときは、正直なところ「少し変わった方だな」という印象でした。 しかし、その方は毎年必ず足を運んでくださる。 その継続の積み重ねを目の当たりにするうちに、次第にその方の凄さに気づいていきました。

あるとき、その方が何気なく話された言葉があります。 「チュールレースのスカラップを小鋏で切っている時間が一番楽しい」

その言葉を聞いたとき、ただの作業ではなく「楽しみ」として向き合っている姿勢に深く心を打たれました。 そこには長年積み重ねてきた経験と、ものづくりへの純粋な愛情がありました。

仕事を“こなす”のではなく、“味わう”。 その姿勢は、私にとって大きな学びでした。 お客様でありながら、人生の先輩として多くのことを教えていただいた存在です。


◾️ 営業先で広がった人とのつながり

営業という仕事は、単に商品を売るだけではなく、人との関係を築く仕事でもあります。 通い続けることで少しずつ距離が縮まり、やがて信頼関係が生まれていきます。

仕事の話だけではなく、お酒の席で見える素顔や、日常の何気ない会話の中にこそ、その人の本質が現れることも多くありました。 そこから触れる価値観や人生観は、自分にとって非常に大きな学びとなりました。

営業という立場でなければ出会えなかった人たち。 その一人ひとりとの関わりが、自分の考え方や仕事の姿勢を少しずつ形作っていったのだと思います。

結果として、営業という仕事は「人を通じて自分を磨く仕事」だったのかもしれません。


◾️ 仕入れという“天職”との出会い

仕入れの仕事は、私にとってまさに“天職”と呼べるものでした。 最初はサンプル作りから始まり、素材の違いや規格、用途ごとの特性を一つひとつ覚えていく日々。決して派手な仕事ではありませんが、その積み重ねが確実に自分の中に蓄積されていきました。

経験を重ねる中で、少しずつ「何を選ぶべきか」が見えてくるようになります。 ただ良いものを選ぶのではなく、「誰が、どんな場面で、どのように使うのか」までを想像しながら選ぶ。その視点が持てるようになったとき、仕入れという仕事の奥深さを実感しました。

そして気づいたのは、仕入れとは“売ること”を前提とした仕事であるということ。 感覚や好みだけでは成立せず、必ず市場とつながっていなければなりません。 そのバランスを取りながら判断していく日々は難しくもあり、同時に大きなやりがいでもありました。

選んだものが売れたときの手応え。 それは単なる結果以上に、「自分の判断が市場とつながった」という実感でした。 この仕事に出会えたことは、自分のキャリアにおいて大きな意味を持っていたと感じています。


◾️ 苦しかったホームページ開設前夜

正直に言うと、ホームページを開設する前の時期が、これまでの仕事の中で最も苦しかった時期でした。 思うように結果が出ない中で、何を変えればいいのか、どこに突破口があるのかを模索し続ける日々。

周囲の環境も大きく変わりつつあり、これまでのやり方だけでは通用しなくなってきているという感覚もありました。 しかし、新しいことに踏み出すには不安もある。その狭間で、葛藤しながら時間が過ぎていきました。

それでも、「このままではいけない」という想いだけは消えませんでした。 その想いが、結果的にホームページ開設という一歩につながっていきます。

振り返れば、この苦しい時間があったからこそ、自分なりに考え抜く力が養われたのだと思います。 順調な時には見えないことも、苦しい時期にははっきりと見えてくる。 そんな経験でもありました。


◾️ 発信することで生まれた変化

ホームページは、作っただけでは意味がありません。 むしろ本当に重要なのは、その後の運用と発信の積み重ねです。

最初は手探りでしたが、「パパソー親バカ日記」や「服作り工房」といったコンテンツを通じて、少しずつ自分の言葉で発信を続けていきました。 すると、徐々にですが反応が返ってくるようになります。

それは単なる問い合わせや注文だけではなく、「読んでいます」「楽しみにしています」といった声でした。 その一つひとつが、自分にとって大きな励みになりました。

情報発信は、単なる宣伝ではない。 “関係性を築くためのツール”であるということを、実感として理解した瞬間でした。

顔が見えない相手とも、言葉を通じてつながることができる。 その可能性に気づいたことは、仕事の幅を大きく広げるきっかけとなりました。


◾️ 出版社との関わりで得た新たな視点

出版社との関わりも、自分にとって大きな転機の一つでした。 それまでの「売る」「仕入れる」という視点に加えて、「どう見せるか」「どう伝えるか」という新しい軸が加わったからです。

広告という世界に触れることで、同じ商品でも見せ方一つで印象が大きく変わることを実感しました。 言葉選びや構成、写真の見せ方など、細部にまで意図が込められていることに気づかされました。

企画に応募して大賞をいただいたことや、娘を読者モデルとして参加させていただいた経験。 さらに布地図鑑の監修に関わらせていただいたことなど、どれもが新鮮で刺激的な体験でした。

これらの経験を通じて、自分の中の視野は確実に広がりました。 単なる実務の枠を超え、「伝えること」そのものの価値を深く考えるようになったのです。


◾️ 産地で感じた“本物”の価値

各地の産地を訪れる中で、日本のものづくりの凄さを肌で感じる機会に恵まれました。 現場に足を運ばなければ分からない空気感。そこには、長年積み重ねられてきた技術と誇りがありました。

作り手の方々の言葉や表情から伝わってくるのは、単なる作業ではなく「仕事に対する覚悟」のようなものです。 一つひとつの工程に意味があり、その積み重ねが品質を支えていることを実感しました。

こうした経験を通じて、生地に対する見方も大きく変わりました。 単なる商品ではなく、「背景を持った存在」として捉えるようになったのです。

そして、そのつながりは今でも続いています。 人と人との関係が、時間を超えて価値を持ち続ける。 それを実感できたことは、大きな財産となっています。


◾️ 産学連携という新しい挑戦

未来に向けて何かできないか。 そんな想いから始めたのが、学生と企業をつなぐ産学連携の取り組みでした。

学生の自由な発想は、ときに既存の枠を軽々と飛び越えてきます。 一方で、企業や産地には現実的な制約や条件がある。 その両者が交わることで、新しい視点や可能性が生まれる瞬間がありました。

もちろん、すべてがうまくいくわけではありません。 しかし、その試行錯誤の過程こそが大きな意味を持っていたと感じています。

小さな取り組みではありましたが、「次の世代につなぐ」という視点を持てたことは、自分にとって非常に重要な経験となりました。


◾️ 海外で広がった仕入れの視野

必要に迫られて、中国へ仕入れに行くことになったとき、不安と期待が入り混じっていました。 言葉や文化の違いに戸惑いながらも、一歩踏み出したことで見えてきた世界がありました。

同じ「ものづくり」であっても、そのアプローチや考え方は大きく異なります。 スピード感やコスト意識、交渉の進め方など、日本とは違う価値観に触れることで、自分の中の基準が広がっていきました。

時には戸惑い、時には驚きながらも、そのすべてが学びでした。 違いを知ることは、決して否定することではなく、自分の引き出しを増やすことなのだと感じました。

この経験は、その後の仕入れ判断にも大きな影響を与えています。


◾️ 人との出会いが積み重なった20年

仕入先、取引先、産地の方々。 この20年間で出会った人の数は、数えきれないほどです。

しかし、その一人ひとりとの出会いが、確実に自分の中に積み重なってきました。 仕事の内容以上に、「誰と関わったか」が、その時間の価値を決めていたように思います。

楽しい出会いばかりではなく、ときには厳しい関係や難しい局面もありました。 それでも、そのすべてが自分を形作る要素となっています。

もしこれらの出会いがなかったとしたら、この20年はまったく違うものになっていたでしょう。 そう思えるほど、人との関わりは大きな意味を持っていました。


◾️ グループ企業の広がりと経験

グループ企業が増えていく中で、関わる領域も自然と広がっていきました。 店舗、縫製工場、海外拠点など、それぞれの現場にはそれぞれの課題と価値があります。

一つの会社だけでは見えなかった全体像が、複数の視点を持つことで立体的に見えてくるようになりました。 それは単なる知識の増加ではなく、理解の深まりでもありました。

異なる現場での経験が互いに影響し合い、自分の中で一つの軸としてまとまっていく。 その感覚は、非常に貴重なものでした。


◾️ 合弁企業で感じた“人の本質”

中国との合弁企業に関わる中で、強く感じたことがあります。 それは「国民性」という一括りでは語れない、個人の違いの大きさです。

同じ国、同じ環境であっても、考え方や行動は人それぞれ。 結局のところ、最終的に向き合うのは“個人”であるという現実でした。

文化の違いを理解することも大切ですが、それ以上に重要なのは「相手を一人の人として見ること」。 その視点を持てたことで、関係性の築き方も大きく変わりました。

この経験は、「人とは何か」を改めて考えるきっかけにもなりました。


◾️ 20年間を支えた会社という存在

20年間在籍した会社の存在は、自分にとって非常に大きなものでした。 この環境があったからこそ、これだけ多くの経験を積むことができました。

仕事を教えてくれた人、支えてくれた人、そして時にはぶつかり合った人。 そのすべてが、自分の成長に必要な存在でした。

環境が人を育てる。 この言葉を、実体験として深く理解することができました。


◾️ まとめ

今回の100回目のコラムを通して、改めて強く感じたことがあります。 それは―― **「人との積み重ねこそが、人生であり仕事である」**ということです。

この20年間には、本当にさまざまな出来事がありました。 うまくいったこともあれば、思うようにいかなかったこともあります。 しかし、そのどの場面にも必ず「人」が関わっていました。

助けてくれた人、支えてくれた人、時にはぶつかり合った人。 その一つひとつの関わりが、自分の中に積み重なり、今の自分を形作っています。

仕事の方法や仕組みは、時代とともに変わっていきます。 しかし、人との関係性だけは変わるものではありません。 むしろ、その積み重ねこそが、自分自身の価値をつくっていくのだと感じています。

決して平坦ではなかったこの20年。 だからこそ、一つひとつの出来事に意味があったと、今ははっきりと言えます。

そして何よりも、ここまで関わってくださったすべての方々に、心から感謝しています。 本当にありがとうございました。


◾️ 次回は新たなステージへ

今回は第100回という節目として、20年間の総集編をお届けしました。 一つの区切りではありますが、同時に新たなスタートでもあります。

次回からは、これまでの経験を踏まえながら、また違った視点でお届けしていきたいと考えています。 これまで積み重ねてきたものを土台にしながら、新しい価値や気づきを共有していければと思います。

どのような展開になるのか。 自分自身も楽しみにしながら進んでいきたいと思います。

どうぞ、次回も楽しみにしていてください。



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